698 強者に挑む者達
「で、どっちからやる?」
周囲に結界が、しっかり張り巡らされたのを確認すると、フェリクス王は腰に着けていた対人用の剣を抜いた。
対魔物用とは違って、刀身はまっすぐな大剣だが、当然真剣だ。
なにせ、この国に遊びに来た訳じゃないので、手合い用の刃を潰した剣など持ち合わせていない。
ジンかレイに頼めば、用意するだろうが、当人達が持って来ていないのだから、まさに真剣勝負をするつもりなのだろう。
莉奈はそれを見て、何だか数年前に出場した空手試合の、あのヒリつく感覚を思い出していた。
試合前のイイ緊張感と、ワクワクドキドキの高揚感。
緊張で手足が強張る人もいるが、莉奈は逆に早く試合がしたくて、身体がウズウズするタイプだった。
その感覚を思い出し、何だか懐かしいなと莉奈は思う。
しかし、己の拳と足で戦う空手でさえ、ケガなど日常茶飯事なのだから、真剣ともなればさらに危険度は増すだろう。
フェリクス王がケガをする想像はつかないが、ジンとレイは普通にありそうだ。フェリクス王が何かしなくとも、何かの拍子で……なんて事もありえる。
莉奈は、念の為に魔法鞄に手を突っ込み、魔法薬がどのくらいあるか確認しておく。
ガサガサとあされば、意外とまだポーションを持っている事に気付いた。
きっと、色んな人から対価や報酬として、ポーションを貰っているからだろう。
勝手に魔法薬を作ったり色々して来たが、まだまだ残っているし、何だかんだと高級中級低級と揃っている。
ゲオルグ師団長に「ポーションをあげよう」と貰う事が多々あったが、ありがたい事に高級ポーションも混じっていたらしい。
おかげで、ジンやレイがケガをしたら、すぐにぶっかけてあげる事が出来そうだ。
何なら、シュゼル皇子に貰った"エリクサー"もあるし、心臓さえ動いていればどうにかなりそうである。
「よし」
確認し安心した莉奈を見て、シュゼル皇子が優しく微笑んでいた。
どうやら、莉奈が何故、魔法鞄をあさっていたのか、分かったらしい。
ただ観戦するだけでなく、何かあった時を考え備える莉奈を見て、彼女らしいなと笑みが溢れたのだった。
莉奈が、自分達の身を心配してくれているとは知らないジンとレイは、フェリクス王にどちらからと言われ、顔を見合わせていた。
こんなにすぐ快諾されるとは思わず、どちらが先にやるかを考えていなかったのだ。
「とりあえず、お前からやるか?」
ジンを見たフェリクス王。
名前を呼ばれたジンは、反射的に身体が浮き心臓も跳ね上がる。
これから手合わせしてもらえると思うと、武者震いがした。
「よろしくお願いします!!」
朝焼けの残る空には、少し緊張混じりのジンの大きな声が響く。
その光景はまるで、強者に挑む青年達を歓迎しているかの様だった。




