12話:チャル川魔獣会議(1)
そしてダザさんは、ファル伯爵と狼族との因縁を話し始めるのだった。
「——数年前、ファル伯爵がチャル川の扇端から扇央にかけて大規模な侵攻を仕掛けてきた。
人間からしたら、野山に入っていって開拓することは侵攻とは言わないかもしれないが、私たちのような魔獣側からすると、圧倒的な武力による侵攻でしかなかった。
その時、狼族、特に私たちタフウルフ族は、森の守護者としての任についているから、幾度となく奇襲を仕掛けて妨害していた。
だが、ファル伯爵は、視界を悪くする木を切り倒して私たちの奇襲を封じ、川沿いには見張り台を築いて弓兵や魔術師を配置した。
そして、段々と木々がなくなっていくと、私たちに利があった地形を熟知していることが封じられて、ついにファル伯爵はある計画を考案し、実施したのだ。」
「ある計画?」
「あぁ、チャル川狼一網打尽計画だ。
人間によってある地点に追い込まれた私たちは、周りからの集中砲火を受けた。
逃げ場はなく、前に出れば槍と剣、後ろへ退けば弓と魔術。
仲間は次々と倒れ、断末魔が谷に響いた。
そして、当時の群れの37匹は半数以下である16匹にまで数を減らされた。」
「半数、以下…。」
いや、相当えげつないんだが?
前世よりもビッグサイズの狼を伯爵とかがいる時代にほぼ討伐するって…。
どんだけ緻密に計画をねったら、そんな事が起こるんだよ。
「あぁ。そして、残りのタフウルフがこの群れのメンバーだ。
前の族長は、その時の怪我が原因でお亡くなりになり、クリ—リャロ様はつい最近、新しい族長となったのだ。
今回の会議はクリ—リャロ様がいかに狼族のリーダーとしての威厳を示せるのかも関わってくる。」
「とても大事な会議なんですね…。
僕も頑張りますが、ダザさんもクリ—リャロさんをうまくサポートできるように願っています!」
「任せておけ。」
「ちょっと待って、ルウもなんかやる!
…何やったらいい?」
そういえば、ルウについて。
さっき話していたら、彼は8歳で開拓都市フレイに両親と姉とで人間に偽装して暮らしていたらしい。
やっぱり8歳は元気いっぱいだな!
「そうだなぁ、じゃあルウには俺の隣に座っててくれるか。
ずっと静かにしてなくちゃだめだけど、それでもできるか?」
「できる、できる!」
「良かった〜、じゃあお願いね!」
「そろそろ会議の場所に着く。気を引き締めろよ。」
「はいっ!」
俺とルウはダザさんの確認に同時に返事をした。
草むらを抜けた先は、ものすごい圧力が会場全体を支配していた。
「よし、全員集まったな。
これより、チャル川魔獣会議を始める。」
クリーリャロさんが取り仕切っているな。
多分、森の守護者って言う役割で、会議でも司会者役なのかな。
他の魔獣の代表たちも様々いる。
鹿、猿、猪、ヤギ、モモンガ…。
「では、まず自己紹介からだ。
私は先代の族長が亡くなり、その後を継いだタフウルフ、クリーリャロだ。
そして、こっちは副族長のダザだ。」
「ダザです。よろしくお願いします。」
ダザさんがそう挨拶をすると、頷く魔獣もいれば、頷かない魔獣もいた。
頷く魔獣でも反応が薄い魔獣もいる。
あまり狼族をよく思っていないのだろうか。
あと、鑑定は発動すると気づかれちゃうらしいし、今はしないでおくことにした。
「魔鹿族族長のデム。」
「猿族族長のテクスじゃ。」
どんどん自己紹介は進んでいく。
そういえば、小さめな動物っていうのはネズミ、リス、うさぎとか色々いると思うけど、モモンガしかいないなぁ。
「私はモモンガ族代表兼小動物代表のミィよ。」
なるほど、このミィさんって人に任されてるわけね。
そういえば、今までの自己紹介で初の女性だな。
そして、ついに自己紹介が終わって会議が開始された。
俺は会議のメンバーではないから、自己紹介はなかった。
「今回の議題は1つ。
この人間、アサヒと人狼の子ルウについてだ。
これの説明については、アサヒ自身にお願いしよう。」
ついに振られたな。
「わかりました。
まず自己紹介ですが、私は数日前にこの世界に転生してきた人間のアサヒと申します。
私が提案したいことはこの森の中に集落を作ることです。」
「なんのために?」
鹿族族長のデムさんが口を挟むが、
「ファル伯爵をぶっ倒して、俺の家族…あとみんなを助けに行くためだよ!」
とルウが返した。
「ありがとう、ルウ。
ルウが言った通り、ファル伯爵を倒して、差別されている人を救出することが集落を作る目的です。」
「ファル伯爵を倒すだと?
それが無理だから、ここ数年は抗わない姿勢だったじゃないか。」
とデムさんが切り込んでくる。
「あと、人間を信じるというのか、狼族よ。
お主らは人間を信じた結果、仲間の多くを失ったのだろうが。
若族長は前族長の思いを汲まず、人間に味方をするのか?」
これに対し、クリーリャロさんは
「私たちはファル伯爵を許す気など毛頭ない。
だが、この人間は信じるに値すると、そう思ったのだ。」
「人間とはすぐに嘘をつくずる賢いものじゃ。儂も信頼はできんのぉ。」
猿族族長のテクスさんもそう言う。
「そうだろう、そうだろう。」
「一度、静まらんか。
これでは話し合いではなくて、先入観を言い合っているだけだ。」
束の間の静寂が続く。
話し始めたらいいだろうかと思っていると…
「人間は信用できないわ。」とモモンガのミィさんがつぶやく。
代表者の中では一番小柄なのに、その瞳から放たれる警戒心は誰よりも強かった。
とにかく第1印象は悪いってことが分かった。
「少なくともファル伯爵を倒すことは、チャル川の魔獣全体としての目標のはずだ。
アサヒの理念は私たちの目標につながっているとは思わんか。」
とクリーリャロさん。
助けてもらっちゃって申し訳ない…。
「クリーリャロさん、ありがとうございます。
皆さん、私が裏切るのではないか、本当にそんな実力があるのかとお思いのようですから、それについてお答えします。
まず、裏切るのではないかということについて、絶対に裏切りません。
口ではなんとでも言えますから、どうせウソだろうと思う方もいるかも知れませんが、命をかけてでもそれだけは言えます。
そして、実力があるかについてでs…。」
「おいおい、なんだ?このちゃんと言い訳もできねぇ人間はよぉ。」
俺が言い終えぬうちに、背後からものすごい圧力がかかった。




