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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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700 温度差



「くっそ!!」

 しばらくして、悔しそうなジンの声が聞こえた。

 ジンはあれからずっと奮闘していたが、結局フェリクス王には手も足も出なかったのである。

 初手から想定を崩され、態勢を立て直す時間すら与えてもらえず、ずっとフェリクス王優勢のままで終わり。

 試されていたとは聞こえがイイが、弄ばれたと言っても過言ではない。フェリクス王は、かなり手加減してくれていた様に見えた。だが、残念ながらその差は歴然だった。



 負けたジンは悔しいだろうが、強者と戦えた喜びもあるのか、悔しそうな声に若干嬉しそうな声が混じっている。

 しかし、逆にここまで相手との力量に大差があると、フェリクス王的にはつまらないのかもしれない。

 勝負は、拮抗する場面や負けそうな瞬間があるから、面白味が湧くというもの。

 それが微塵もないとなれば、まるで小さな子供と遊ぶのと同じで、まったく戦った気がしない。むしろ、不完全燃焼でモヤモヤする。

 きっとフェリクス王は、いつもそんな感じなのだろう。

 だから、フェリクス王は普段から人など相手にせず、魔物を狩りに行くのだ。身も心も潤わせる為に……。

 


 そんなフェリクス王とは違った意味で、ジンも不完全燃焼であった。

 フェリクス王が強過ぎて分からないが、ジンとてウクスナ公国では5本の指に入る程の実力を持つ剣士。

 同期のレイと切磋琢磨し、魔物との戦いも誰よりも数多くこなしてきた。だからこそ、己の強さには自信があったのだ。




 ーーその結果がコレである。




 フェリクス王相手に互角とまでは言わないが、少しは健闘出来るのでは? と考えていたのに、終始フェリクス王のペースで、己の戦いをさせてもらえなかった。それ故に、ジンも心のどこかモヤッとした気持ちが、残っていたのであった。



「一矢報いてくれ」

 レイとすれ違う時にジンは、彼の肩に手を掛け小さな声で言った。

 正直なところ、レイですらどうにか出来るとは思えない。だが、レイは自分達がやっているのを見ていた。だから、初見で挑んだ自分より、彼の戦い方やクセを少しは知ったハズ。

 ならば、自分より良い戦いになるかもしれない。

 己の負けがレイの糧になるなら、この戦いは無駄ではなかった。

 ジンはレイが一矢報いる事で、自分の自尊心が少し癒せる様な気がしたのである。



 ジンとの勝敗が呆気なくついたが、モルテグル兵達の熱気はまだまだ収まる様子がなかった。

 むしろ、まるで自分が対戦したかの様に、力が入っていたのか、額から流れる汗を拭う。こんなにも息を呑む戦いを見たのは久々であった。

 

 

「次は私が」

 先程使ったコインをジンに渡し、今度はレイが所定の位置に着けば、再び場には静けさと緊張感が流れた。

 今度はどんな戦いが見られるのか、逃すまいと瞬きさえ忘れる。

 レイからコインを受け取ったジンは、流れる汗と乱れる息を整えていたが、フェリクス王はどこ吹く風だ。

 同じ時間を戦ったハズなのに、息は微塵も乱れず、早朝の風くらいに爽やかである。



 眉に掛かった髪を掻き上げているが、汗すら掻いている様には見えなかった。

 むしろ、その髪を掻き上げる仕草がカッコ良過ぎて、男ですら見惚れる。



「よろしくお願いします」

 軽く頭を下げ、軽く剣を構えるレイ。

 その声から強さが感じられ、ジンが反撃させてもらえなかった分、少しでも攻撃に持って行こうという意気込みを感じた。

 それに比べフェリクス王は飄々としていて、余裕しかない。

 戦ってもいないのに、雰囲気から大差が付いている様な気がした。



「では」

 ジンがコインを構えれば、レイの目はさらに鋭くなる。

 だが、フェリクス王はそんなレイなど見ておらず、むしろ何か気になるのか、視線だけどこかに動かしていた。

 王竜の攻撃でキラーアントも一旦は鳴りを潜めたが、殲滅した訳じゃない。なんなら、この町の周りには他にも魔物が彷徨いている。

 フェリクス王は、その気配を読んでいるのかもしれない……が、それがまた余裕ある感じに見えて憎らしい。




 ーーピン!



 

 ジンがコインを弾く音がして、やっとフェリクス王も視線を戻した。

 だが、剣を構える様子はなく自然体。それを隙だらけと見るか見ないか、まるで己の実力を試されている様だった。

 しかし、フェリクス王はその立ち姿すら、凛として美しい。

 そう感じるのは、勿論フェリクス王の美貌や引き締まった体躯だけではない。誰も寄せ付けない様な威圧感と、神々しさすらあるその雰囲気だろう。

 フェリクス王の存在は、武王どころか武神の様だった。

 真の強者とは、その存在一つで皆を唸らせ黙らせるのである。




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