第54話皆の言葉
「そんな事ない.そんなことないよ!」
アリスの言葉を否定するように僕は声を張り上げた。
「仲間にならない方がよかったなんてそんな事ないよ。確かに少し毒気があるけれど、それでもアリスはアリスだよ。どんなに恨んでいようが、闇の力を抱えていようが」
「今まで……私は自分のしている事に躊躇いはなかった。けど、私の中に躊躇いが生まれた」
「それって」
「ユウマやセレナ、ハルカの事を考えた。そしたら私は闇に手を染められなくなっていた。目の前に仇がいるのに躊躇ってしまった」
「それでいいんだよ。何も孤独になってまで、一人で闇に手を染める必要ないよ」
「なら私はどうすればいい? いつまでもいつまでも仇を取れないまま生きればいいの?」
「それは……」
アリスが仇を取りたい気持ちは分かる。だけど、それを僕から勧めるような事はできない。だって復讐からは何も生まれないのだから。
色々な思いを巡らせながら、僕は彼女の手を取る。
「やっぱり駄目だよ、復讐なんて考えたら」
「でもそうでもしないと、あの日失った人達の思いが浮かばれない」
「なら別の方法を考えればいい。僕達が一緒に考えるから」
「ユウマ……」
「この前アリスも言ってくれたじゃないか。私達が僕を支えてくれるって。なら、僕達もアリスを支えるよ、だから」
「全く、交代の時間になっても戻ってこないと思ったら、何格好つけてるのよ」
「本当、私達を差し置いて」
「なっ、セレナ、ハルカ、いつの間に」
僕の言葉にいつの間にか部屋にやって来ていたセレナとハルカが、茶々を入れてくる。
「でもユウマの言う通りよアリス。私達は支え合ってこその仲間なんだから、一人で抱え込む必要なんてないのよ。もしアリスが復讐に走るなら私達が全力で止めてあげる」
「そうそう。人を恨む気持ちは理解できないわけではないけど、それでアリスも手を染めてしまったら何も意味がなくなっちゃうもん」
「セレナ、ハルカ……」
セレナとハルカがそれぞれアリスに言葉を紡ぐ。今のアリスに必要なものは言葉だ。彼女が孤独になる必要がない事、そして僕達が同じようにアリスを支える事。
この言葉を聞いて、今アリスがどんな事を考えているかは分からない。だけど、これだけは分かってほしい。
「アリスがどんな人間だろうと仲間なんだ。雷神の森の時にも言ったけど、絶対に離れたりなんかしない」
「……なら、ユウマ達は背負ってくれる? 私のこの想いを」
「想い?」
「私は何かしらの形で、街の皆の仇を取りたい。私は絶対にあの女を許さないし、それに」
「それに?」
「私が彼女の間違った道を正してあげたい」
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アリスを完璧に説得する事はできなかった
彼女の仇を取りたいという意志はやはり消えない。そしてその想いを僕達にも背負ってほしいと。僕達はその言葉に今は頷くことしかできなかった。
まだアリスは僕達に完全に心を開いてくれたわけではない証拠だ。
「あそこまで頑なになる辺り、かなり根が深いのかもしれないね」
「そうね。そういう事を話すのが好きじゃない事は知っていたけど、やっぱり複雑な気持ち」
「それは私も同感」
僕達としてはアリスに復讐自体をやめさせたかった。けどあの女が言っていたように、僕達が知っている事は上辺だけの事実。
もしもっと込み入った話を聞けたら、もう少し彼女の気持ちを理解できるのかもしれない。
「故郷を奪われた仇、か」
「ユウマは正直なところどう思っているの? アリスの事について」
「その気持ちは分からなくもないけど、理解はできないよ。さっきもハルカが言っていたけど、復讐をした事で何も生み出さない」
「でもアリスはそれを望んでいるのよね」
「うん。けど、少し引っかかることも言ってた」
「間違った道を正してあげたい、よね」
最後にアリスが言ったその言葉の意味が一番分からなかった。そういう言葉って、赤の他人にかけるような言葉ではないのに、どうして彼女は……。
「その辺りの事情、今後知っていくしなさそうね」
「そうだね。とにかく今日は疲れたし休もうか」
「うん、おやすみなさい」
僕達はそれぞれが与えられた部屋へと戻る。僕は部屋に入るなり、ベッドに飛び込んで目を瞑った。
(今日だけでも色々あったなぁ)
あの女との再会、そしてアリスの発見
光希が探し出した情報がなければ、ここまではたどり着けなかったと考えると、彼女のおかげだったと言える。
その肝心の光希は、次の仕事があると言って今朝方王都を離れた。僕とはまた会えるという言葉を言い残して。
(もう少しゆっくり話がしたかったな……)
心なしか少しだけ寂しい気もするけど、この世界での生き方を彼女なりに見つけているなら僕がそれを止める理由もない。
(明日はシャルティアさんのお見舞いに行くか……)
そんな事を考えながら僕は疲れた体を休める為に、深い眠りについた。
そして翌朝
僕は思わぬ形で早朝に起こされる事になる。
城中に響くは鐘の音
それは敵が……魔王軍の襲撃を知らせる鐘の音だった。




