第7話 死霊
神社の前の広場に、刑事さんたちは車を停めた。 ついでに俺も乗せてもらっている。
昔は祭りなどの行事が行われたんだろうなという雰囲気は残っていたが、いまとなっては雑草が伸び放題で、広場というよりは原っぱになっている。
「しかし祭りの日じゃないと、封印の呪文だか歌だかは効果無いんじゃないですか?」
鶴谷刑事の意見ももっともだ。俺も正直疑心暗鬼である。
「呪いという我々の理屈を超えたモノに、はたして正攻法などあるのでしょうか?」
桜上刑事が指を立てる。
「ならば、思いつく限りのことをしましょう」
刑事さんが乗ってた車から、大きなメガホンが取り出される。
メガホンの後ろにはラジカセ、ラジカセの中には例の「封印の祓詞」のテープが入っている。 ラジカセもメガホンもボリュームは最大だ。
「・・・行きます!」
俺は再生ボタンを押した。
曲が流れ始めた。
ちょっと音割れ気味だが、和楽器と意味不明な歌詞が、森に、山に、神社に、村全体にこだまする。
なんだか不思議と心地いい。
だがそれは不意に襲ってきた。
血なまぐさい不快感のある臭いが急に立ち込めた。
俺たちは思わず手やハンカチで鼻を覆う。
「何ですかこれ!?」
「おそらく封印されまいと、何かが抵抗しているのかもしれません。このまま続けましょう」
「だ・・・ 誰だ!?」
突然降って湧いたかのように、俺たちの周囲に人だかりができていた。
しかし、その人々はモノクロ写真から飛び出したように色が無く、無表情で生気が無い。
現代っぽい服装のひともいれば、どことなく昭和の古臭いファッションセンスの人もいる。 その中に見覚えのある学生服の子供たちも何人かいた。
「良一と同じ制服? まさか・・・ 呪いの犠牲者!?」
「学園祭の不審死事件の被害者たちの姿がありますね。 みなさん、悪霊になったのか、それともその姿に何かが化けているのか・・・」
こんなゾンビ映画みたいな場面でも刑事さんは驚くほど冷静だ。
ふいに俺の左手をモノクロの手がつかんだ。
「うわっ!?」
冷たい、氷のようというより、子供の頃死んだジィちゃんの冷たい手を思い出した。
その冷気のようなものが左腕から全身にジワジワ広がる俺は死ななければならない死にたい。
俺の頭の左側に死ななければならないという思考が、死にたいという感情が流れ込んでくる死にたい。
やめろ。こわい。その手をはなしてくれ死にたい死ななければならない。
そうだ俺は子供の頃いじめられていた。弱くて頭が悪くて空気が読めなくてイジメられて当然だったからだ俺は死ななければならない。
やめろ、思い出したくない、考えたくない。死にたい。
親も俺を嫌っていた。小さい頃から親にからかわれた。つまり俺は笑い物になるために生まれて育てられたんだ死にたい。
やめろやめろやめろ。
やめた会社でもその前の会社でも無能だった。無知無学無教養、誰の役にも立たない、自分の役にも立たない。そんな俺は生きてちゃいけないんだ死ななければならない死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい
「沢木さん!!」
俺の右手を暖かい手がつかんだ。そして大音量のラジカセの前に引っ張られた。
「な・・・何なんだ!? 何なんだよコイツら!?」
俺の左手をつかんでいたモノクロの霊は、封印の歌が流れるラジカセから遠ざかるように俺の手を放して後ずさった。
「大丈夫ですか沢木さん!?」
桜上刑事が俺の両肩をつかんで軽くゆらす。
「は・・・はい、何とか・・・ それより、アレに捕まるとヤバいです。たぶん死にます」
「でもこの歌が流れてるかぎり、ラジカセの周囲には近づけないっぽいですよ!」
鶴谷刑事がラジカセをかついでスピーカーをモノクロの悪霊たちに向けると、やつらは動きを一時的に止める。
「ですが、このままでは包囲網は小さくなる一方です。次の一手を考えませんと・・・」
さすがの桜上刑事も冷や汗をかいている。
こうなったら手あたり次第だ。
俺はネットで見た身近な除霊アイテムたちをリュックサックから取り出す。
【消臭~ズ】スプレーをモノクロ霊に噴射する。
・・・効果なし。
中二病全盛期で小説を書いたときの参考資料として買った聖書をかかげる。
・・・無反応
試しに投げつけてみる。
・・・効果なし
吸ったことが無いので買い方が分からず、買うのに手間どったタバコに火をつける。
タバコを振り回して煙をまく。
・・・効果なし
くそっ何か効いてもいいだろう!!
【伊勢湾のにがりのきいた天然塩】袋を引きちぎるように開けて中の塩をつかみ、霊に向かって投げつけた。
・・・黒い霧になって消えた。
「塩がきいた!」
「よっしゃ!沢木さんそれで行けますね!」
鶴谷刑事が軽くガッツポーズをとる
「・・・ですが、塩が足りるかどうか」
桜上さん、せっかくの希望の光を消さないでください。いや実際そうだ。
モノクロ霊の数が圧倒的に多すぎる。
「万事休すか・・・ ん?」
遠くから声がする。 新手の悪霊か亡者か?
いや、ちがう。 あれは血が通った人間の集団だ。
年寄りばかりだが、10人くらいの一団が、印を結ぶかのような独特な形で手を組み、封印の歌を歌いながらこちらに近づく。 その先頭は見覚えのある人物がいた。
「桜上さん、商店のオバちゃんと、守部さんですよ!」
「意外な助っ人が来ましたね」
刑事さんたちもこれには意外だったようだ。
村人たちは封印の歌を合唱しながら、俺たちに近づく。
モノクロの霊たちは、じりじりと後ずさったが、通り過ぎた一団についてくる。
守部氏が歌いながら視線で神社の方を指した。 あそこに行けということか。
俺と桜上刑事は塩をまきながら、鶴谷刑事はラジカセをかつぎながら、神社に向かった。
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