第95話姫 前編
ミルセンの頼みは、ある程度の準備が整った後に叶えることになり、とりあえず今目はの前の問題を解決することになった。
その目の前の問題と言うのは、
「三日間サボっちゃった分、しっかり働かないとね」
「私はともかくとして、スズカ達まで仕事を放置する必要なかったのに」
「アリスを探し回っていたんだから、仕事どころじゃなかったに決まっているでしょ」
当初の目的である温泉の穴堀り。私どころかスズカ達まで仕事を放置してしまったので、依頼主に酷く怒られた。ただ事情はしっかりと説明して、期限を引き伸ばしてもらいその分働くこととなった。
流石に今回からはスズカばかりに力仕事を任せようとはせず、それぞれの役割分担をしっかりして穴を掘っていった。
それで私はというと、スズカと一緒に穴を掘る役割を任されたので、先程から腕が痛くて仕方がない。
「ねえアリスはどう思った?」
「何が?」
「ミルセンのこと」
「昨日言っていたケジメ、だっけ」
「そう。彼女自身のことほとんど話さないから、何をしようとしているのか分からなくて」
「私もそれは思った」
人の事言えない立場だけど、ミルセンについて分からないことが多いのは確かだった。だからどうして突然あんなことを言い出したのか分からないし、ずっと引っ掛かっていることが一つある。
「姫って何なんだろう」
「そういえば襲撃した狐がそんな事言っていたんだっけ」
「うん。それにミルセンはその言葉を否定もしなかった」
「それってミルセン自身がその姫だからってこと?」
「それもある。けどそれ以上に......」
「お疲れ様ですアリス、スズカ。一度休憩にしませんか?」
私が言おうとしたある推測を遮るかのように上の方からリンシアの声が聞こえる。
「そろそろお昼か。分かった、休憩にしよう」
そう答えたスズカが、あらかじめ用意されていた梯子を登る。私も後を追って登ろうとしたところで、何かが競り上がってくるような音が、掘っていた場所から聞こえてきた。
「待ってスズカ」
「どうしたの?」
「休憩をとらなくてもこの仕事、終わるかも」
その言葉とほぼ同時に、地面から温泉が沸き上がった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「極楽極楽」
「まさか本当に堀当てるなんてすごいですね、二人とも」
「私よりスズカの方が頑張ってる」
「そんな照れるじゃない」
見事温泉を堀当てた私達は、周辺の整備が整った後、一番最初に温泉に入らせてもらうことになった。堀たての温泉は、効能はわからないものの、ここまでの疲れが一度に吹き飛ぶような気持ちよさだった。
「本当頑張ったかいがあったよ。こんなに気持ち良い温泉に入れるなんて思っていなかったし」
「そもそも堀当てる事すら怪しかった」
「無茶な依頼なのは確かでしたね」
「ユドラシアは最近温泉の開拓に力を入れているから、皆忙しいんだと思う」
「ミルセンはユドラシアについて詳しいの?」
「故郷からすぐ近くの街だから」昔からよく遊んでいたの」
「へえ」
そう言われてみれば、ミルセンを保護してすぐに奴等が嗅ぎ付けたのも納得できる。でもそれならどうして彼女は、故郷から近くの場所に逃げてきたのだろう。
(普通ならもっと遠くに逃げてもおかしくないはず。それにそれほどの距離なら......)
三日も食事ができなかったというのはあり得るのだろうか。疑うつもりはないけど、ミルセンについてもっと私達は知るべきなのかもしれない。
「難しい顔してどうしたんですか? アリス」
「あ、いや、ちょっと考え事」
「最近考え事してばかりじゃない?」
「そうだけど、大丈夫だから心配しないで」
沸き立ての温泉を堪能した後外はすっかり真っ暗になっていて、夕食を食べた後は皆働いた疲れからか宿に戻ってすぐに眠ってしまった。私も疲れて眠いはずなのだけど、何故か眠りにつけずに既に一時間が経過している。
(最近色々ありすぎたからかな......)
間もなくミルセンと出会って一週間。この一週間は信じられないほど濃い一週間で、色々なことが二人に知られてしまった。けど私が真に恐れていることが一つある。私達は二ヶ月前に出会うよりも前に出会っている。ただその出会いを思い返すことはない。
「アリスも眠れないの?」
ふと背後から声が聞こえる。振り向くとそこにはミルセンがいた。
「ミルセンも?」
「うん。ちょっと私も考え事していて」
「故郷の事?」
「.......」
ミルセンはなにも答えない。やっぱり肝心な事は話そうとしない。だから私は彼女を疑ってしまう。
「話したくないなら話さなくていい。けど、少しでも話さないと仲間同士の信頼は得られない」
「信頼?」
「そう。私も人のことは言えないけど、仲間に隠し事をしていると、自分も辛くなるし仲間だって辛くなる。これから妖狐の郷に行くなら尚更」
「それは......郷に行ってから話す。でもその前にアリスが知りたいことがあるなら少しだけ教えるよ」
ミルセンはそう答えた。私が知りたいことは沢山あるけど、まず知りたい事は
ただ一つ。
「ミルセンは郷の姫って呼ばれる存在なの?」




