46.【父母の重み】
色々と想定外の事件があったクリスマス旅行から帰ると、既に年末だった。
明日でお役所も仕事納めと言う朝、両親が久しぶりに帰ってきた。
イヤ。この巨大化住居は、芽依のためのもので彼らの住まいは別だから遊びに来てる、が正解なのかな?
俺は、芽依を任せられる義母さんがいるのをいいことに惰眠を貪っていた。
正直に言って旅行の気苦労がまだ抜け切ってない。
「あれ?親父は?」
リビングには義母さんしかいなかった。
「芽依を連れて役所に行ったわよ」
親父と芽依と役所が結びつかないで訝しんでいると。
「あの人と芽依の、養子縁組を解消する手続きについて聞きに行ったの」
は?待て待て。そんな話は聞いてないし、そもそも養子縁組を解消するような問題もないはずだ。
「隼人にも関係する話だから説明するわね」
義母さんはそう言って、椅子に座るよう促した。
「隼人と芽依には血のつながりはない。だから結婚も可能」
うん、それは知ってる。
「でもね。ひとつハードルがあってね。
『同じ戸籍に入ってると結婚できない』
法律でそうきまってんのよ」
それは知らなかった……て問題はソコじゃない。
「まあ、前のめりなのは芽依だけ。
あたしたちは、そういう状況になった時のために、どんな手続きがあってそのために必要な書類とか手続き日数とか事前に調べておくのが目的ね」
ちょっと安心した。
「あの人は、高校卒業するまでは自分の娘として育てる、って決めてるみたいだから」
待ってくれ。
あと三ヶ月じゃんか。
「義母さんはどう思ってるんだ?」
「あたしは、杏樹の想いを叶えたいかな。
もちろん隼人にその気があるのが大前提だけど」
久しぶりに聞いた名前だ。
杏樹ってのは俺を産んだ母親。
まだ物心つく前に亡くなってる。
「コレも話ちゃいましょうか」
義母さんはそう言って普段は隠している左目の髪の毛を掻き上げた。
その左目は濁っていた。
「全く見えないワケじゃないけど明るいか暗いか分かるくらいね」
知らなかった。
「芽依の血のつながった父親ね。
暴力を振るう人だったの。
あたしと杏樹は幼馴染でさ。
こっそりと離婚の計画を進めてたんだけど、それがバレちゃった。
激情したアイツに眼球直撃されてこの有様。
その時に匿ってくれて刑事告訴まで持っていってくれたのが団次郎さん、隼人の父親よ」
そんな話聞いたこともなかった。
ていうか義母さんが親父のことを『団次郎さん』って呼ぶのも初めて聞いた。
「ちょうどその頃に、杏樹が急性の難病が発覚してね。
分かった時には余命一ヶ月だって。
で杏樹から『隼人を頼む』って頼まれたのよ。
その後、即離婚が決まったんだけど、まだ法律改正前だったから女性はすぐには再婚できなかった。
杏樹の葬式を済ませた直後にお腹に芽依がいることが分かってね。
あたしは堕ろすつもりだった。
でも、あの人が赤ちゃんに罪はない、自分の子どもとして育てる、だって」
親父らしいな。
「アイツは結局、実刑判決だったんだけど最期は獄中死。
態度が悪くて私刑とかもあったみたいだけど、看守すら見て見ぬふりだからまあ自業自得よね」
それから義母さんは、いい気味よね、と小さくこぼした。
「芽依は知ってんのか?」
「いいえ、芽依にとっては生まれた時から父親は団次郎さんだけよ」
凄く複雑な気分だ。
「そんなことはどうでもいいのよ。
芽依に、隼人を生真面目に躾け過ぎ、って怒られちゃった。
アンタ、同じベッドで寝て添い寝しただけってもしかして枯れてるの?」
「そんなワケねぇだろ!」
「大切な義妹だから必死にガマンしてだな」
「……ヘタレ」
うぐっ、最近みんなから言われてる気がするわ、その言葉。
「まあ、芽依のためにもちゃんと考えなさい。
もっとも、あの人は『大切な娘をドコの馬の骨とも分からんヤツにはやらん』ってきっと言うわよ」
『ドコの馬の骨』って……親父の息子だろうが……
いや、あの親父ならたしかに言いそうだ。
反応があると励みになります。よろしければブックマークや高評価、リアクション/感想等いただけると嬉しいです。
これからもお付き合いいただければ幸いです。




