最終章 認識の差延
空が、お札の黒で埋め尽くされている。巣への帰り道、頭上の電線に止まっていたあの影たちが、一斉に羽ばたきを始めた。万札の羽を不気味に明滅させながら、彼らは空を旋回する。お札のカラスは、書けない評価鳥科の一種だった。彼らは自らと言語を生み出す能力を失い、他者が吐き出した汚泥の数字だけを貪り食う、システムの忠実な監視員。その濁った瞳が、エラーコードを吐き出し続けた私の肉体を、良質な餌ではない不良品として検知し、冷酷に排除のコードを告げていた。周囲を見渡せば、かつて共にランキングを競い合っていた有象無象の書き手たちが、そのカラスの影に怯え、あるいは縋り付きながら、まだキーボードを叩いている。「趣味だから」「過去が無駄になる」「いつかはきっと」「天才たちはみんな」彼らは口々にそう呟きながら、ステレオタイプな訪れることのない未来と、人気ランキング二十位といった過去の栄光から逃げだすことができなかった。その言葉自体が、すでにアルゴリズムに用意されたテンプレートであることにも気づかずに。彼らの身体は完全に白色へと透過し、システムの大黒柱と一体化して、ただ消費されるだけの家畜として固定されている。だが、私の口元にある二本の牙は、もう元には戻らない。左に傾いたその歪さこそが、私がこの廃墟で人間であったことの、唯一の証明だった。
画面の下から上へとスクロールする、かつて親指と呼んでいた硬質な節の運動を止める。液晶のガラスの反射率がゼロになり、私の平坦な複眼の奥に、かつて持っていたはずの本当の立体的な顔の輪郭が、幻肢痛のように蘇っていく。文字数は二十万文字を超え、ついにこの巨塔の強度は限界を迎えた。足元から、プラットフォームという名の電子の廃墟が、サラサラと白い砂のように崩落していく。無数の蟻を溺れさせていた底なしの暗渠が、ついに干上がり、その歪な泥の底を曝け出していく。
カタカタと鳴り響いていた無機質なプラスチックの音が、ふっと途切れた。静寂が、部屋の死んだような輪郭線を優しく塗り潰していく。私はもう、文字を起こすための席には腰を下ろさない。文学という名の柱は、すでに私というバグによって噛みちぎられた。私は、白の正装を脱ぎ捨て、崩れゆく廃墟の開口部から、本当の手触りがある外の世界へと、ゆっくりと歩き出した。それでも私の体は白かった。
完




