第75話ミッドナイトエスケープ〜窮地〜
ムラサメがこの場にまでやって来るのは、私達も予想していなかった。彼女自身が私達の目の前に現れること、それはつまり作戦が筒抜けだったことを示している。
それは私達が考えたあらゆる可能性の中で、一番起きてはならなかったことだった。
「四将星も随分と舐められたものよう。こんな少数でこの屋敷から人を救出しようなどと」
そして今、フェルナがムラサメに人質に取られてしまっている。そもそも陽動部隊の彼女が私達と合流するのは、全てが終わった後。
私達の知らないところで一体何が起きたのか、そしてあの爆発とユウマの安否。確認したいことが多い中、セレナがフェルナを助けようと前に出る。
「フェルナ!」
「おっと動くでない。下手に動けばこやつの命はないぞ」
「っ! 何のつもりでこんな事を」
「何のつもり? それはこちらの言葉じゃ。儂は大人しくしておればユウマには手を出さぬと言ったぞ」
「よくもそんな見え透いた嘘を。元からユウマから全てを奪うつもりだったくせに」
「何を言ってあるから分からぬがのう。まああの魔法使いは今頃、竜の餌になっておるじゃろう」
「え?」
緊迫の中で私達に動揺が走る。先ほどの爆発に近い音がそれだったのかもしれない。それなら今すぐにでもユウマを助けに行きたい。
「先輩、私のことは気にしないで本来の目的を」
「そんなこと出来るわけないでしょフェルナ! 私は……もうあの日のことを繰り返さないって決めたんだから」
「強がったところで状況は変わらぬぞ。さあ、大人しく儂の言うことを聞いてもらうぞ」
けどこの窮地を突破しなければ、救出どころか私達の命すらも危うい。
「セレナ、どうする」
「そんなの……大人しく従うしかないでしょ。ユウマの事も気になるけど」
「それでよい」
だから私達はムラサメに大人しく従うしかなかった。これ以上被害を出さないためにも、今は冷静に状況を見極めなければならない。
(ユウマ、ごめん)
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「そんな簡単に諦めるような剣士に育てた覚えはないわよ、セレナ」
けど諦めかけたこの状況を打ち破るように声がしたかと思うと、ムラサメに向けて大量の水が滝のように落ちてきた。
「なっ、伏兵が」
それをムラサメが無理やり避けたお陰で、彼女とフェルナが離れる。フェルナの体をセレナが受け止めて、その間を縫うように、私とハルカが追撃をしようとした。
けどそれよりも先にムラサメに襲いかかる一つの影。
「何故じゃ、お主たちの味方はもう」
「一人だけ忘れているぞムラサメ」
「その声、その魔法、貴様は」
「よくも私の大切な弟子を騙してくれたな」
ムラサメに向けて水の剣を振りかざし、彼女を斬りつけるその人物。その姿と声に私は確信した。
いや、もっと前から確信していた人物が一人いる。
「師匠?」
「な、何とか……間に合ったんですね。ティアさん」
その人こそ本物のセレナの師匠だった。今までとは正反対の口調と、身のこなしは紛うことなき水の魔法剣士ティアそのものだった。
「洗脳が解けたのか」
「洗脳も何も、元から私の心はお前のものにはなってない」
「これは流石に予定外じゃ。一旦ここは」
「私が逃すとでも? お前には沢山借りがある。この場所で」
「覚えておれ!」
ムラサメは炎の渦を自ら身にまとい、その場所から姿を消す。ティアの更なる追撃は間に合わず結局ムラサメを逃す形になってしまった。
「相変わらず逃げ足が速い女だな」
「師匠? 本当に師匠なんですか?」
そんなティアに対してセレナが駆け寄っていく。
「久しぶりだなセレナ」
「久しぶりだな、じゃないですよ! 何でここに師匠が」
「それはこっちの台詞だ。何故お前はここにいる。あの日確かにお前は」
「それは師匠も一緒じゃないですか! あの日師匠と私はムラサメに……」
「私がムラサメに? そんな事あり得るわけないだろ」
「え? じゃああの時、何で」
混乱するセレナ。それは私も同様だった。そもそも今日まで一緒にいたティアは姿は一緒だったものの、口調も性格も全く違っていた。
それにムラサメはさっき洗脳とも言っていたし、私も知りたいことが多かった。
「先輩、その説明はあとで私がさせてもらいます。それよりもまずは仲間を探さないと」
「あ、そうだユウマを! 師匠、私の仲間が竜に襲われているかもしれないんです!」
「何? 竜が?」
「とにかく急がないと!」
ムラサメが姿を消した今、命が危ないのはユウマだけ。先ほどのムラサメの言葉が本当ならば、急いでユウマを助けに行かなければ。
そう思って私達が急いでユウマを探索した結果、無事三十分後に森の中でユウマを見つかった。
「へえ、私達が一生懸命戦っていたのに、ユウマはそんな事をしていたんだ」
「ちょ、ちょっと待ったセレナ。ものすごく誤解していると思うけどこの子は」
「ハルカ、大剣貸して」
「うん、いいよ。一思いに殺っちゃおう」
「お願いだからまず話を聞いて!」
一人の女の子と添い寝という形で眠っている姿で。
「すぅ……すぅ……お兄ちゃん……すぅ」




