38.【添い寝】
「Twins、さっきの論文データをMMGSに関わる重大仮説としてポート。
セキュリティ設定はここにいる三人の他は、松本と池田さんの合わせて五人のみ閲覧可能。
それ以外の人間には一切アクセス不可能に設定して機密ストレージに暗号化保存」
『ドクター高橋、了解しました』
だからなんでコイツ、先生には素直に従うん?
「じゃあ一週間、155cmのまま過ごしてみて。
ああひとつだけ例外。トイレは巨大化してね。
池田さんが悲しむから」
そう言い残して高橋先生は帰っていった。
その日の晩メシは芽依の大好物のオンパレード。
意地悪ではなく、問題が起こるなら早めに把握しておこうというエンジニア心理だ。
芽依はニッコニコで平らげる。
「お前、巨大化しないで平気なの?」
「うん、大丈夫だよ。なんで?」
ここ数ヶ月、散々苦労したというのに……
「平気なら俺が学校に申し入れてくるから、近日中に通学再開だな」
「やったー、やっぱり友だちに会えないのは寂しいしねえ」
そんな会話をしつつメシを終えた。
その夜、自室で俺は『フラットランド』の原著に挑戦していた。
"I am not a plane Figure, but a solid. You call me a Circle; but in reality I am not a Circle, but an infinite number of Circles, of size varying from a Point to a Circle of thirteen inches in diameter, one placed on the top of the other." (*1)
「えーと、私は円ではなく立体だ。君は私を円と呼ぶが本当の私は円ではなく……」
なるほどねぇ。
確かにこれをひとつ次元を増やして考えれば芽依の巨大化が説明できる。
しかも「質量保存則」の矛盾も高次元に質量があると考えれば納得できる。
高橋先生が、あんな論文書くのも頷ける話だ。
もっともあの先生の場合、完全ジョークであのくらいは書きそうだが。
頑張って英語を読んでたら部屋の扉がノックされた。
「芽依、どうした?眠れないのか?」
こくん、と頷く芽依。
今日は薄い水色で長袖長ズボンのパジャマ姿だ。
「このサイズでベッドに入るのも久しぶりだからかな?」
今度は被りを振る。
「今までさ、お義兄ちゃんと添い寝してたでしょ?
だから今日も一緒に寝たいの……」
「ちょっと待て?
巨大化した義妹に摘み上げられてパジャマの内側に無理やり押し込まれるのは『添い寝』とは言わないだろ?
そもそもお前が寝返り打ったら圧死する状況が毎日続いてたんだが?」
芽依は頬を真っ赤にしつつも、譲るつもりはないみたいだ。
「でも、うれしかったクセに……」
うぐっそれは否定できない自分が悲しい。
それからも説得を続けたが芽依が折れる気配はない。
はあ。
「ただ添い寝するだけだからな?
それ以上は絶対ダメだ」
それでも芽依は満面の笑みを浮かべた。
俺の理性、ちゃんと仕事するかね?
(*1) 引用: ”FLATLAND: A ROMANCE OF MANY DIMENSIONS” EDWIN A. ABBOTT(1884)
今ならKindleで英語版が無料で読めます。すげー疲れた。昔、日訳を読んだことがあったんでナナメ読みでなんとか。
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