368 ある意味、カクテル祭り
「ピザにはエールの方が合うと思うけど?」
莉奈的には、コーラとか炭酸系のジュース。
ワインも勿論合うだろうけど、日本酒ベースのカクテルにピザは合わないと思う。まぁ、個人的な意見だけど。
「「「試さないと分からない」」」
もっともらしい正論を言ってきたけど、この人達はただの呑兵衛だし。
「皆の分を作ってあげたいけど、分ける程ホーニン酒を持ってないよ」
残念ながら、大量には持っていないのだよ。
個人的に師匠から数本貰ったけど足りない。フェリクス王のも持っているけど、分けてヨシとは言われていない代物だ。
「「「ですよね〜」」」
答えが分かっていたのか、皆は途端にガックリと肩を落としていた。
「まぁ、サケティーニは……えっと、代わりになんか新作でも作る?」
「「「よっしゃあぁぁ〜〜っ!!」」」
何も飲めないのは可哀想だし、と莉奈が提案すれば、歓喜の舞が始まった。
全身でリアクションしてくれる皆に、莉奈は楽しい人達だなと笑っていたのだった。
◇◇◇
さて、どうしよう。
新作といったところで、すぐにコレにしようとは思いつかなかった。
酒倉で酒の樽に寄りかかり、莉奈はぼーとしていた。
思い付かない時は、何をしても思い付かないよね?
とりあえず、フェリクス王にはサケティーニ。
エギエディルス皇子には、ノンアルコールのカクテル。
シュゼル皇子は……両方か。
何気に1番得しているのが、あの御方だよね。酒も甘味もイケるなんてスゴい。
莉奈は色々な事を考えながら、たまにぼーっとしながら適当にお酒の棚を見ていた。
【スイート・ベルモット】
白ワインを主体とし、ハーブや香辛料、カラメルを配合して作られたフレーバードワイン。
見かけない瓶を見つけた莉奈は、軽く【鑑定】したのだ。
"カラメル" 。
ただでさえ、高い砂糖をこんな風にお酒にも使うから高価になるんじゃない?
異常なくらいに、お酒に情熱をかけ過ぎだよね。
「あ、スイート・ベルモットなら陛下……いや、甘口になるから飲まないかな」
莉奈は、色々な事を考えながら小さく笑っていた。
フェリクス王がコレを飲んだら、ものスゴく渋い顔をしそうだ。
でも基本的にカクテルって、ジュースとか甘口のお酒と割る事が多いから、甘口になりがちなんだよね。
「ハチミツがまだあるし、シュゼル殿下には甘々のカクテルでもイイか。エドには……パイナップルがあれば "シンデレラ" ってノンアルのカクテルが作れるけど……あった」
魔法鞄を漁ったらあった。
レモンもオレンジもあるし "シンデレラ" を作ろう。
ノンアルコールのレシピは少ないから、後は莉奈オリジナルで作ればいいかと、考えていた。
莉奈は後は適当にお酒を持つと、酒倉から出るのであった。
「それ、スイート・ベルモット?」
目敏い料理人が、莉奈の持つ酒瓶を見つけた。
「なんかいっぱいあったから、持って来た」
皆に作るのなら、大量にあるお酒じゃないとダメだからね。
「スイート・ベルモットは初めてだな。何を作るんだ?」
リック料理長が、莉奈の持つ酒瓶を受け取りながら訊いた。
ドライ・ベルモットはあったが、スイートの方は初めてだと、皆のテンションが上がり始めていた。
「スイート・ベルモットとドライ・ジンで"スイート・マティーニ" 」
マティーニに入れるドライ・ベルモットを、スイート・ベルモットに変えたバージョンである。
返事の代わりにゴクリと、喉の鳴る音が聞こえた。
「分量は好みだけど、ウチで作っていたのはスイート・ベルモット1でドライ・ジンが3」
「なるほど、それをいつもの通りに混ぜればイイんだな?」
「だね。飾りも好みだけど、マティーニ風にオリーブの実。チェリーがあれば、それを入れても可愛いよ」
莉奈が作りながら説明すれば、皆は口を綻ばせながら作り始めた。
皆はもちろん、寸胴でだけど。
しかし、とうとう逆三角形のカクテルグラスまで、用意されてるよ。お酒にしか使わないのに、作っちゃったのかな?
カクテルグラスっていうだけあって、コレに入れた方が絶対に映えるけど。
「あ、そうそう。スイート・マティーニの主流はドライ・ベルモットをスイート・ベルモットに変えたバージョンだけど、ドライ・ジンをスイート・ベルモットに変えた違うバージョンもある。両方作って飲み比べると楽しいかもよ?」
好みは人それぞれだからね。あーだこーだと会話するのも酒の肴になるだろう。
「むっ、それはいいな。好みで分量を変化させるのも面白そうだ。ヨシ、マテウスとサイル、後はそこで遊んでいるリリアン。お前達はカクテル作りに専念してくれ。後はピザの作業だ」
「「「了解!!」」」
飲みたいからって、皆でカクテルを作っていたら、晩ご飯が出来ない。
リック料理長が、サボっていたリリアンを捕まえて、マテウス副料理長に預けていた。
リリアンは隅でコッソリ、ツマミ食いをしていたみたいだ。
頭を軽く小突かれていたよ。
「サケティーニか?」
莉奈が、ホーニン酒を魔法鞄から取り出したので、マテウス副料理長が作業をしながらチラッと見ていた。
「私は皆々様が飲めない "サケティーニ" を作りたいと思います」
「嫌がらせだーっ!」
「ホーニン酒も飲んでみたい」
莉奈が楽しそうに言うと、皆が悲しい声を上げていた。
目の前で飲めない悲しさってないよね?
「ラナ、仕事は?」
ラナ女官長が、旦那さんのリック料理長の手伝いをしていたのだ。
自分の仕事と、美容液の件は一段落したのだろう。
「私は基本的に早番だから、もう終わってるのよ」
忘れそうだけど、ラナ女官長やモニカは一応莉奈の侍女である。だから、莉奈が起きる前から、身の回りの世話などの仕事をしてくれているのだ。
「そんなラナに、ホーニン酒の味見をどうぞ」
もちろん少なめだけど、前菜を入れるような小さなグラスを、お猪口代わりにして入れてあげた。
透明なグラスに注ぐと、ホーニン酒は薄ら黄色みがかかった山吹色。だが、濁りは一切なく透き通っていて綺麗であった。
無色透明じゃないのは師匠の管理の甘さか、活性炭素濾過をしてないとか、どちらかだろうと莉奈は踏んでみる。
活性炭素濾過をしているお酒でもその辺に置けば、ワインと同じで、日に当たったり空気に触れたりで、色が変化するからね。
あの師匠の事だし、多分そうだろうと軽い気持ちで、あの時より詳しく【鑑定】を掛けて視た。
【ホーニン酒】
米と麹、水で製造した醸造酒。
カストラカイナ地方で製造された純米大吟醸酒。
〈用途〉
純米大吟醸酒を土蔵庫にて2〜3年常温でじっくり熟成させた長期熟成酒。
三段仕込みで造られ、活性炭素濾過をしていないのが特徴の米の酒。
〈その他〉
飲料水。
アレ?
熟成してあるお酒だった。
なら、初めからこの山吹色なんだ。てっきり師匠の事だから適当かと思ってしまった。ゴメンなさいバーツ師匠。
莉奈が、ここにはいないバーツ師匠に謝っていると、隣にいたラナ女官長が嬉しそうにグラスを手に取っていた。
初めてのお米のお酒、ホーニン酒である。
飲めない皆は、ものスゴい形相で見ていた。
「ラナ」
「な、何?」
えっ? いいの? って言いながら口にしようとした瞬間、莉奈に声を掛けられピクリとしていた。
「そのお酒。多分、めっちゃ高い」
値段まで記載されてないから想像でしかないけど、莉奈の直感がそう言っていたのだ。
「……っ!?」
ラナ女官長の手が、わずかに震えた。
高いと言われ緊張したのかもしれない。
「ラ、ラナ。私達は、その、夫婦なんだし、えっと、そのその一口?」
それを聞いたリック料理長が、喉を鳴らしおずおずと言った。
滅多に入らなそうな高いお酒。この機会がなければ飲めないかもしれないと思ったのだ。
「あ、すみません」
ラナ女官長は何も言ってないのに、チラッと見られた途端にすごすご去って行く。
「え? 弱くない?」
「頑張れ、料理長!!」
「そこはホラ、もっと、ツッコまないと」
「男でしょう?」
「分けろ! くらい言わないと」
リック料理長は、部下達に総ツッコミされていた。
奥さんに弱過ぎですよと。
だが、ラナ女官長がチラッと皆を見れば、慌てて目を逸らし作業に戻っていた。
それを見ていた莉奈は、どっちもどっちだと思うのであった。




