第6話 過去
「刑事さんがワザワザこんな村に来られるとは・・・ やはり昔おきた音楽祭事件の件ですかな? それとも、それを聞きつけたよそ者が、肝試しとか言ってまたバカ騒ぎでも?」
守部長助。 顔に刻まれた深いしわが高齢者であるようではあるが、しゃんとした背筋に、意識がハッキリしている様子に、年齢が分からなくなる。 俺も年を取るなら、こんな風に死ぬまで健康体でいたいものだ。
「いいえ、お聞きしたいのは昔の事件の事です。 あの音楽祭事件の1年ほど前、茂田ミツコさんが事故で亡くなった事件のことです」
桜上刑事のその言葉に、守部氏の顔色が変わった。
だが俺は何も分からない。
「何ですその事件は? 音楽祭事件の前に、なんかそういう事件があったんですか?」
鶴谷刑事が説明する。
「あったんですよ。 当時の記録では茂田ミツコさんという方が、山で転んで頭を岩にぶつけた事故ということになりましたが・・・」
少し間を置いた。
「・・・実は我々は別な事件で、たまたま昔この村に住んでいた、ある人物に教えてもらったんです。 “墓場まで持って行くつもりだったけど、やはり真実は誰かに伝えた方が良い”ってね」
守部氏の目つきがみるみるうちに変わっていく。
「ソイツはもしかして、倉木のやつですか? それとも森野の野郎ですか?」
守部氏に証言者の心当たりが何人かいるようだが、桜上刑事が軽く首を横に振る。
「誰かは言えませんが、その人物が言うにはミツコさんは村長の息子に殺された。 そして村人ほぼ全員がそれを知るなり察するなりしていたものの、その権力者である村長からの報復を恐れて、村ぐるみで真実は隠蔽される流れとなった・・・」
あれ、どっかで聞いたような話だな?
「そして例の音楽祭。 そこで聞いたものが死んだ祝詞のアレンジ曲。 いえ、厳密にはこの村に封印されている荒ぶる神を鎮めるための呪文のアレンジ。 それは荒ぶる神を呼び起こし、災いを招く呪いの歌として編曲された。 そしてその曲を演奏したのは、殺されたミツコさんの恋人だった」
桜上刑事が人差し指を立てるようなジェスチャーをした。
「そう、守部一彦。 あなたのお兄さんです」
復讐で呪いの歌を演奏したと? まさかそんな・・・
「だったらどうなんです刑事さん? 兄はもう死にました。 ミツコさんを殺した奴も死んだ。 いまさら昔のことを蒸し返したところで、どうしようと?」
老人の視線が不快感を訴えて来る。 それはそうだろう、身内が非科学的な手法とはいえ大量殺人の犯人かもしれないという話なのだから。
「・・・原曲が知りたいんです。 それが、今起きているある事件を解決してくれるかもしれないんです」
しばらくして、俺たちの目の前にはカセットテープが置かれていた。
【阿無堂巣鬼亜数様 封印の祓詞】
と書かれた手書きのラベルが貼ってある。
「・・・なんだか日本の神様というか神道的には違和感のある感じがする名前っすね?」
「大昔、日本に漢字が伝わる前から日本語は存在しました。 大和言葉とも言われるそうですが、そういう元からあった言葉にムリヤリ当てはめた漢字の言葉もあるそうです。 これも、そういった当て字から生まれた名前なのかもしれません」
「あむあどうすきあす・・・ そもそも日本語じゃない・・・のか?」
俺たちが好き勝手にテープを見て言った感想を横目に、守部氏は口を開いた。
「もう何年も前、祭りで歌う練習のときに録音したものです」
カセットテープが、これまた懐かしいラジカセにセットされ、再生ボタンが押される。
・・・それは何とも奇妙な曲だった。
使用されている和楽器は神楽などでよく聞く奴だとは思う。
だが、何を言っているのか分からない歌詞。
独特なリズム感。
俺がTVの旅番組などでよく聞く民謡や神楽とは違う、異質な感じがした。
「・・・たしかに、呪文って感じですね。何を言っているのか分からないけど」
鶴谷刑事も同じ感想のようだ。 守部氏がうなずく。
「ええ、一応意味のある言葉らしいのですが、それを知っていたのは神主の一族で・・・ 今は誰もいません」
桜上刑事がぐいっとラジカセに顔を近づける。
「ナニャドヤラという東北地方に伝わる歌詞が意味不明の盆踊りがあります。 今は廃れた方言説や、古代ヘブライ語説まである歌ですが・・・ これも、そういう歌なのかもしれませんね」
彼は人差し指を立てた。
「守部さん、この歌は最近・・・ 祭りの場で歌われてないのでは?」
守部氏はちょっと驚いたような顔をした。
「そ・・・そうです。 今年は色々あって、祭りそのものが無くなりました。 祭りの会場だった神社も、管理は神社庁から派遣された者に代わったのですが、時々顔を出すだけで何もしないんです・・・」
桜上刑事がさらに質問を重ねた。
「ひょっとしてその祭りって、2か月くらい前に行われるハズだったのでは?」
守部氏は言葉に詰まったのか、黙って頷いた。
俺は桜上刑事にたずねる。
「で、この原曲をどうするんです?」
「・・・大音量で流すんです。 神社で」
初老の刑事のメガネが、なんだか怪しくも神秘的に光った気がした。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
高評価☆☆☆☆☆ コメントいただけると、とてもうれしいです。
よろしくお願いします。




