第3話 聞き取り
在宅調査を明けがた直前までやってしまった俺は、午前中の残りの時間を睡眠に使い、昼前に俺の兄貴の家、いや良一の家に向かった。
ちょっと距離はあるが、健康のため徒歩で行く。
「たびたび思うけど、いくら仕事が忙しいからって夫婦そろってほぼネグレクトじゃねーか・・・ まぁ、俺がかまってやってるから良いけどさ」
今日はあり合わせの食材持ち込んで手料理食わせてやろう。
名状しがたき炒め物のようなものと、味噌汁ぐらいしか作れないが。
「ん? 誰だ?」
良一の家の前に男が2人。 初老なやつとガタイのいいやつ。 セールスマンとか宗教勧誘にしては雰囲気が違う。
玄関の扉は空いており、中に良一の姿が見えた。
「おーい、良一! お客さん?」
俺はちょっと離れたところから声をかけて近づいた。
「あ、おじさん! それがその・・・」
2人の男が振り返った。
「どうも、警視庁の桜上と申します」
「同じく、鶴谷です」
ふたつの警察手帳が俺の前で開いた。
リビングに2人の刑事を通し、俺はコーヒーを出した。
「あ、どうぞお構いなく」
と、初老の桜上刑事は言ったが、その横で
「すいません、じゃあ遠慮なく・・・」
と、ガタイのいい鶴谷刑事がティーカップを手に取った。
「それで、良一はすでに警察の方には聞き取りを受けたハズですが・・・」
まず、俺から切り出してみた。 それに桜上刑事が答える。
「ええ、その通りです。 ですが、被害者のほとんどが学園祭で例の演劇を見ていたという共通点があるのです。 その中で唯一、良一君がこの事件の生存者です。 ・・・何か思い出したことがあればと思いましてね」
「ちょっと待ってください、それってまさか良一を疑ってるってことですか?」
思わず俺が声をあらげてしまった、そこへ鶴谷刑事が手のひらをかざすように制止する。
「いえ、我々も良一君が犯人だなんて思ってませんよ。 ただ、彼だけが生き延びた理由も、なにか今回の事件を解決するカギになるんじゃないかと思いまして」
「おじさん・・・ アレってやっぱり・・・」
良一が口をすべらす。 どうしよう。
「アレとは?」
「何か心当たりがあるの?」
刑事たちの姿勢がやや前のめりになる、いやまて、これは逆に良いことになるかもしれない。
「良一、呪いのフリー音源の話・・・ 非科学的ではあるが、刑事さんに教えてあげようよ」
そうだ、そんなものは非科学的であり、君は犯人じゃない。 と刑事さんに否定してもらおう。
「呪いのフリー音源?」
「なんかまた・・・ 意外な言葉が出てきましたね桜上さん」
俺たちは例のフリー音源について話した。 ついでに俺がネットで調査したことも話した。
一通り話を聞き終わると、2人の刑事は頭を下げ、桜上刑事が口を開いた。
「ありがとうございます。ちなみに、その演劇のDVDは今どこに?」
「俺の家です」
「車でお送りしますので、もしよかったら・・・」
「ええ、どうぞDVDも持って行ってください。 ・・・いいよな?」
良一は黙って頷いた。
「ああ、それと良一くん」
鶴谷刑事が人差し指を立てる仕草をした。
「もし仮に呪いのBGMが本物だとしても、君に罪はないよ。 罪があるとすれば、冗談に見せかけてそんな危険なものをネット上で発進した誰かだ。 もしも、きみを事件に巻き込んで、罪の意識を植え付けた犯人がもしいるとすれば、悪いのはソイツだ」
良一はその言葉を聞いて、すこし肩の力が抜けたようなように見えた。
移動して、俺は自宅で2人の刑事にDVDを手渡す。
「あの・・・刑事さん。 もしよかったら連絡先を交換しても良いですか? もし何かわかったら、教えて欲しいのと、俺からも何か分かったらお伝えしたいです」
2人はすぐにポケットからスマホを取り出した。
「ええ、良いですよ」
「ついでに俺の連絡先も」
なんとなくだが、2人の雰囲気には好感が持てた。
「沢木幸太郎さん。 最後に一つだけお願いがあります」
桜上刑事が俺の目をまっすぐ静かに射るように見た。
「もしあなたが事件の核心に近づいても、あなただけで解決しようとせず、かならず我々に情報をください。 僕も長く刑事の仕事をしていますが、こういう奇妙な事件は、ごくまれですが、あるんです」
おだやかな喋り口調だが、不思議な凄みがある。
「そういう事件は一般のかたが深入りすると、命を落とす危険性が非常に大きい。 ・・・良一君のためにも、あなたが死ぬようなことは、あってはならないことです」
去っていく刑事たちの背中を見て、ふと重要なことを思い出した。
良一に昼飯を作ってあげるつもりが、すっかり忘れていた。
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