695 強者〈魔王〉に挑む者
「どういう事だよ?」
フェリクス王の存在で、皆がソワソワしているのをよそに、エギエディルス皇子が兄王に問う。
元より侵攻しようと企んでいるアドルフが、本気で来るとはどういう事かと。
「ただでさえ、この国へ侵攻しようと目論んでいる方ですよ? モルテグルの聖木が聖樹となったと知れば……考えるまでもないでしょう」
「あー」
シュゼル皇子に言われたエギエディルス皇子は、そういう事かとすぐに納得した。
難攻不落と言われるヴァルタール皇国にいると、他国との争い事は無縁過ぎて忘れるが、他国では良くある話。
一見仲良くしている様に見えても、それは表面上だけなんて事も多々ある中、グルテニア王を名乗るアドルフとウクスナ公国のアーリャは、一触即発と言ってイイ。(一方的な様な気はするけど)
ただでさえそうなのに、モルテグルの聖木が聖樹になりました……となれば「良かったですね」とはなる訳もなく、侵攻に拍車が掛かる事は想像に容易い。
「参戦してみたらどうだシュゼル?」
「笑えない冗談ですね」
「確かに笑えねぇな」
自分で振っておいてナイと思ったのか、フェリクス王は嘲笑していた。
たとえ、冗談でもバカな事を言ったと。
莉奈はフェリクス王達の会話を聞いていて、つくづく思う。
本当に、他国侵攻に興味がないんだなと。
大国や強国であればある程、力を誇示して他国へ領土侵犯したがるものだ。だけど、フェリクス王達はそれをしない。強者とは本来、こういう人達を示す言葉だと莉奈は感じた。
圧倒的な強者は誇示せずとも、おのずと皆が知るもの。
だから、自らがアピールする必要もないため、常に余裕がある。
だが、その余裕のある態度と雰囲気が、逆にマウントを取られている様に見えたり、スカしている様に見えたりして、噛み付く者が出て来るのだろう。まぁ、フェリクス王は噛み付かれても、どこ吹く風な気がするけど。
何せ、フェリクス王達がコレでもかと言う程、強さを誇示し好戦的な性格だったら、違った意味で世界は1つになっていそうだ。
「ん?」
そんな事をボンヤリ考えていれば、本邸からこちらに向かって来る者が見える。
巡回兵ではなさそうだし、誰だろうと目を凝らしていれば、どうやら見覚えのある人物2人だった。
「「おはようございます。フェリクス陛下」」
フェリクス王の前に立ち深々と頭を下げたのは、ここへ来る時に会ったアーリャの側近であり、近衛兵であるジンとレイである。
「何か用か?」
朝食の時間に合わせ、莉奈達は本邸へ向かう予定であるが、まだその時間には早い。
まさか、催促するために来た訳ではないだろう。
フェリクス王に何かと問われ、ジンとレイは目配せした。
「まずは早朝からーー」
「面倒な口上はイイから、本題に入れ」
いきなり本題ではと思ったジンが、当たり障りのない挨拶から、話し始めたのだが、フェリクス王は用件以外の口上は鬱陶しいみたいだ。
しかし、ジンとレイからしたら、その口上すら心の準備だったらしく、切られたため一拍の間が空いた。
改めてふぅと息を吐き心を整えると、意を決した様な表情でフェリクス王に言う。
「「手合わせ願いたい!!」」
こんな機会は絶対にないと考えた2人は、フェリクス王が帰還する前に願い出ようと来たらしい。
思わぬ申し出にエギエディルス皇子と、少し遅れて来たローレン補佐官が驚いていた。だがすぐ、フェリクス王の顔色を伺う仕草が見えた。きっと、フェリクス王がどう出るのか、気になるのだろう。
シュゼル皇子は相変わらず、ほのほのと微笑んでいたけど。
2人の声は、早朝の静けさに響いたのか、耳にした兵士達が騒然としていた。
あの2人が、武勇王と名高いフェリクス王に手合わせを願ったと。
ーーその瞬間。
辺りには、痛いくらいにピリッとした空気が張り付く。
彼は冒険者でもなければ、戦士でもない。一国の主、ヴァルタール皇国の王である。そんな彼に、先触れすらなく不躾な申し出をしたのだ。
この場で手討ちにされたとしても、文句を言えない相手である。
モルテグルの兵達は、固唾を飲んで見守っていた。
どう応えるのかなと莉奈がチラッと見れば、フェリクス王は面白そうに口端を上げている。
ーーそうだ。
フェリクス王は、まっすぐな信念を持つ人は嫌いじゃなかった。
たとえそれが、自分の命を狙う輩だったとしても、「よく来たな」と諸手を挙げて喜ぶタイプだ。(ボコボコにはするだろうけど)
そんなフェリクス王が、血気盛んなジンとレイを前に、否と応えるだろうか?
フェリクス王は辺りをグルリと見渡せば、シュゼル皇子が「周囲に結界を張りますので、ご存分に」と微笑む。
フェリクス王が何を考え周囲を見たのか、シュゼル皇子は瞬時に理解したらしい。
「どっちからやる? 2人同時でも構わねぇが」
そう言うが早いか、フェリクス王はのんびりと歩き出した。
どうやら、相手をしてあげる事にした様だ。
フェリクス王の相手が、自分ではないと分かっていても、莉奈は何だかゾワリとした。だけど、この感覚はどこか覚えがある。
そうだ。以前、空手大会に出た時の様な、あの不思議な高揚感だ。
緊張とピリピリした張り詰めた空気。そして、神経が研ぎ澄まされて肌がヒリつく感じ。それがどうにも懐かしい。
近くにいたローレン補佐官もそれは同じなのか、恍惚とした表情で腕を摩っている。どんな戦いを見せてくれるのか、高揚しているみたいだ。
エギエディルス皇子は慣れているのだろう。
莉奈に声を掛けて、なるべく離れた場所へと移動させてくれた。
別邸前には、テニスコート4面分くらいの敷地が広がっている。
賓客が馬車で乗り降りしたり、自国の兵を引率して来る場合を想定しているからだろう。
竜と人が戦うには手狭だが、人と人ならば充分な広さだ。
ーーという事で、この場で手合わせをするみたいである。
皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。(o^^o)
誤字脱字、ブクマ、ポイント、いいね
ありがとうございます。活力剤となっております。
作中、"ほのほの"という表現がありますが
これは作者の造語ですので、(以前もどこかで書いたような)そのままとなっております。
わたくしめの誤字が多いが故に、誤字だと勘違いさせてしまい
大変申し訳ありません。( ・∇・)
これからも思い出したように出て来るかと思いますが、
お目溢しでよろしくお願いします。




