第96話姫 後編
まずは私はそれを聞きたかった。彼らの言う暇という存在が、本当にミルセンなのかと。
「姫……確かに私はそう呼ばれてるよ」
「じゃあミルセンは、妖狐の郷の長に近い存在なの?」
「長というにはまだ遠い存在だと思う。私より妹の方が向いていると思うし」
「妹いるの?」
「うん。とても大切な妹、フォルシアって名前なの」
「へえ。でも妹の方が向いているってどういう事なの?」
「その言葉の通り、私はフォルシアよりも全然力もないし、統率する力もない。だから私はあの場所から逃げてきた」
「だから今ここに?」
「うん」
一見筋が通ってそうな言葉だけど、どうもミルセンの言葉には引っ掛かる事が多い。当の本人はちゃんと話しているんだろうけど......。
「妹の事は嫌いなの?」
「そんなことないよ。フォルシアは私にとってただ一人の妹。でもだからこそ少し嫉妬しちゃうのかも」
「嫉妬、か......」
「ねえ折角だからアリスの話も聞かせて」
「私の話? 特に面白いことなんてないよ」
「そんなこと言ったら私の話も面白くなかったでしょ。だから何か話してよ」
何て無茶なことを言うのだろうと思いながらも、私はミルセンに自分の過去のことを話した。
「男の人が嫌いなの?」
「この世界で一番醜いのは男だと思ってる」
「そこまで?!」
「そこまで。私は生涯男の人に心を許す事はないって断言できる」
「す、すごく恐ろしいことを言うね」
「昔から私はそうだから」
まさか三年後にその言葉が嘘になるなんて思っていなかったけど。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「お姉ちゃん、ずっとそんなこと考えていたんですね.......」
ここまでアリスの話を黙ってきていたフォルシアがふと口を開く。
「ミルセンはずっとその事で悩んでいた。でも決してフォルシアを嫌っていなかった」
「そんなこと分かってますよ。でも分かっているからこそ、ショックが大きいんです」
「姫って言うのは、郷の中でも特別なの?」
「特別と言いますか、ある力を持っている者のみその名が与えられるんです」
ある力と言うのは、あの風の魔法のことなのだろうか。その辺りの話もアリスから聞けるかもしれないけど、ここまでの話でかなり時間が経ってしまったので、ここで一度休憩を取ることに。
「それにしてもあの温泉を作ったのがアリス達だったなんて驚いたよ」
「作ったというよりは堀当てただけだけど」
「それでも十分すごいじゃない。私なんか多分受けようとも思わなかったと思う」
「確かにセレナには向かなさそう」
「言ってくれるじゃない」
アリスが話している間は重い空気が流れ続けていたのが一変して、和やかな空気が流れる。ここまでの話を聞いて感じたのは、僕達の他にもアリスを受け入れてくれる場所が、ちゃんとあって安心した事。
そして同時に一体何があってその関係が崩壊してしまったのか。その辺りはこの先の話で分かってくるのかもしれない。
「ユウマ」
「ん? どうしたの? アリス」
「私は三年前に今と同じように居場所を作ってくれた人がいた。けど結局それも崩壊して、私はまた一人になった。けどもうこの居場所は崩したくない。だからユウマを信じたい」
「大丈夫だよ、僕はアリスを裏切るようなことだけはしないから。それにこうして自分の事を話してくれるのは嬉しいよ」
「嬉しい?」
「アリスもあまり自分の事は話さないからさ」
これまでも色々なこと話してくれてはいたけど、今日のように昔の事をしっかり話してくれた事はなかった。だから少しだけ嬉しかった。
「ユウマは時々不思議な事を言う」
「そんな不思議な事は言ったつもりはないんだけど」
「でもありがとう」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ここまで自分の事を誰かに語ったのは初めてだった。けど決して気分は悪くない。まさかユウマに感謝されるとは思っていなかったけど、その感謝の言葉も消えてしまうのではないのかと思ってしまう。
何故ならこの話はこれからが大切な話だ。温泉を掘り当てた数日後、私達はミルセンとの約束の通り、彼女の故郷へと向かうことになる。
そしてそこで待っていたのは、
「お前は! この前はよくも同胞を」
「そっちが襲ってくる方が悪い」
「お前らが姫様の誘拐を企てるから」
「誘拐なんて元からそんなつもりはない。ミルセンはミルセンの意思でユドラシアへ逃げてきた」
「そうですよ。ここに戻ってきたのだって、彼女が私達に頼んできたことで」
「なら何故どこにも姫様はいない。脅しにでも来たのか?」
「え?」
私の中にあった嫌な予感が的中してしまう出来事と、
「もう我慢できないんですよ! 貴女が闇の魔法を使うと分かった時から、自分の中に渦巻く憎悪を抑えることが」
「リンシア、それは違う。私は決して」
「なら説明してください。どうしてあの日、そして今日も……私から大切なものを奪ったんですか?!」
「私は何も奪ってない! 私はただ守ろうとしただけで」
「そんな言い訳、聞きたくありません!」
築いていたはずの絆の崩壊だった。




