第43話陰謀
「シェルティア様、彼等の招待状の手配、完了しました」
「ご苦労様、フェルナ」
我が王国の騎士団長、フェルナは本当によく働いてくれる。今回の無茶なお願いも、彼女は嫌な顔一つせずに了解してくれた。
ただ一つだけ誤算だったのは、二人が再会してしまった事。それは本人にとっても、彼女にとっても望んでいなかったものだと思う。
「明日の朝に出発する馬車を手配したので、恐らく明日の夜にはこちらに到着されると考えられます」
「では予定通り私達も準備を終わらせましょう」
「はい。ところでお言葉ですがシェルティア様、一つお伺いしてよろしいでしょうか?」
「何でしょうか」
「本当に彼の力を借りるのですか?」
フェルナは少しだけ不安そうに私に尋ねる。彼女にだけは今回の真の目的を伝えてある。それ故に彼女は不安なのかもしれない。
私が彼を招待して、行おうとしている事を。
「ええ。その為の招待なのですから」
「それは理解できます。しかし私は少しだけ理解できない事があります」
「理解できない事?」
「何故彼なのですか?」
「その事については伝えませんでしたか? 彼にしかできない事なんですよ」
「だから何故彼だけなのでしょうか」
「それは……」
フェルナの言葉に私は答えに困った。その理由がないわけではない。理由を答えられないのだ。
「私にもお話しできない内容なんですね」
「ごめんなさい」
「いいですよ、話せない事だってあるのは私だって分かっていますから。それよりそろそろ彼女を呼びますか?」
「お願いできるかしら。二人きりでお話ししたいと伝えてください」
「承知しました」
フェルナは彼女を呼びに、謁見の間から去っていく。そして数分後、一人の女性が入ってきた。
「お目にかかれて光栄です、王女様」
「私も会えて嬉しいですよ、ミツキ」
「どうしてその名を」
「フェルナが教えてくださいました。貴女の素性を知っておきたかったので」
「では私がここに来た理由も分かっていると」
「はい」
私はあえて挑発するように余裕の笑みを浮かべる。分かっていなければ二人で話すつもりなどない。私が彼女を招いた理由は、取引をする為だ。
「あなたはユウマという男を知っていますか? いえ、知っていますよね」
世界を揺るがす大きな取引を。
「っ! どうしてその名を」
「言いましたよね? 私はあなたの全てを調べさせてもらったと」
「そうだとしても、その名前はこの世界では関係……まさか」
「そのまさか、ですよ。峯岸光希さん」
■□■□■□
王都出発の前夜。昨日とは違い元気を取り戻した僕達は、明日の準備に向けてアレコレと忙しかった。
「王女との謁見となれば、失礼な格好はできないし、かといって私ちゃんとした服なんて持ってないし、ああもう、どうするのよ」
「落ち着いてセレナ」
「落ち着かないわよ。むしろどうしてユウマはそんなに落ち着いていられるの?」
「どうしても何も、僕は服装に関しては水神祭の後に準備していたし」
「嘘?!」
不思議な事にこの世界にも、スーツに近い服装が、お手頃な値段で売られていた。僕はそれを見つけるなり、購入しておいたのだ。
「影でちゃっかり準備しているなんて。そんなに王都に行くのが楽しみだったの?」
「そ、そういうわけじゃないよ」
「ユウマおにーちゃん、私はー?」
「そういえばシーナの分も連れて行って大丈夫なのかな」
「招待状は私達四人分だけど、ちゃんと説明すれば分かってくれるんじゃないの?」
「まあ留守番させるわけにもいなかないし、連れて行くしかないよね」
そもそもシーナの事は予想外の事だったし、連れて行く以外の選択肢はなかった。
改めてシーナの分も含めて準備を終えた頃には、日付も変わる直前。明日起きれるか不安になりながらも、僕達は寝床につく。
(いよいよ明日、か)
けどやはり僕はすぐには眠る事ができなかった。王女との謁見に不安を感じているのもあるけれど、それ以上に気になっているのが、今日までにあった色々な事。
とりあえず僕達の間にあったわだかまりは何とかなったものの、僕自身はやはりシレナの話を受け入れられていなかった。
『そんな事考えていたら、朝になっちゃうわよ」
「誰のせいだと思っているんだよ」
『私はそんなつもりで話したんじゃないんだけどなぁ』
「じゃあどういうつもりで話したの?」
僕にはシレナが何の意図を持ってあの事を話したのか分からなかった。タイミングというのもそうだけれど、何よりシレナ自身が僕の死に関わっている話なんて普通はしない。
だからどうしても何かの意図があるのではないかと考えてしまっていた。例えばこれから訪れる王都で何か起きるとか。
『相変わらず察しがいいのね』
「じゃあ僕達は王都で何かが」
『でも半分不正解。何かが起きるのはユウマ自身にだけだから』
「それは……どういう意味なの?」
『峯岸光希』
「……え?」
今シレナは何て……。
『今回の王都でユウマは大きな分岐点に立たされる。正しい道を選べるかは、ユウマ自身にかかっているよ』