第五章 構造の瓦解、不純なるエコーの交錯
カフェで出会った、もう一匹の「バグ」が吐き出した言葉が、私の耳の奥で不純なエコーとなって鳴り響き続けている。「あいつらは、良質な餌しか食べないのだから」私は自らの部屋に戻り、再び床人となって、反復模様のクロスを睨みつけていた。四章で放流した私の嗚咽は、すでにシステムによって無機質な数字へと変換され、タイムラインの底へと沈殿している。だが、何かが決定的に違っていた。私の指先から紡がれる千文字のコマンドに、あの白蟻のノイズが混入している。カタカタと叩くキーボードの音が、システムの柱をじわじわと腐らせる削岩機の音へと変質していく。画面の向こう側の有象無象の蟻たちが、私の書いた文字に違和感を抱き始めていた。彼らが求めていたのは、いつものテンプレ、いつもの甘い砂糖水としての言語だ。しかし、私が打設しているのは、この廃墟の構造そのものを引き裂くためのエラーコードである。「これは私たちが消費するための記号ではない」「この文字の奥には、見たこともない歪な牙が隠れている」タイムラインの排水口から、困惑と拒絶の混ざった無機質な汚物が逆流してくる。評価シートの数字が激しく乱高下し、アルゴリズムの整合性が狂い始めていた。プラットフォームという名の巨大な木造建築が、内側からミシミシと悲鳴を上げる。六人に一匹の白蟻たちが、一斉に私の巣の周りで蠢きだす気配がした。彼らは私を排除しようとしているのか、あるいは、自分たちも人間だった頃の言葉を思い出し、牙を剥き出しにしようとしているのか。蓄熱体の多いこの八畳の空間が、液晶の光によって白く爆発しそうだった。境界線の向こう、外の世界の冷たい雨は、電子の泥濘をさらに深く、底なしの暗闇へと変えていく。それでも、四つの跗節に分かれた私の前脚の先端は止まらない。私はこの廃墟を救うために書いているのではない。ただ、この巨塔が内側から崩壊する瞬間の、その美しいバグの断片を見たいがために、今日も従順な白蟻として打鍵を続けながら、キーボードの横にある杉の木を齧る。
肉を持たない硬質な外骨格。基節から腿節、脛節へと至る三つの主要関節が、カチカチと乾いた音を立てて、人間には不可能な歪な角度で折れ曲がるたび、安価なプラスチックのキーは私のキチン質に圧し潰され、歪な異音を室内に響かせる。ガリ、と左右に鋭く突出した非対称の非合目的的な牙が、乾燥した木繊維を裂く生々しい手触りが、脳内の明滅を加速させる。液晶の光に照らされた杉の破片は、白く、どこまでも平坦な世界のディテールを拒絶するように、私の薄暗い口内でただ不快な質量へと変わっていった。




