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第52話染めきれない悪意

 光希が調べを終えて、 僕の元に戻ってきたのは何と二時間後。その仕事の早さに驚かされながらも、僕は光希の報告を聞いた。


「出どころが分からない?」


「うん。どこかで作られたのは確かなんだけど、その元が見つからなかったの」


「うーん、どういう事だろ」


 僕の考えではこの人形の元を辿れば、もしかしたら彼女の故郷の場所とかが分かり、そこからあのフードの女との因縁が分かるかもしれないと思っていた。

 だけどそのアテは外れてしまったらしい。


(いや、もしくは別の可能性も……)


 製造元があっても、もしその場所が既に無くなっていたとすれば話が変わってくる。出どころが見つからないのではなく、既に無くなっているとすれば……。


「もう少し詳しく調べてみるね。もしかしたら見落としもあるかもしれないし」


「ちょっと待って光希」


 部屋を出ようとする光希を僕は呼び止める。


「どうしたの?」


「もしかしたら別の可能性も考えられるかもしれない。アリスが向けていたあれだけの憎悪、そして出どころが分からないアリスの人形達、そこから結び付けられるのって」


「もしかしてその故郷が無くなっているって事?」


「うん。そっちの線で今度は探してみてくれるかな」


「分かった、任せて」


 光希はそう返事をすると今度こそ部屋を出て行く。それとすれ違いで、セレナとハルカが僕の部屋に入って来た。


「ユウマ、よかった。目を覚ましたのね」


「もう目を覚まさないんじゃないかって思って、心配したんだから」


「心配させてごめんね二人とも」


 僕は二人に謝りながら、話をアリスの事に移す。


「それでアリスの手がかりは見つかった?」


「それが全くないのよ。丸一日探し回ったんだけどね」


「私もセレナとは違う方角を探したんだけど、一切の手がかりなし」


「となると、もう既にかなり遠くに行っている可能性が高い、か」


「でもどうして急に」


「一番可能性を考えられるのは、やっぱりあのフードの女だろうね」


「そうなるよね」


 セレナとハルカも同じことを考えていたのか、僕の意見に賛成してくれる。そうともなれば、今大事なのは光希が調べてくれている情報に限るわけだけど。


「僕とハルカはともかくとして、セレナは何か知らないのアリスの事」


「私もそこまで詳しくは……。アリスってあまり自分のことを話さないから」


「確かにそれはそうだよね。基本アリスは人を遠ざけるから」


 雷神の森の一件で少しは心を開いてくれたとは思っていたけど、僕達はまだアリスの事を全く知らない。それ故に彼女は、今回のように一人で動いてしまった。

 彼女の事情を知らない僕達にとっては、今アリスにどう手を差し伸べればいいか分からない。


「アリスがあそこまで感情をむき出しにする理由は、どこかに絶対あると思うんだけど。それを知らないと僕達には何もできない、そういう事なんだよね」


「「……」」


 僕の言葉に二人は黙ってしまう。僕達は今、どう動くべきか分からなくなっていた。遠くへ行ってしまったなら、探し出すのも難しい。その最悪の状況の中で、今僕達がアリスに出来ることは……。


「悠馬! 分かったよ。アリスちゃんの事!」


 ■□■□■□

『そう……アリスはあの事件の唯一の生き残りなのね』


「だから復讐する。ようやく掴んだ尻尾を、私は逃すことはしない」


『私との約束を破るつもり?』


「そもそも約束したつもりはない」


 あの女の居場所を聞いた私は、痛む身体を堪えながらその場所へと向かっていた。その最中に、シレナがどうして私がそこまで恨むのか聞いてきたから話した。

 今まで誰にも話さなかった、話す気もなかった私の全ての始まりを。あの日、私は全てを失い、そして全てが壊れた。


 家族も


 親友も


 故郷も


 何もかも全てを私は失った。

 そして全てを奪ったのがあの女だ。あの女だけは絶対に……。


 私は死の人形使いであり、復讐者。


 たとえこの身を捨てることになろうとも、必ず復讐を果たす。


「見つけた」


「っ、まさかそちらから顔を出すとは」


「今日こそこの恨みを晴らす」


「そのセリフ、もう何度目になる。お前は私に何度も挑み、何度も破れた。そして今回は、仲間も巻き込んだ」


「だから何」


「その復讐が新たな悲劇を生んでいる事に気付かないのか?」


「っ!」


 その言葉に初めて私の心が揺らいだ。昔の私なら、そんな言葉に何も感じることはなかった。だけど、今の私には……。


「お前には関係ない!」


「迷ったな」


 まるで私が揺らぐ事を知っていたかのように、フードの女は私との距離を詰める。その速さに、私は魔法で対処することもできずに、


「爆ぜろ」


 ゼロ距離で彼女の魔法を受け、吹き飛んだのだった。


「お前が私を倒せない理由は、ただ一つ。復讐という言葉に、迷いを拭えていないからだ。そして心強い仲間ができてしまったからこそ、お前の迷いは深くなった」


 地面に倒れふす私に背を向けて、彼女は語る。ただでさえボロボロだった私は、徐々に意識を失っていく。


 また……何もできなかった。


 目の前の敵に対して、私は何もできない。殺したいと何度思っても、私は自らの手を染められない。


 悔しい


 とてつもなく悔しい


 何もできない自分が悔しい


 こんな時私はどうすればいい。またあの背中を眺め続けることしかできないのか。誰か……誰か……。


「ユウマ……助けて……」


 意識を手放す間近、私はふと彼の名前を呼んでいた。


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