第4話 都市伝説
これまで俺は、甥の言っていた「呪いのフリー音源」を否定するつもりだった。
甥の良一が無用な罪悪感に囚われるなら、それを捨て去ってもらいたかったからだ。
しかし俺の中で、これは本物なのではないか?という考えが、俺の脳内を支配しつつあった。
警察が甥にふたたび聞き取り調査をしたことで、それは確信に変わりつつある。
しかし俺にこれ以上何ができるというのだろう?
結局、刑事さんたちに会って気が付けば2日経過していた。
曲の中に隠された、祭りばやしと話し声も謎。
話し声はボソボソとしてて聞き取りづらいが、なんとなく男性のニュースキャスターがラジオかテレビでニュースを読み上げているような感じがした。 だがそれ以上はよく分からない。
俺はパソコン画面に表示されている、音楽ファイルを見つめる。
【不協和音19880923】
「そういえばこの番号って・・・」
このフリー音源のサイトが、投稿された曲に適当に割り振った番号かと思っていた。
しかし、俺の脳内で奇妙なひらめきのような何かがあった。
同じサイトから別な曲を適当にダウンロードしてみる。
ファイル名は【フクザツな乙女心のテーマ~ピアノVer~】・・・番号が無い。
つまり呪いのフリー音源【不協和音19880923】は、番号も曲名の一部だったようだ。
だが何の番号だ?
スマホのメッセージアプリの着信音が鳴って、俺の手は音のしたほうへのびる。
良一からだ。
『今日はお昼ありがとう。 ところで、おじさんもあの曲を聞いちゃったみたいだけど、大丈夫だよね? やっぱり不安・・・』
だろうな。俺は返信する。
『呪いを回避する方法は曲を他の人に聞かせることってサイトに書いてあった。そして俺はあの曲が流れる演劇のDVDを刑事たちに手渡した。たぶん刑事たちもDVDを見る。 つまり、俺は刑事たちに曲を聞かせたことになり、呪いがあっても回避済みということだ。 だから安心して』
・・・これだとちょっと不謹慎というか、刑事さんたちに申し訳ないかな。
もう一文加えよう。
『まぁ、呪いなんて無いだろうけど』
返信ボタンをタップしたあと、俺は部屋に貼ってあるカレンダーを見る。
7日後に刑事さんたちが亡くなったニュースが流れることがもしもあれば、それはちょっと嫌だな・・・
そんな風に考えたとき、インスピレーションみたいなものが降ってきた。
【不協和音19880923】
19880923 ・・・1988年9月23日
もしや日付か?
俺は再びネット検索による情報収集を開始した。
暗日村 死の音楽祭事件
1988年(昭和63年)9月23日〇〇県の山村で起きた集団死事件。
事の発端は、さびれつつあった村に活気を取り戻そうと、村の若者が当時人気のアーティストを招いて音楽祭を開こうとした。
しかしながら、実際に集めることが出来たのは、同じ県内で活動するローカルな音楽アーティストや、サークルでバンドをやっている大学生などだった。
それでもその音楽祭は盛り上がりを見せた。 ・・・ある曲が流れるまでは。
生存者の証言によると、その曲は暗日村の神社に古くから伝わる祝詞を、神主の息子が親に黙ってアレンジしてフォークソング風にしたものだったという。
その曲が流れたとたん、会場の空気が異質な何かに変わった。
ある者は耳をふさいでパニックになって走り出した。
またある者はここで初めて聞いてるはずの曲を一緒に大声で歌いだした。
またある者は高い所に上って飛び降りた。
またある者は自らの身体に火をつけて踊りだした。
皆それぞれ狂いだした。
そんな中、神主の息子は白目をむいて口から泡を吹きながら、腕だけはギターの演奏を続けていた。
会場にいた者のほとんどが死亡。生存者も聴覚に障害が残るか、精神疾患をわずらってしまった。
この事件は原因不明の集団ヒステリー事件として当時騒がれたが、芸能界のスキャンダル等のニュースに埋もれてしまい、100名を超える死亡者が出たにもかかわらず、その年の10大ニュースにも乗らなかった。
現在、この村はほぼ廃村と言える限界集落となっており住民も数名しかおらず、たまに若者が肝試しと称して村でバカ騒ぎに行くので、地元警察がよくパトロールしている。
・・・という都市伝説がネット上にあった。
話を盛られ、尾ひれがついた部分はあるかもしれないが、実際に起きた事件ではあるらしい。
もう一度、例の曲の人の声がする部分を聞きなおす。
『・・・県、くら・・・ち村で・・・集団・・・死亡する事件があり・・・』
断片的だが確信した。 これは暗日村の事件のニュースを読み上げるアナウンサーの声だ。
俺は、事件の起きた村に行ってみることにした。
いや、行かなければならない。
俺の中で、何かがそう予感させた。
俺は思いつく限りの荷物を急いでまとめ、翌朝に車を走らせた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
高評価☆☆☆☆☆ コメントいただけると、とてもうれしいです。
よろしくお願いします。




