5話:チャル川での洗礼
引き続き、俺は洞穴からチャル川に向かっている。
これで4度目の道だけど、川のあたりのでこぼこ具合には慣れないな。
しかも、昨日の魔物との遭遇もあったし、魔物に対する警戒も怠れない。
俺が作る集落には、川までの道のりにも整備された道を作って、危険な魔物が侵入できないように外壁を作らないとダメだろうな。
そんな事を考えていると、昨日どんぐりを水につけておいた水たまりに到着した。
どんぐりを水底からすくい出すと、昨日ここに漬ける前よりもキラキラ輝いて見える。
どんぐりが発光していると言うよりも、光をまとっているという感じ。
ちゃんと浄化されたから輝いとるんかな。
さっそく鑑定!
一夜漬けのどんぐり
完全に浄化済みで、無害である
どんぐりの実に魔金鉱の成分が蓄積し、食べると一定時間だけ大怪我でないなら瞬時に回復させるバフを与える
これらの実のバフ持続時間は一粒あたりだいたい2分程度
回復効果!!
まさかチャル川の性質がそのままどんぐりに付与されるとは。
漬けておいたどんぐりは20粒近くあるし、今食べれば40分は効果が持続するだろう。
とりあえず食べてみるか。
そして、拾い上げたどんぐりを全て口に放り込み、噛み砕く。
食感があっておいs…
うっ、うぐ?
なにこれ、めちゃくちゃ苦い…!
なんとか噛み砕いて、飲み込む。
飲み込んだ瞬間、体になにか力が巡っていく感覚。
腕や足に会った葉による擦り傷も既になくなっており、怪我・痛みがなくなっていく。
昨日のように体が回復していく。
回復効果があるってことは分かった…だけど、めちゃくちゃ苦い!
昨日のは食感も味もなかったけど、今食べたのは食感は良かったけど、苦みがある。
どうやらどんぐりには、もとから苦みが含まれているようだな。
それがちゃんと洗い出せたのが昨日、回復効果だけじゃなくて苦みも実に蓄積しちゃってるのが今日の。
回復効果がつくと言うなら、危険なときのポーション代わりに使うくらいが良さそうだな。
毎日これは…辛いわ。
だって、苦すぎるから。
まぁ、水につけておいて放置して、勝手に浄化してもらうというアイデアは良かったし、すりつぶしたどんぐりを水たまりに入れておけば楽だろう。
今日のご飯の分のどんぐりを採集しに行くか。
「今日はなにをするかなぁ。」
どんぐりを採集しに行く道で、今日の予定について考えていた。
実績解除の目標にもあった動物を食べるっていうのをやっていきたいけど、この世界には昨日襲われかけたデイルンとかいう魔獣がいるみたいに、何事も一筋縄ではいかなさそうだなぁ。
まぁ、まずは魚を捕まえることを目標にしておこうかな。
魔法に頼らなくても魚くらいは捕まえられるだろうし。
そんな事を考えていると、どんぐりがたくさん落ちている場所に到着した。
どんぐりの回収は何事もなく終わり、40個近くのどんぐりをチャル川に持ってこれた。
「また、一つずつ殻を割って漬けていこうかな…うん?」
俺の視線はチャル川の中へ向いていた。
あの岩の隙間でじっとしている影は、魚影…なのか?
うん、やっぱりそうだ。
川が澄んでいるから、魚がしっかり見えた。
川魚は寝ている間は岩の陰でじっとしていると言うし、もしかして寝ているのでは?
寝ている魚なら、うまくシャツでくるめば、簡単に捕獲できるかも。
さっき考えていた目標達成のためにも、ここで捕まえられそうなら捕まえたい。
「あの魚を捕まえてみるか。」
毎度おなじみ俺のシャツからどんぐりを出して、捕まえられるようにし、魚に焦点を当てる。
それほど大きそうにも見えないし、捕まえられそうだ。
そして、一歩その魚に向かって踏み出した。
一度大きくまばたきをして呼吸を整え、再び魚を見る。
だが、まぶたを開いたときには、その魚が大きく膨らんでいて?!
その瞬間、その魚から発せられたなにかが俺の顔の横をかすっていき、耳に激痛が走る。
「!?」
その刹那、後ろから轟音が響き渡った。
さっと振り向くと、後ろに立っていた木に大穴が開いて、倒れようとしていた!?
「はぁっ?!」
急いで前を向くと、完全に岩の隙間から出てきているさっきの魚がこちらを見ているように川底を泳ぎ回っている。
「なん、なんだ。」
その魚を鑑定する。
キャノンイワナ
成体でも20〜30cm程度の魔魚
何度も越冬して長生きしている個体は60cm以上にもなる
普段は温厚な性格であるが、刺激すると大砲のような水の玉を放ってくる
魔魚…、まず「魔」ってついてる時点で普通の魚ではないと。
で、刺激したら大砲のような水の玉を放ってくる、後ろには大穴が開いている木…。
「こりゃ、まずい。」
とにかく、後ろを向いて陸地に上がり、近くの岩陰へ退避。
命の危険を感じているからか、これまでの人生の中で一番速く走れた気がする。
その時、
能力UP!
敏捷F−→敏捷F
敏捷のレベルがあがった!
けど、今はそれどころじゃない!!
キャノンイワナは大砲の連発はできないようで、それ以上の砲撃はなく、無事に岩陰に隠れることができた。
「ふぅ、助かった。
というか、なに?さっきのあの威力は!!
木にトンネルができちゃってたんやけど?!」
安全な場所に逃げ込んで、一度さっきのことを振り返る。
少なくともあの威力の攻撃を受けたら、確実に死ぬだろう。
魚であんな攻撃をしてくるって…他の生き物はどうなってるんだ。
あと、刺激するっていう判定が厳しすぎないか?
ただ睨んでから、少し近づいただけなのに。
「この世界、優しくない…。」
少し岩陰から顔を出してのぞいてみると、魚はまた寝始めたようで岩の隙間に戻っていた。
「もう、刺激しないでおこう。」
あとは、さっきの能力が上がった件について!
やっぱり能力のレベルは上がっていくのか。
現世の異世界転生モノの作品でありがちな剣と魔法の世界そのままって感じだな。
まだ人間に一度も会ってないし、剣もまだ見てないけどね。
俺の能力はまだどれもE−〜Gあたりで全然だけど、どれぐらい高ければ、あんなおかしな威力の攻撃をしてくる化物(魚)相手でも通用するようになるのだろうか…。
少なくとも現時点では敵いそうにないな。
手に頭をおいた…のだが、なにかが手についた感触があった。
なんだ?
いったん離して手を見てみると、血がついていた。
はぁ?!って、そういえばさっきの耳の痛みは?
耳のあたりを触ってみるとなんともなっていなかったが、その顔の側の表面には血がついているようだった。
「さっき食べたどんぐりの回復効果が残っていた…のか?それで怪我をしたあとに治った。
本当に良かった…。
栄養も十分に取れない今の環境で大量出血なんていうのは本当に危険だ。
自分に回復効果がかかっていると思うと、やっぱり心強いな。」
出血を免れたことは本当に不幸中の幸いだったな。
けど、直接捕獲を試みるというのは、この世界じゃ通用しないというのもよく分かった。
ひとまず、どんぐりの殻を割って水につけたら、洞穴に戻ろう。
俺には、あの魔術の教科書がある。
あれを読んで、魔術が使えるようになればあの鬼畜イワナも倒せるはずだ。
そう考えて、再びどんぐりの殻を割る作業に戻ることにした。
殻を割ったどんぐりを見ずに漬けて、と。ふぅ、作業完了。
すると、
能力UP!
器用G→F−
また能力が上がった!
敏捷に続いて器用が上がったみたいだな。
個人的には体力や攻撃力に上がっていってほしいけど、能力の上昇は自分の選択とかは介さずに勝手にされるっぽいし、運に任せて地道に能力を上げていくしかなさそうだな。
それで、どんぐりの処理は終わったし、次は洞穴に戻るとしよう。
魔術の教科書にはどんな事が書かれているのだろう。




