第72話ミッドナイトエスケープ〜前夜〜
陽動組 フェルナ ティア
潜入組 セレナ ハルカ 私
という感じで今回の作戦の班は分けられた。陽動組はティア一人のはずだったのだけど、彼女一人だと不安に感じたフェルナが付くことになった。
作戦実行は三日後の深夜。それまでにまずはムラサメの屋敷まで移動し、偵察と敵を軽く刺激する。そして翌深夜に屋敷に侵入してユウマを救い出す、というのが作戦の概要だった。
「大雑把」
「仕方がないでしょ。私こういう作戦を考えるのは苦手なんだから」
ムラサメの屋敷へ出発する前夜。私達は少し久しぶりに三人だけで話ができる時間ができた。王都の一件以来、それぞれ色々な事があったからか、この時間が久しぶりな気もする。
「それでももう少し考えるべきだったんじゃないかな」
「ハルカまで。でも、ほら、シンプルの方がベストな時だってあるでしょ」
「それはあるけど、敵の格が違いすぎる」
「それに難しく考えすぎるとかえってそれが仇になる事だってあるんだから。それとも二人に何かいい作戦があるの?」
「私達も考えていなかったわけではない」
私とハルカでセレナの作戦とはまた別のものを考えていたのは本当だった。ただその作戦は、ティアを入れていない場合の作戦。
「陽動を必要としない二箇所から潜入して救い出す。どちらかがムラサメと遭遇しても、最悪ユウマだけでも助けられる」
「二箇所も潜入ルートがあるの?」
「ルカが教えてくれた情報が役に立った」
ルカが教えてくれたのはムラサメの屋敷周辺の建物や環境。そこから屋敷へと直接繋がるような隠し通路が何箇所かある事まで教えてくれた。
ルカは最初は不思議人だと思っていたけど、その情報の正確さはもしかしたら行商人というよりは情報屋なのかもしれない。
「ここに戻って来る前に確認してみたの。そしたらここの情報通りの地形になっていた」
「ということはこの情報は信じていいってことね」
「そう。そしてユウマが今も無事だということも分かった」
「どうして?」
「さっき私の人形の中にいる自称女神が」
『自称とか言わないでよ! 本物なんだから』
私の言葉を遮るように一体の人形が喋った。ユウマが連れてきたという自称光の女神、シレナ。ユウマを信じないわけじゃないけど、彼女については名前は本当かもしれないけどその存在は大変疑わしく思ってる。
だから私の中ではまだ少しだけ信じられていない。ユウマがこの世界の人間じゃないことも。
『ユウマにも私から皆が動き出してくれることは伝えておいたよ。出発は明日で、決行は明後日の深夜でいいんだよね?』
「それで問題ない。あとはシレナがユウマを合流ポイントまでなんとか誘導してほしい」
『誘導するのはいいけど、そっちは大丈夫なの? 多分あのムラサメが相手だから、一筋縄じゃいかないよ?』
「分かってる。私達の目的はあくまでユウマの救出だから」
「そうそう。私も本当はムラサメと決着をつけたいけど、我慢してユウマを助けるだけに集中するから」
それはセレナがこの作戦を発案した時と同時に誓った事だった。王都の戦いの時、自分が先走ったことをセレナ自身が後悔していた。
いくら自分の仇の相手とはいえど、するべき事をせずに勝手に動いた自分はまだ未熟だったと。
『まだ治ってない体でムラサメと戦うのは言語道断だけど、それを抜きにしてもあの屋敷には危険なことが多いの。敵には火竜もいるし』
「火竜って、この世界にまだ存在してたの?」
『正確にいえば竜人族だけど。まあ、こっちの方が私も驚かされたんだけど』
「りゅ、竜人族?!」
セレナが驚いた声を上げる。それもそのはず、竜人族は本来ならこの世界には絶滅したと言われていた種族だ。その生き残りがいたとなれば、それはもはや歴史的発見だと言っても過言ではない。
「この世界に竜人族がまだ生きていたなんて……」
『信じられない話だと思うけど、私もユウマも見ているから驚くしかできないの。それをまさか相手することになったなんて尚更』
「戦ったの? ユウマ」
『うん。一番最初の相手がそれだったから、どうなるかとは思ったけど、ちゃんとユウマは乗り越えてくれた』
「ユウマ、いつの間にそこまで実力を」
『少なくともその時はただの偶然で勝てたんだけど、この二週間でユウマは飛躍的な成長をした。相手が相手だったから、戦っているうちに成長したんだけど、それでもユウマは大きく変わったと思ってるよわたしは』
自称神様がそこまで言うなら、ユウマに再会するのが楽しみになる。これは仲間としてではなく、一冒険者としてユウマの力が私は気になった。
それは多分セレナやハルカも同じ気持ちだ。
「なら尚更ら助けないと。ユウマを」
「うん、失敗は許されない」
「ユウマが私達を助けてくれたんだから、今度は私達がユウマを助ける番だよね」
『難しい作戦にはなると思うけど、私もサポートする。だから必ず助け出してねユウマを』
気持ちは同じだからこそ私達の結束は固まる。かけがえのない仲間を救い出す、というたった一つの目標の為に。
私達だけの初めての大きな戦いがいよいよ幕を開ける。




