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影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
第4章僕達の日常は常にハード
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第41話招かれし証

 シーナが目を覚ましたのは、丁度全ての話が終わった後だった。やっぱり目を覚まして母親がいない事に錯乱したものの、僕達がなだめた結果、夜には落ち着いてくれた。

 けど、問題を抱えていたのはシーナだけではない。僕とシレナの話を終えたあたりから、セレナ達の元気が目に見えてないのだ。それは僕も同じで……。


「どこへ行くの? ユウマ。こんな夜遅くに」


「少し一人にしてくれないかな。セレナ達も今日は一人になりたんいんでしょ?」


「私はそういう訳じゃ」


「じゃあせめて少し休んだ方がいいよ。家はただで手に入ったとは言っても仕事はしなきゃいけないんだから」


「……うん。ユウマも無理だけはしないでね」


「分かってる」


 どうしても晴れないモヤモヤしたこの気持ちに耐えられなくなった僕は、一人ギルドへと向かう。仕事を受けに来た訳ではない。

 今はこの場所で一人でボーッとしていたいだけだった。


(僕は……僕達はこれからどうすればいいんだろう)


 いつか話さなければならない事だって分かっていた。けど、同じ時間を過ごしているうち、話す必要なんてないんじゃないかと思ってしまっていた。

 いつか倭の国に行った時に、バレると分かっていたとしても、それまでは僕はこの世界の人間だと言い切りたかった。


「こんな時間にお一人だなんて、珍しいねユウマ君」


 一人でやさぐれている僕に声をかけてきたのは受付嬢のミナさん。仕事を終えたのか、彼女は至福の姿で僕の席にやってきた。


「ちょっと一人になりたくて」


「セレナ達と何かあったの?」


「何かあったといえばあったんですけど、色々なことが起きすぎて」


「そういえば聞いたけど、例のモンスターハウスで暮らす事になったんだって?」


「今は普通の家ですけどね。それに正確には五人です」


 僕はミナさんにシーナの事を話す。血の繋がらない魔物と人間が共に暮らしていた一軒の家。そこに僕達が現れた事で引き裂いてしまった事。

 そして魔物と人間がどうして一緒に暮らしてはいけないのか、疑問に持ってしまった事など、色々と話をした。


「ユウマ君が考えている事を否定はしないよ。だけど、それが全て正しいという訳ではないの」


「それ、セレナ達も言っていました」


「家族というのは永遠に続くものではないの。いつか終わりがきっと来る」


「でもだからって、あの二人が別れる必要なんて」


「あるの。必要が」


「僕にはそれが理解できません」


「分かる時が必ず来るわ。私達と魔物には交わる事のできない絶対的なものがある事を」


「……」


 どうして皆が口を揃えて同じ事を言うのだろう。そんなに家族の形にこだわらなければならない世界なのだろうか。

 死人と生きている人が家族を作ることも駄目なのだろうか。僕には分からないことが多すぎる。でもそれを学ばなければならない事も分かっている。


「ところでユウマ君達宛に手紙が届いているわよ」


「僕達宛に?」


「ほら、王女様が謁見したいって」


「あー!」


 思わず僕は大きな声を出してしまう。あれから色々あってすっかり忘れていたけど、水神祭の際にそう言えばそんな約束をしていた。


「その正式な招待状が、さっき届いたの。渡しておくわ」


 そう言ってミナさんは一度受付カウンターへと向かい、その手紙を僕達に渡して来る。


「これが本物の」


「王室が正式に出した手紙の証として、その裏に印が付いているでしょ?」


「確かに」


「どうやら王室は本気だったみたいね」


「どうして僕達なんかに」


「それは会ってみないと分からないわね。とりあえず馬車は手配したから、明後日の朝にここを出発して」


「あ、明後日?」


 まだ重苦しい空気が僕達の中に流れている中で、たった二日後に王都へと向かわなければならない、幾ら何でも気が重い。


「向こうはもう既に歓迎の準備をしているみたいだから、日程は変更できないし、行かないと失礼でしょ? だから」


「い、行きますけどその前に問題が」


「それを解決するのがリーダーとしての役目でしょ?」


「リーダー、僕が……」


 そんな事言われても実感なんて湧かない。でも今この状態をどうにかできるのは僕しかいない。僕自身が蒔いてしまった種は、僕自身が何とかする。


「ありがとうございますミナさん。僕が今やる事はこんな場所にいる事じゃないですよね」


「そういう事。さあ、急いで帰らないと、時間がないわよ」


「はい!」


 僕はミナさんに礼を言った後、ギルドを飛び出していった。


 ■□■□■□

「世話が焼けるわね、ユウマ君も」


 ギルドから出て行く彼の背中を見送りながら、私は呟く。彼を見ているとどこか懐かしい気持ちになって、忘れていた事を思い出させてくれる。

 それは良い意味でも、悪い意味でも。


「それにしても王室からの招待……まさかこんなにも早く嗅ぎつけるとは思っていなかった」


 王室が彼らを呼んだ理由はただ一つ。ユウマ君が持っている光の魔法だ。そしてそれを狙う理由は、私がよく知っている。

 だから止めるべきだったのかもしれない。神の加護を悪用される前に彼を止めるべきだったのかもしれない。


 いつかの後悔をしない為にも……。


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