05.【MMGS】
高橋先生は芽依に髪の毛を一本抜くように指示すると、三分待って芽依が元に戻ってから部屋に返った。
「間違いなくMMGSだね」
聞いたこともない病名だった。
「MMGS、日本語ではマッシブマッシュ巨大化症候群と言う」
「珍しい病気なんですか?」
と、俺。
「一千万人に一人と言われているね。日本中で十人程度しかいないんじゃないかな」
「それはどんな病気なんでしょう?」
「まず、症候群と言うのは厳密にいうと病気とは少し違うんだ。
それにMMGSについては、健康上の特別な害は無いからそこは安心していい」
「そうなんですね」
「ただし、日常生活に多大な悪影響が出る可能性が高い」
安心出来ねぇ。
「原因はなんでしょうか?」
「もちろん、マッシブマッシュの経口摂取だね」
…………
やっぱりアレか。
「それにしても一千万人に一人ですか……
お前、どんな確率引いてるんだよ?」
「いや、マッシブマッシュを経口摂取すると確実に発症するよ。
ただマッシブマッシュ自体を探すのがもの凄く大変でね。
だいたい千人に一人くらいしか発見出来ない」
はあ?
「そして発見した中でそれを食べてみようという奇特な人間は一万人に一人くらいのものだ」
「なるほど……だから一千万人に一人、と」
「話が早くて助かるね」
それをしても、だ。
「芽依。お前なんで千分の一を拾って、一万分の一の確率引いて食べる気になったんだよ?」
すると芽依は、小声で
「お義兄ちゃんが巨女好きだからに決まってんでしょ、バカっ!」
とか言いやがった。
どうでもいいが先生にしっかり聞かれたじゃねぇか。
「そうすると、世界中でも症例は非常に少ないんですね?」
「残念ながら、もっと症例は少ないね。
マッシブマッシュの植生は東アジアの一部に限られる。
だから日本の十人程度が全世界の症例と言っていい」
なんてこったい。
「巨大化を抑えるだけなら簡単だからね。
MMGSは、特定のキノコそのもの、またはその成分を摂取するのが巨大化のトリガーだからね。原因物質を摂取しなければいい」
「食物アレルギーみたいですね?」
「まさしく、現在把握されてる発症者は全員がそうやって巨大化を回避してるよ」
うーん。おれは思わず唸る。
「でも。君たちの場合は少し事情が異なるようだね?」
俺の性癖が原因だと言われたようなものだからな。
「さて、そこでなんだけど。MMGSは保険が利かないんだ」
げっ!!
「でも安心して欲しい。さっき芽依ちゃんに髪の毛を抜いてもらったろう?
MMGSの不思議のひとつに巨大化中に身体から取れた生体由来のものは、巨大化が解消してもそのまま残るんだ。
人間の髪の毛ってとても強くてね。
いい素材になる。
なので、素材の提供で医療費と相殺というのはどうだろう?」
提案の形を取っているが俺の稼ぎでは、飲むしかないよな、コレ。
病院から解放されたが俺は考えることが多すぎて帰るのも億劫になってた。
「まー、こーなっちゃったらしょうがないよね」
芽依のほうがよほど割切りが早い。
「ねぇ、お義兄ちゃん、電車で帰るよりアタシが巨大化して走ったほうが早いと思わない?」
なにを言いだすんだ、この義妹は?
「お義兄ちゃんは肩に載せて上げるから」
「お前……三分たったら元に戻るじゃねぇか?」
「もうお義兄ちゃん、先生の話ちゃんと聞いてなかったの?
最初の三分は巨大化固定だけど、それ過ぎたら元に戻るのはアタシの意思だって言われたでしょ?しっかりしてよね」
そうか。そんな基本を聞き逃すほどショックだったんだな、俺。
芽依はいつの間にか買ってきていたマッシュルームの缶詰を開けると一口食べた。
途端に街中に出現する巨大少女。
芽依は、俺を摘み上げると肩に載せて走り始めた。
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