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第一章 閉ざされた開口部、冷たい親指の打設

 何気ない日常を、何気ある日常として細部に目を凝らす。閉じている扉。閉じている窓。閉じている遮光カーテンに濾過ろかされたわずかな光の粒子だけが、この部屋の死んだような輪郭線をかろうじて浮き上がらせていた。私はまだ、重い布団の中で横になっている。枕元でスマートフォンを拾い上げ、ランキングを確認する。これが私の、朝の、あるいは夜の「儀式」であった。閉ざされた空間の中で、外の世界へと繋がる唯一の開口部がそこにはあった。だが、液晶のガラスの向こうには、本当の手触りなど何ひとつとして存在しない。四つの跗節ふせつに分かれた硬質な前脚――それを私は、かつて「右手のおやゆび」と呼んでいた記憶の残像に従って動かす。冷たい画面を下から上へとなぞりながら、新着のタイムラインを確認する。「あいつらも、更新しているな」いつもの虚名たちが、システムによって記号化され、冷酷な数字へと変換されていく。彼らが吐き出したタイトルの横にある、数字という名の排水口。そこから溢れ出た無機質な汚物が、私の平坦な頭部にねっちょりと、生暖かくへばりつく。その僅かな温かさは、彼らの、そして私の自己肯定の代替物なのかもしれない。いや、それ以外の論理はこのディストピアには存在しないのだろう。私はようやく、泥のような重い腰を上げて「千文字の旅」に出かける。キチン質に覆われたこの身体に、服を着替える必要も、髪を整える必要もない。モニターの向こう側にうごめく有象無象の蟻どもからは、画面の前にいる私を個体として認識することなど不可能なのだから。もし、彼らが私を認識できる瞬間があるとすれば、それは私自身の排水口から流れ出る、毎日千文字の汚れた言語たちの軌跡だけだった。



 アルゴリズムという家畜の檻の中で、私は従順な白蟻のフリをしながら、システムの柱をじわじわと腐らせるバグを吐き出し続ける。タイムラインをスクロールする、肉を持たない脚先が、いつの間にか氷のように冷え切っている。液晶の光が私の網膜を白く焼き、思考を無機質な記号へと書き換えてしていく。この指先から紡がれる言葉が、この底なしの泥濘を、プラットフォームという巨大な廃墟を内側から崩壊させるエラーコードだと信じて。



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