11話:集落を作る理由
その時だった。
草むらの向こうから幼い泣き声が響いた。
「家族を助けてよぉーーー!人間が家に来て、連れていかれたんだ。森に行って助けを呼んできてって言われたんだ。」
と泣き叫ぶ声。
まさかファル伯爵の差別的政治体制ってやつの影響なのか…?(4話:恐怖の夜参照)
「――私たちもファル伯爵に敗れて、こんな奥にまで押し込まれたのだ。
救出など不可能だと、何度も言い続けているだろう。」
と低い唸り声のような声が答えた。
「そんな…。じゃあ、父さんと母さんと姉ちゃんにはもう会えないっていうのかよ。そんなのやだよ!」
と泣く人狼の子に
「今は族長がお話されている。静かにしなさい。」と必死になだめようとしている。
「こんな小さな子供までもが被害にあっているとは…、あのクソ伯爵めが。」
クリーリャロさんが声を荒げる。
俺はすかさず、クリ―リャロさんに尋ねた。
「一つ聞きたいことがあります。
ファル伯爵の差別的な政治体制について、詳しく教えていただけませんか?
噂には聞いていましたが、具体的な実態を知らなくて。」
「…いいだろう、教えてやろう。
あそこの領地では、領内の異種族、また伯爵とは違う少数派の人間の民族を問答無用で逮捕する。
連行された者らは、果樹園の奴隷や館のメイドとして働かされる。
おそらく、領内に種族としての自分の優位性を築きたいのだろう。
どこまでも醜く、自分勝手なやつよ。」
「奴隷やメイド――。
形式的にも事実的にも完全に伯爵の下につくことになるわけなんですね…。」
どうやら、逮捕されたあとの待遇も想像以上に凄惨なようだ。
前世で習ったことを思い返すと、そりゃあ激しい弾圧も歴史上にはあったと思う。
領内にいたら即座に逮捕っていうことで考えると、WW2末期のナチス・ドイツはまさにその例だ。
だけど、ナチス・ドイツも初期からその体制を敷いていたわけじゃない。
初期は、税をたくさん取って国から追い出そうとしていた。
ムガル帝国のアウラングゼーブ帝の政策もその一つだ。
ヒンドゥー教徒から税を多く搾取するという内容だった。
そう、あくまで初めは税とかに抑えるもんだ。
なのに、ファル伯爵の差別政策は度を越している。
なんて…無慈悲な。
怒りで奥歯が軋む。
その時、草むらの向こうからクンクンとなにかの匂いを嗅ぐような音が聞こえてきたかと思うと、何かが自分の体に飛びついてきた。
「やっぱり!さっきのお兄ちゃんだ。」
見ると、さっき助けた人狼の子どもだった。
怪我は既に治ったようで、元気そうだ。
目には涙が溜まっているようにも見えた。
「さっきの人狼の子!よかった、無事そうで。」
「俺、ついさっき起きたんだよ。そしたらまわりにおっきな狼がいっぱいいて。
で、父さんから森の狼の助けを呼んできてほしいって言われてて、そうやってお願いしたのに聞いてくれないの。」
さっき泣いてたときに話してたことかな。
人狼の子はだんだんと目に涙をためながら精一杯に訴える。
「父さんと母さんと姉ちゃんが俺を窓から出して、その間人間たちを引き止めて逃がしてくれたんだ。
でも、もう今頃は……っ。」
徐々に言葉が詰まっていき、小さな肩が震えだす。
体の方に寄せて、背中をさする。
ここはしっかり声をかけて支えてやるべきだ。
昔、俺が親にしてもらっていたように。
「家族みんなを助けに行きたいよな。」
俺の言葉に人狼の子どもが頷く。
「俺もファル伯爵のやり方は異常だと思う。
きっと、俺が助け出してやる。」
「ほんとに?」
「あぁ、約束だ。だけど、俺一人じゃ力だ足りないかもしれない。君、名前はなんていうんだ?」
「ルウだよ…!俺、お兄ちゃんについていく!」
そのやり取りを聞いていたクリーリャロさんが、慌てて口を挟んできた。
「待て待て、そんなできもしない約束などするな。」
「いや、私はこの約束、絶対に守ってみせます。」
俺は立ち上がり、クリーリャロさんの目を真っ直ぐに見据えた。
「誰もが安心して暮らせる集落を作って、ファル伯爵に抗ってみせる。
無実の人を逮捕して隷属化するなんて、断じて許せる行いじゃない。
これが私の集落を作る本当の目的です!!」
胸の奥から湧き上がる熱い感情が、言葉となって出てきた。
もう迷わない。
この異世界で果たすべき、俺の確固たる信念が、いまここに定まった。
自分自身でも急造感はあるが、レルの涙を見たときに、胸の中の思いがつながった。
「フン。今作った感が半端ないが、その信念は誰も馬鹿になどできぬものだ。
私、クリ―リャロはタフウルフ族の族長としてお主の集落づくりを支えてもいい。」
「では、見逃してもらえますか!」
良かった、なんとか生き残れそうだ。
「いや実は、この森の魔獣達はチャル川魔獣会議というのを開いて、重要な決め事をすると決まっておる。
人間がこの森に住んで集落を作るというのも、そこで話し合って、承認されなければならないだろう。」
「チャル川魔獣会議?」
と俺が尋ねると、副族長のダザさんが答えてくれた。
「族長がおっしゃった通り、チャル川の各魔獣の代表が集まって、重要な議題について考える会議だ。
狼族に加えて、鹿族、猿族、あとは小動物代表としてモモンガ族の代表も来る。」
「なるほど、よく分かりました。ありがとうございます。」
この会議で承認されないと、いくら狼族が推してくれても出ていかないといけなくなるかも。
うまく認めてくれるといいんだけど、もし失敗したら、俺はファル伯爵領に降りていくしかなくなるんじゃないのか。
「お兄ちゃん、怖い顔してるけど、大丈夫?」
「えっ、あっ、本当?
ごめん、ごめん、なんでもないよ。」
無意識のうちに、顔にも出ちゃってたようだ。
すると、群れの中の数匹の狼が少し高いところへ走り、遠吠えを始める。
オオーオオーオオーン。ウオーゥオーン。
声の重ね方が自然ではなく、意図的にそう声を出しているような…歌っているように吠えていた。
「チャル川動物会議の集結サインだ。」とクリーリャロさんが言う。
サイン?もしかしてこれからすぐに会議なのか?!
「お主、私の近くに来い。」
「はっ、はい。」
急に呼ばれてびっくりした。
「これからチャル川魔獣会議となる。
だが、そこで名無しのままだと、進みが悪くなるだろう。
そこで、私がお主に仮名を命名しよう。」
「仮名、ですか!?」
「あぁ、そうだなぁ。」
クリーリャロさんは、少し悩んでから続けた。
「よし、会議では『アサヒ』と名乗るが良い。」
「アサヒですか。分かりました。」
「うむ、では会議でもがんばって自分をアピールするんだぞ。」
そう言って、どこかに向かっていってしまった。
近くには、副族長のダザさんとルウが残るだけとなった。
ダザさんに案内されて、ルウといっしょに会議の会場へ向かっていた。
「この木で右に曲がって…と。
そういえば、お主はアサヒと名付けられたそうだな。」
「はい。」
「俺、さっき思い出したんだけど、狼族の言葉でアサヒは希望って意味なんだよ。」
「えっ、そうなの?」
「フン、たいそうな名をつけられたものだな。
だが、私たちはあの伯爵に敗れて以来、伯爵に抗うことすら恐れていたのかもしれない。
そんな時、お主…アサヒが来てくれたことは、対伯爵の希望そのものだと私は感じた。」
「そういえば、先程もファル伯爵に敗れたと言っている方がいましたが、そうなんですか?」
ダザさんが一瞬、鼻の上にシワを寄せる。
「あっ、すみません。無神経なことを聞いていたら、話さなくて大丈夫です。」
「いや、これは会議前のアサヒに話しておくべきだろう。
ファル伯爵と、この森の魔獣たち…特に私たち狼族との因縁を。」
そして、ダザさんは語り始めるのだった。
この作品を読んでくださり、ありがとうございました。
昨日の作品ですが、10話と入れるのを忘れていました。すみません。
次回もよろしくお願いします!




