第50話爆ぜる王都
風呂上がり、今日はそのまま休んでいいと決まっていたので、僕はそのまま部屋で休む事にした。
(ようやく落ち着ける……)
謁見や食事会と色々あった一日の中で、ようやく安息の時間が訪れる。今頃セレナ達も部屋で休んでいるのだろうか。
(眠く……なってきた)
布団に横になった途端、体に疲れがドッと押し寄せる。このまま眠りについて、明日を迎えてしまおうとそう思った時、部屋をノックする音が聞こえた。
「はーい」
僕は体を起こし、扉を開ける。僕の部屋を訪ねてきたのは、意外にもアリスだった。
「ユウマ、夜遅くにごめん」
「いや、大丈夫だよ。それよりどうしたの?」
「ユウマと話がしたかった」
「僕と?」
とりあえずアリスを部屋に通す。アリスが二人きりで話がしたいと言い出すなんて、ほとんどなかったので少し驚きながらも、僕はベッドに腰掛け、アリスは近くのイスに腰掛ける。
「それで話って?」
「ユウマは本当に元の世界に帰ろうとしたの?」
「うっ、それは」
アリスが言っているのは恐らく謁見での事。あれから三人にゆっくり話す事がなかったので、落ち着いたらしっかり話そうと思っていただけに、僕は動揺してしまった。
「ユウマ、約束だってあるのに、どうしてそんな事をしようとしたの?」
「い、一時の迷いだよ」
「迷いが出るほど私達と一緒にいるのが嫌?」
「ち、違うよ。僕はただ……」
セレナ達の事が嫌になったわけではない。だから誤解だと言いたいけど、シャルティアの言葉が頭をよぎる。
『魔法使いとしての素質があっても、英雄としての素質はありません』
それは紛れもない事実だった。今となってはその迷いも消えているけど、素質の話についてはその通りだった。
「世界を救う英雄になれないと思ったんだ。この魔法がその資格であるなら、他の誰かに渡した方が確実だと思ったから……」
「それはユウマ一人の場合の話。私達がいる」
「……え?」
「誰も世界を一人で救えだなんて言っていない。ユウマに足りないものは私達が補う」
真っ直ぐこちらを見つめながらアリスは言う。僕はその言葉を不思議と信じられた。アリスだけじゃない、セレナだってハルカだって、きっとそんな事を考えてくれている。
「ユウマ一人が背負う必要なんてない。私達も一緒に背負う。それが仲間」
「アリス……ありがとう」
「礼なんて必要ない。私は、セレナ達が思っている事を言葉にしただけ」
「それでも嬉しいよ。少しだけ気が楽になったから……」
僕がそう言うと、アリスは僕に無言で近づいてくる。
「ユウマを絶対に支える。例えどんな事があっても」
そして僕の手を取りながら、アリスは言い聞かせるようにそう言った。僕はそのさりげない仕草に、ドキッとしてしまう。
「ぼ、僕もアリス達の力になるよ。だから頑張ろう」
「うん」
ぎゅっと互いの手を握り、僕とアリスは誓い合ったその時だった。城中にかなり大きい爆発音が鳴り響いたのは。
「な、何だ」
「敵襲?」
■□■□■□
僕とアリスは急いで部屋を出ると、それとほぼ同じタイミングでそれぞれの部屋からセレナとハルカが出てきた。
「何今の音? って、何でアリスとユウマが同じ部屋から出てきているの?」
「詳しい事情は後で話すよ。それより、今のは明らかに爆発音だったよね?」
「ええ。恐らく城の外からだと思うけど」
僕達四人は、音がしたであろう城の外へと出る。するとそこに広がっていたのは、まるで隕石が落ちたかのように大きなくぼみができた地面と、その中心に立つ二人の少女。
一人はフードを被った人物、もう一人は……。
「シェルティア様!」
この国の王女、シェルティアだった。しかもシェルティアは地面に埋まるかのように倒れており、フードを被った人物は剣を彼女に向けている。
どう考えても絶体絶命の状況に、僕は気がつけば体を動かしていた。
「ユウマ!」
「ユウマ様、来ては駄目です。今の貴方には」
「っ、新手か」
駆けつけた僕に気がつき、フードの人物は一旦シェルティアから離れた。
(この声……)
「君はハルカの村で……」
「いつかの魔法使いか。まさかこんなところで再会する事になるとはな」
「どうして、どうしてここに」
そう言葉を発したのは僕ではない。アリスだった。
「久しいな人形使い。また私に挑むか?」
「うっ、くっ」
「アリス?」
「無理だろうな。お前は私には勝てない」
「そんなの……分からない。今の私には仲間がいる」
「仲間……か。お前は私に会う度に何度もその言葉を発していたな。その度に仲間は変わっていて……」
「うるさい!」
アリスが感情を爆発させるかのように、フードの女に掴みかかろうとする。それは僕が初めて見た、人形使いの彼女が自ら攻撃をする瞬間だった。
「そしてその度にお前は私に挑んでその度に敗れる。それは今回も同じく」
「っはぁ!」
だがアリスが接近しきる前に僕がアリスを止め、セレナとハルカがフードの女に攻撃を仕掛けていた。
「ユウマ、離して」
「人形なしで挑むなんて無謀すぎる」
「私はあいつを……あいつを……」
今までにない怒りの感情を爆発させるアリス。それとは打って変わって、フードの女はいたって冷静だった。
「止めてくれるだけの仲間がいてよかったな」
「貴方がアリスとどんな事情があるかは知らないけど、それ以上アリスを馬鹿にするなら私達が許さない」
「ふんっ、私に挑むのか」
「駄目ですセレナ様、ハルカ様。彼女は」
シャルティアが何かを言おうとしたその瞬間だった。彼女を中心に何かが爆ぜた。
「セレナ、ハルカ! あぶっ……」
僕の言葉よりも先に、辺りは膨大な熱と光に包まれた。




