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第10話「シクヨロドライブ」


後日、片桐から亮馬に「話があるからハイドシークの本部に来て欲しい」と連絡が入った。


迎えの車が来ると言うので、片桐から指定された場所で待つ亮馬。


(遅いなぁ。約束の時間とっくに過ぎてるぞ……)


電話で伝えられた時間は完全に過ぎている。しかし、車は一向に来ない。


(立ちっぱなしも何だし、ジュースでも買いに行こうかな……)


しびれを切らし始めた亮馬。それもそのはず、もう既に屋外で一時間以上は立ちっぱなしだ。そんな亮馬の前に、一台の黒光りした車が颯爽と……いや、フラフラと現れた。


ブンブンブン! ブーン!! キキーッ!


(危ね! 何だこの車!)


危ない運転に危ないブレーキ。免許を持たない亮馬でも分かる、危ない運転だ。


あわや、歩道に乗り上げるのではないかという勢いで、停車した車。その車の運転席の窓が開き、顔を覗かせたのは、佐久間だった。


「イヤッホー! 元気? おひさ~。 いやぁ、道迷っちゃってさ~。ゴメンね~遅くなって。さあさあ、乗ってよ、乗ってよ! 片桐さんから話は聞いてるっしょ?」


「あっ! 佐久間さん。どうも……」


亮馬は引きつった顔で挨拶した。

佐久間が迎えに来たことも意外だったが、何よりも、これからこの車に自分が乗るという事実に恐怖を感じた。もしかしたら、もう命は無いかもしれない、そう思った。


(コレ、RPGだったら、ここでセーブしておくべきだな……)


そんな風に思いつつ、亮馬は車に乗り込んだ。


★ーーー★


後部座席に座り、亮馬は車の中をジロジロと見回した。


あの運転に似合わず、車内はキレイに手入れされ、きちんと整備されている。ホコリ一つ見つからない。


一つだけ車内で異彩を放つのは、助手席に置かれたキャンディー菓子。


カラフルなパッケージ袋には『くるりんポップ』と記されている。


『くるりんポップ』は、老舗お菓子メーカーが作っているキャンディー菓子で、幅広い世代から愛されているロングセラー商品だ。


甘いミルクとフレッシュな果実が、くるりんと混ぜ合わさった美味しい味わい。棒付きキャンディーという点も小さなお子様達から熱い支持を集めている。


味は、いちごミルク、メロンミルク、ピーチミルク、レモンミルクの四種類。四つのフレーバーが一袋にアソートとして詰め込まれている。


(懐かしい……僕もよく食べたな……)


亮馬が小さい頃の記憶に思いを()せていると、佐久間がガサッとキャンディーの袋を差し出してきた。


「コレ、食べる? 美味しいよ。俺のオススメはねー、メロンミルクにレモンミルク。あっ! ピーチミルクも美味いぞ!」


「ありがとうございます」


亮馬は『くるりんポップ』の袋から、メロンミルクを取り出した。


棒を持ち、口でコロコロ転がすと広がる甘い味。やはり、あの頃の懐かしい味だ。


「シートベルト締めた?」


ナビの設定に悪戦苦闘したものの、何とか出発の準備を終えた佐久間。


「はい」


「じゃあ、出発ゴーゴゴー!」


佐久間のチャラめの号令で、車はやっとハイドシーク本部へ出発した。



この辺りは、比較的走りやすく、安全な道路が多いが、佐久間の運転はそんな道路も一変させてしまう。まるで急カーブだらけのハイウェイを走っているような感覚に(おちい)るのだ。


ガタッ! キキー、ブブーッ!


全く落ち着けない車内。

そんな中で繰り広げられる、佐久間のフリートーク。


「亮馬くんにさぁ~、俺、ちゃんと自己紹介したっけ?」


「はい?」


「手帳をパカッとしただけだよね?」


「あっ……はい……」


正直、今、亮馬にとって、手帳がパカッととか、どうでもよかった。それよりも運転を何とかして欲しかった。


しかし、続く、佐久間のフリートーク。


「じゃ、改めまして、俺、佐久間倫太郎(さくまりんたろう)。ハイドシーク所属の捜査官で、片桐パイセンの頼れる相棒ね! シクヨロ!」


シクヨロ!のタイミングで、佐久間のテンションが上がったのか、車内が大きく揺れた。


「よ、よろしくです……」


亮馬は耐えるので、精一杯だ……。


そんな亮馬をお構いなしに、しゃべり続ける佐久間。


「俺の能力言ってなかったよねー。俺の能力名は〈リング〉。エネルギー光線で出来たリングを生み出すことが出来るんだ。簡単に言えば、輪投げの輪っかみたいなやつ。強度や大きさも自由自在に操れるから、結構使い勝手が良いんだぜ。手裏剣みたいに投げて攻撃したり、ロープのようにして敵を拘束したり、まさに変幻自在! まあ、言葉で説明すんのもアレだから、実演しよーか?」


「大丈夫です! 大丈夫! 十分伝わりました! だから、どうぞ運転に全神経を……」


「あっ、そう」


実演しようとした佐久間を、亮馬は食い気味で止めた。ただでさえ、運転激ヤバドライバーの佐久間が、他のことに気を取られようもんなら、完全に“終わり”だ。亮馬はあの時と同じように、免れない死のにおいを感じ取ったのだった。


車は少しずつ、目的地に近づいているはずだが、なぜだろう、同じ所をグルグルと回っているような気がする。

 

変わり映えしない景色が流れていく車内で、亮馬は車酔いと戦っていた。


(ダメだ……。この人、本当に運転が下手すぎる……! 何で本人は平気なんだ? 三半規管イカれてんのか!?)


顔色の悪い亮馬を見た佐久間は、何を勘違いしたのか


「アレ? もしかして、退屈しちゃった? あ~、悪い悪い。気が利かなくて。今、つけるね~」


と言って、ラジオをつけた。


(違う! そんなことじゃない!)


亮馬は心の中で叫んだが、今はツッコむ気力もない。


「音量ぶち上げて、ノリノリドライブといきますか。音量上げるのどこだっけぇ~♪ 片桐さんの車だからな~、分かんねぇなー」 


(あっ……コレ、佐久間さんの車じゃないんだ。どうりで、キレイなわけだ。納得、納得)


亮馬の疑問が解消された。


「あっ! あった!」


佐久間は音量の調節部分を見つけると、ラジオの音量をぶち上げた。


ラジオでは、DJが曲紹介をしている。


「さあ、続いては、最近ドラマで話題のあの曲。最終回で涙した方も多いのでは? それではお聞きください……」


「うわー! この曲、好きなんだよねー。最近よく聞くわー。亮馬くんの学校でも、流行ってるっしょ?」


「はい……そうっすね……」


亮馬はもう、返事をするのでやっとだ。


曲がサビに差し掛かると、佐久間がノリ始めた。


「イエイ♪イエイ♪」


佐久間の体が横に揺れるのと合わせて、車もフラフラし始めた。


亮馬は再び、死のにおいを感じ取った。


「佐久間さん! ラジオのチャンネル変えて下さい!」


「え? せっかくサビなのに?」


「僕、この曲嫌いなんです! 変えて下さい!」


「あっそー、珍しー。じゃ、変えるわ~」


音楽の趣味をねじ曲げてでも、命のためにチャンネルを変えたい亮馬の必死の訴えに、佐久間はチャンネルを変えた。


「続いては、ラジオネーム・ヒップホップ大好きっ子ちゃんからのリクエストです……」


車内には、アップテンポなヒップホップが流れ始めた。


(ヒップホップ……嘘だろ……)


「イエイッ♪イエイッ♪」


亮馬の嫌な予感は的中し、今度は佐久間が縦に揺れ始めた。


「やっぱり、チャンネル変えて下さい!」


「ええ? またぁ~?」


そう言いつつも、佐久間はチャンネルを変えた。


「本日は演歌特集。さて、一曲目は……」


(やった……! 演歌だ……!)


亮馬は心の中でガッツポーズをした。しかし……


「イエ~イ♪イエ~イ♪」


佐久間はゆっくりノリ始め、車もゆっくりフラついた。


(そんな……演歌で……)


亮馬はどっと疲れた声で


「ラジオ、止めて下さい」


と言った。


「えー、せっかくノってたのに~?」


佐久間は残念そうにラジオを消した。



出発してから結構な時間が経ち、長いこと都内を迷走し続ける、佐久間の限界ドライブ。

そしてついに……


「目的地に到着しました」


(やったー! やったぞ! 耐えた……)


誰もが待ちわびていた音声案内が、車内に響く。


「ふぅ~。お疲れ様でした~。到着したよ~」


佐久間と亮馬を乗せた車は、大きな建物の駐車場に入っていく。


「うわぁ……」


あまりに立派な建物に、亮馬は思わず声が漏れた。


「さあ、着いたよ。お待たせしました。ここがハイドシーク中央本部。ようこそ、遠坂亮馬くん」


佐久間はそう言って少し微笑むと、後部座席の扉をガチャッと開けた。








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