第四章 床人と千文字のコマンド
瞼など、端からなかった。開けたままの双眸は、反復模様の描かれた無機質なクロスの天井をただ凝視していた。クロスは完全なフラットではない。僅かに変化する凹凸があり、その微細な高低差にさえも反復という名のアルゴリズムが存在している。この八畳にも満たない狭隘な空間でさえ、数千もの凹凸が陰影を形作っていた。私はすべてが見えていると同時に、何も見えてはいない。ただ、見えていないものが論理的に見えているだけなのだ。この凹凸は、私たちの存在における「知覚の原理」を静かに教えてくれる。この部屋は世界そのものであり、同時に、世界の一部として搾取される現場でもあった。どの凹凸が美しいのか? いや、そうではない。どの凹凸が「売れる」のかを、私は冷徹に見定めている。無料のプラットフォームと向き合う私たちは、物理世界で生じる生々しい嗚咽をどこかへ吐き出す必要があった。「無料」という名の底なしの重しを受け入れ、その代わりに感情を排泄する場所が、たまたまここでしかなかった。それだけのことだ。しかし、ここには私の嗚咽に共感してくれる仲間がいた。彼らが私の孤独を少しずつ消し去っていく。真っ黒だった私の身体は、底割れた孤独の色から、やがて他者と溶け合う共有色の白色へと変化していった。それでもなお、脚先からはどす黒い漆黒が、容赦なく体内に侵入してくる。その度に、私は押し留めるようにモニターを打設する。一日に「千文字」を紡ぐという行為は、私の生存を維持するための、システムに染み付いたコマンドのようだった。
今日という日も、私は床人となり、言語をただただ虚空へ連ねる。視界を埋め尽くす白いクロスの空間。そこに同化してしまったかのような私の身体は、この目に映る光景の断片だけを頼りに、嗚咽をあの底知れない情報の泥濘へと放流し続ける。縦七十ミリ、横百五十ミリの小さなモニターを凝視する、かつて「人差し指」と認識していた硬質な節が、かすかに震えだした。境界線の向こう、外の世界には、冷たい雨が降っていた。




