第2話 捜査
警察は捜査に行き詰まっていた。
【鈴木東高校 同時多発不審死事件 特別捜査本部】と入り口に書かれている会議室の中は、刑事たちのいら立ちが空気の中に立ち込めていた。
そこから2人の刑事が廊下へと歩き出す。
若くてガタイのいい刑事と、初老の小柄な刑事だ。
「桜上さん、マジで言ってるんですか?」
ガタイのいい刑事が初老の刑事に声をかける
「鶴谷くん、このさい被害者たちの死因は今は考えないことにしましょう」
初老の刑事、桜上刑事が人差し指を立てる。ここが重要だとでも言うように。
「被害者たちの共通点は【演劇部】です。 大半の被害者たちが死亡する1週間前、鈴木東高校の演劇部の舞台を見ていました。 いや、厳密にいえば演劇が公演されていた第3会議室内にいた人物・・・ 舞台の上に立っていた学生たち、その観客であったご家族や親類、生徒たち、そして演劇部の顧問の先生までも犠牲になりました。 そして、そのご家族も数日のズレがあったものの、亡くなっています」
桜上刑事の言葉を聞きながら歩く鶴谷刑事、2人の歩調はやや速い。
「でも、捜査一課の連中もそこまではたどり着いて、現場検証を行い、科捜研にも、城南大学医学部および生物学の調査チームまで入れて、何も手掛かり無しでしたよ。 毒物も病原菌も有害なものは検出されず・・・」
「だからいったん死因は考えないことにしましょう。 現場から1週間も経てば、毒も病原体も除去されている可能性が高い。 ならば現場にいながら生存した者に、もっと詳しく話を聞く必要があります」
「でも、沢木良一くん、でしたっけ? 彼は一度聞き込みを受けてますが、普通の高校生って感じで、何も変なところは無かったと思いますが」
「えぇ、この1年間、彼の家に宅配で届いた荷物なども調べ上げましたが、不審なものを購入し受け取った形跡もありませんでした」
「じゃあ、なぜまた?」
桜上刑事がいったん足を止めて、鶴谷刑事に顔を向けた。
「・・・僕の勘です」
甥が知らずして大量殺人に加担していない証拠を手に入れるため、この俺、沢木幸太郎は、お得意のネット検索術と、さまざまなアニメ・映画・ドラマ・小説などから得た雑学に近い知識をフル活用し、パソコンに向かって調査を開始した。
まず、良一がBGMを提供し自らも出演した演劇の映像を入手。
これは演劇を見に来られない父兄のために、顧問の先生が撮影したものだ。 当日俺は再就職の面接(結果は落ちた)に行くために見ることが出来なかった。 良一の両親も運良く(?)仕事の都合で学園祭には行けず、送られてきた動画のDVDを受け取った直後に事件が起き、なんとなく気が引けて未視聴だったようだ。
「まずは演劇にかかった曲を一通り聞いてみるか」
演劇の内容はミステリー仕立てのホラーだった。
とある漁村を舞台に連続殺人事件が起きる。この村にたまたま観光に来ていた民俗学の教授である主人公は、その殺人事件がこの村で昔行われていた生贄の儀式の内容と重なることに気づく。 そして犯人は、恋人を村長に殺された男であった。
男は村のはずれに封印された太古の邪神に「7人の生贄を差し出し封印を解けば恋人を生き返らせてやる」と夢の中で啓示を受け、それを信じ連続殺人という生贄の儀式を行ったのだ。
主人公は最後の生贄にされそうになった被害者を救い出し、犯人の男は逮捕される。 事件は一件落着・・・かと思いきや、犯人は警察に連行される途中で事故死してしまう。 そしてそれが最後の生贄となって邪神復活のトリガーとなり、大災害が起きて漁村は壊滅。
かろうじて生き残った主人公の前に、生き返った犯人の恋人が現れる。 しかし彼女はその意思を邪神に乗っ取られており、生きる厄災となって歩き出す・・・
という、あらすじだった。
例の曲はすぐにわかった。話に聞いた曲のタイトル通り、まさに不協和音の連続といった感じのBGMだ。 俺はこれを頭に入れ、次にネット検索に取り掛かる。
「マイナーなフリーBGMのダウンロードサイトで、曲名は不協和音・・・」
甥から得た情報から、検索を続ける。
そんなこんなで10分ほど経過しただろうか、そんなに苦労することなく例のBGMは発見できた。
「・・・これか?」
曲名は【不協和音19880923】
投稿者名は匿名、投稿日は2ヶ月ほど前だ。
試聴の再生ボタンを押す。
・・・間違いない。 演劇の中でかかってた例の曲だ。
ダウンロードボタンを押しつつ、このWEBページ内に手がかりがないか探す。
投降者よりコメント
この曲を聞いた人は7日後に死にます。
呪いを回避する方法は、この曲を他の人に聞かせること。
まいったな。そんな風に書かれると甥っ子が生存した理由を補完しているようじゃないか。 つまりはこの曲を演劇で大勢に拡散させ、いわば「呪いの共犯者」になったことで、呪いの主か何かから甥は見逃してくれたって解釈できるようになってしまう。
「しかしこれじゃあ・・・ 呪いのビデオのパクリじゃないか」
映画にもなったホラー小説に出てくる、あまりにも有名すぎるアレである。 そのビデオを見たものは7日後に死ぬが、ダビングして他人に見せれば回避できるというもの。
いわゆる「不幸の手紙」や「サっちゃん4番目の歌詞」等に見られる、感染系怪談の系譜だ。 不特定の誰かに呪いがかかる。 そしてある手順を踏めば、それは他人に押し付けられる、よくあるパターンの怪談だ。
「このBGMもあの呪いのビデオのパクリだとすると・・・ ビデオの内容に呪いの元凶のヒントが隠されていたように、曲の中にもヒントがあるかもしれないな」
というわけで、ダウンロードした曲を今度はフリーの音楽編集ソフトで解析してみる。
逆再生したり、音を大きくして小さく何かメッセージが無いか、調べるのだ。
どことなく既視感のあるメロディ。 楽器はピアノ、バイオリン、あとは管楽器かよく分からない、それらが一定のリズムで不協和音を奏でる。 曲単体で聞けば絶望感とか孤独感のある、悲しみよりも深く落ち込む鬱っぽい空気ただよう曲だ。
「・・・ん?」
一瞬、違和感のある音が聞こえたような気がした。
その音を編集ソフトでいじくりながら、その音の正体を探る。
「これがヒントか?」
ほんの遠くにかすかに、場違いな音が入っているパートが2カ所あった。
祭りばやしが聞こえる箇所と、淡々とした人の話し声が聞こえるパートがあった。
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