第74話ミッドナイトエスケープ〜竜人〜
それは突然やって来た
作戦決行のほんの少し前、ムラサメが僕の部屋にやって来たのだ。今まで一度もなかった事に、僕は動揺を隠せないでいると、
「ユウマ、お主は儂に隠し事をしておるのう」
「隠し事?」
「とぼけるでない。お主がここに来た時から、光の神様とやらと話をしておるのを知っておる」
「そ、そんな事僕は……」
僕は何とか誤魔化そうとするが、ムラサメはさらに僕の元にやってきて、胸ぐらを掴んできた。
「とぼけても無駄じゃ、夕刻の動きも、主の仲間のものだと分かっておるぞ」
「僕の仲間なら……どうするつもりなんだ」
「命を頂く。しかも儂が直々にのう」
「そんな事……させない!」
そんな状況で僕は今がチャンスだと思い、ムラサメの腹部に蹴りを入れる。
「ぐっ、この状況でまだ抗うつもりか」
「そっちの目的が元から僕を殺すつもりだったなら……僕だって抗わせてもらう!」
ムラサメから離れることができた僕は、彼女の脇を通って、部屋を脱出する。今動かなければもうこの部屋から、この屋敷から脱出する事はできない。
(セレナ、アリス、ハルカ、今すぐ僕がそっちに向かって……)
「よくもこの儂を舐めた事をしてくれたのう!」
『ユウマ、後ろ!』
今まで声を発してなかったシレナが叫ぶ。僕それに反応して振り返り、魔法を剣で受け止める。
「ちっ、この一瞬であの剣を作れるようにまで」
『ユウマ、次が来る前にそのままダッシュで正面の窓に』
僕はシレナの指示に従って、長い廊下を駆け抜ける。
「じゃが儂を簡単に舐められては困る。サラ!』
『はい、ムラサメ様!』
けど窓へと飛び込む直前、僕の左側に強い衝撃が走る。それは今までに感じたことのない痛み、それが何かを感じたら間も無く、僕の身体は窓とは違う方向、壁を突き破って外へと放り出された。
『ユウマ!』
『ムラサメ様の邪魔をする人間は許さない!』
僕の体に当たってきたのは、初日に戦ったあの竜だった。あの屋敷のどこに竜が隠れていたのかなんて考えている暇もなく、屋敷の外に投げ出された僕の身体は、屋敷の周辺の外にあった森の中へと落下していった。
(あ、これもしかして僕……このまま死ぬ?)
「何をしておるサラ、ユウマを捕らえなかったら何も意味がない」
『ふぇ、あ、む、ムラサメ様、ごめんなさい!』
「竜の体じゃ小さきものは探しにくい。今すぐ人間の体で探して来るんじゃ! その間に儂は潜入者を倒してくる」
『わ、分かりました!』
■□■□■□
竜によって吹き飛ばされた僕は、落下した全身のダメージからしばらく動けなかった。竜の突進を受けた体の左側のダメージが特に酷く、しばらくは体を動かさないかもしれない。
(く……そ……これからどうすれば)
さっきからシレナの声も聞こえていない。このまま動かなければ、ムラサメかもしくはあの竜に見つかってしまう。その前にこの体を何とかしなければならない。
(あれからどれくらい時間たったかも分からない。もしかしたらセレナ達も……)
「はぁ……はぁ……見つけた」
そう思っている間に聞き覚えのある声が聞こえる。聞き覚えのある声に顔を向けると、そこに赤い髪の少女が立っていた。
「これでここ最近の失敗は取り戻せる。ムラサメ様に見捨てられずに済む。今度こそ今度こそ」
その声の主はついさっきも聞いた竜の声。シレナが言っていた竜人族の女の子、つまりこの子はあの竜が人間になった姿。
「今度こそ……」
けど少女の様子はどこかおかしかった。最初に戦った時も彼女は、まだ戦いに慣れていない感じの様子だった。それに今の怯えているような様子も、どうにもおかしい。
「どうしたの? 僕を捕まえに来たんだよね?」
「う、うん。で、でも」
「でも?」
「私怖いの」
「怖い?」
「私いつも失敗したばかりだから、いつか殺されるかもしれない。だからすごく怖い」
「でも僕を連れていけば」
「でもそれ、今回だけだよ? 例え今日は成功しても明日は失敗するかもしれない。だからすごく怖い」
体を震わせながらサラは言う。さっき彼女はさりげなく殺されるかもしれないって言っていた。それを彼女は怖がって、今僕の目の前で体を震わせている。
そんな一人の少女を、僕は放置してしまっていいのだろうか?
たとえ僕に怪我を負わせた相手だったとしても、僕が今するべきことは……。
「君、サラって言う名前だっけ?」
「うん……。貴方はユウマ、だよね」
「そう、僕はユウマ。サラはムラサメの所には帰りたくないんだよね?」
「帰りたくない。でも帰らないと私、ムラサメ様に」
「なら僕に手を貸してくれないかな」
彼女に救いの手を伸ばすべきだ。今この状況でこの場所から脱出する方法は、彼女と協力する必要がある。
「手を貸す? 私が?」
「僕は今すぐ仲間達とこの場所から離れたい。そこにサラも付いて来て欲しいんだ」
「私も……ついて行っていいの? ユウマに」
「サラがそれを望んでいるなら、一緒にここを脱出しよう」
だから僕は何とか立ち上がりサラに手を差し伸べる。それに対してサラは少しだけ悩んだ後、僕の手を掴んだ。
「私もユウマ達の元に連れて行って!」




