10話:チャル川での出会いと
目が覚めたときにはすでに太陽が出てきていて、外は明るくなっていた。
そういえば、昨日の夜は狼がいたらしいけど、外に出ても大丈夫かな?
鑑定スキルを使って何かが感知されるか調べると、特に反応はなかった。
なら、大丈夫かな。
そう思って、洞穴から出ていって、チャル川に水を飲みに行くことにした…のだけど。
後ろからものすごい視線と圧力を感じた。
…まさか待ち伏せされてたのか?!(前話:討伐なるか?!参照)
だが、ここで振り向けば、それはそれで打つ手がなくなる。
ここはあえて気づかないふりをして、後ろについてくる何かの様子を見よう。
鑑定スキルは発動しようにも、すこし距離が離れているようで、発動できなかった。
無心無心。
なにも考えずにとりあえずチャル川に行こう。
そのまま進んでいくのだった。
チャル川に到着した。
後ろにいる何かの動きはなくて、何事もなく川にまでは着いた。
とりあえずどんぐりでも食べるかな、と思ってどんぐりをいくらか掴むと…
カー、カー!!
カラスの声?
対岸の森の中がなにやら騒がしい。
気になったので鑑定しようとしたが、今回も遠すぎてできなかったので渡って近づいてみることにした。
川の水深は深いところでも膝から太ももくらいで、靴を脱いで何事もなく渡ることができた。
カー、カーカー!
木々の隙間から除くと、複数のカラスが小さななにかに対して執拗に攻撃を加えていた。
とりあえず、それぞれ鑑定と翻訳。
魔カラス
魔力による攻撃ができる魔鳥
1個体あたりの魔力量は少ないものの、群れで陸上の中型魔獣程度を狩ることもある
人狼の子供(負傷中)
人狼種の子供
魔カラスにおそわれている
「こいつ、人狼じゃないのか。殺してしまえ、殺してしまえ!」
「やってしまえ、やってしまえ!」
「うぅ、父さん、母さん…。」
どうやら、魔カラスは集団で子供をリンチしているようだ。
このカラスたちに突っかかるのはかなり骨が折れそうだし、人狼の子どもは人間を襲ってくるのかもしれない。
でも、小さな子供が襲われているのを見て見ぬふりなんてできない!
俺は高校生ながらにそう思い、人狼の子供を守るために前へ出た。
「やめろ、やめろーー!」
魔カラスたちは突然出てきた人間に対して驚いているようで、一旦攻撃は止んだ。
その隙に、人狼の子供の口にどんぐりを入れて、背中に乗せて一気に洞穴方向の対岸へ駆け出した。
「大丈夫かーー、そのどんぐり食べたら回復できるから食べてみて。」
背中にいる人狼の子供は何も言わなかったが、どんぐりを食べているようだった。
俺は全速力で川を渡った。
対岸の森に逃げ込めばカラスの追撃を免れられるはず…!
この時、何か(たぶん狼)が追跡してきていたことは忘れて、とにかく精一杯走った。
だが、前世が文化部で体力Gの俺にはきつい運動で、足が止まりかける。
「もっと、運動しとくんだったーー!」
後ろを振り向くと、カラスがなにかの魔法の発動準備中!
「この世界のカラスもそりゃあ魔術は使ってくるよな…。」
カラスから直径が10cmはありそうなフレイムボールが発射され、勢いよく俺の方向へ。
背中には人狼の子供を背負っている。
背面で受けたらまずい!
咄嗟の判断で、人狼の子供をおろし、覆いかぶさる。
そして、背中に魔力を送って…、
「アクア」と唱えようとしたが…
もし俺がこの至近距離で水属性魔法を障壁にして受けようとすれば、確実に水素爆発が起きる。
そうすると、この子にもっとダメージを与えるかも。
水魔法じゃだめだ…!
人狼の子供は急に押し倒されて、爪を立てて抵抗してきたが、そのまま耐える。
なにか、魔術のキーワードを…!
そう思ったのもつかの間、俺が展開していた魔力に魔カラスのフレイムボールが激突して、破られる!?
しくじった…始めから正面向き合ってフレイムボールを打ち込んで対抗しておくべきだった…!
直後、背中に物凄い熱を感じる。
「あっつい!!!うわぁーーーーー!!」
その瞬間にステータスを見ていたわけではないからわからないが、瀕死になったことだけは分かった。
俺は横向きにぶっ倒れた。
経験不足…だったな。
だが、カラスたちは急に動きを止め、どこか怯えるように森の奥へ視線を向けた。
「カーッ……」
先ほどまで追ってきていた群れは、それ以上こちらへ近づこうとはせず、一斉に飛び去っていった。
「…良かっ、た…追撃…して…こなかった」
でも、安心するには早かったようだ。
黄金色の瞳が草むらの奥でいくつも光る。
そうだった、つけられてたんだった…。
しかし、俺の意識は深い闇へと落ちていくのだった。
グルグル、ワオ、グロォ。
なん…だ。
目を開くと、もう暗くなっていた。
やばい、もう夜だ…帰らないと。
ゆっくりと起き上がると、なんと複数の狼に囲まれていた。
そうだった、つけられてたんだった…。
「これで俺の二度目の人生終了か…。
おい、周りの狼!俺を食うなら痛くないようにしてくれよ!」
だが、次に狼が発した言葉は想像していたものとは違った。
「食う?少なくともお前が無害ならば、攻撃するつもりはない。
この人間が起きたようだ。族長を読んできてくれ。」
「はい!」
えっと…生かしてもらえる?
とりあえず今から、この狼たちの族長と話すことになるようだ。
無害アピールすれば生き残れるのか?
なら、全力で無害っていうふうにアピールしていこう。
…そういえば、さっき助けた人狼の子は狼から逃げ切れたんだろうか。
せっかく助けたのに、もう狼の腹の中なんていわれたら悲しい。
すると、近くにあった草むらがガサゴソと揺れ、周りを取り囲んでいる狼よりも一回り、いや二周りくらいの大きさがありそうな狼が出てきた。
鑑定。
タフウルフ(群れのリーダー)
高い攻撃能力と体力を兼ね備えた、狼族でも最強格のハンター
通常のサイズは体長は約200cm、体高は約120cmだが、リーダーは体長300cm、体高は170cmにも達する
「勝手に見るな。」
その大きな狼がそう言葉を発すると、鑑定が見れなくなってしまった。
「えっ…、あっ、すみません。」
「うむ。その謝罪を受け入れよう。
人間、私はタフウルフ族の族長クリーリャロである。
次はお前が名乗れ。」
タフウルフ族の族長、クリーリャロ…、昨夜聞いたな(前話参照)。
てか、ものすごい圧だ。
「はっ、はい。私は………あれ、名前?」
「あぁ、名前だ。名乗れ。」
「実は…名前がまだ未定というか…。」
「なにッ?名前が未定?どういうことだ。」
「実は、つい先日この世界に転生してきたもので、今までの間に自分の名前を考えてこなかったといいますか…」
俺がそう答えると、その狼ーークリーりゃロさんは笑い出した。
「フッハッハ、何だこいつは。自分の名前がない?転生してきた?あんまり私にデタラメを言うんじゃないぞ。」
「本当です!!」
「まだ言うか。ダザ、お主は真偽を見分けるスキルを持っていなかったか?」
「はっ、持っております。」
「では、調べてみてくれ。こいつが本当のことを言っているのか。
私は、こいつがファル伯爵の回し者ではないかと睨んでおる。」
ダザと呼ばれた狼は俺の前に出てくる。
「私はタフウルフの副族長、ダザだ。
今から、お前の名前、ここにいる理由、そして目的を言え。
なにも答えねば、お前がファル伯爵の回し者であると判断する。」
「では、答えますね。
私の名前は未定です。
ここにいる理由は、前世で事故死したものの、女神様に転生させてもらって、初めにいたところがここだからです。
また、ファル伯爵領に降りていったら、どんな仕打ちを受けるかわからないからでもあります。
ここにいる目的は、ファル伯爵の体制化には組み込まれないため、あとは集落を作るためです。」
全部、正直に答えたつもりだ。
「どうだ、ダザ。」
「…!この者は嘘を言っていません。」
「何だと?!本当に転生してきたというのか。」
「そのよう…です。」
狼たちが沈黙する。
なんか切り出すべきかと思っていたが、クリーリャロさんが話し始めた。
「だが、集落を作ることが目的か。
もしそんなことを我々狼族が黙認すれば、森の守護者としての信頼を失いうる。
その集落を作って、お前はどうするつもりなんだ。」
「その集落は…。」
「答えられない、か。」
集落を作る理由?
好奇心からなんて言ったら、間違いなく信用されなくなる。
改めて考えると、それほど強い理由はないのかもしれない。
なんて説明するか。
その瞬間、草むらの向こうから子どもの泣き声が聞こえた。
この作品を手にとってくださり、ありがとうございます。
この話を境にこの作品の世界はどんどん広がっていきます。
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