29.【幸せホルモン】
「お義兄ちゃん、お腹減った」
……えーと?
「155cmの芽依ちゃんが40mになるということは、巨大化比率は25.8倍になる」
うん。それは分かる。
「体積はその三乗倍だから約17000倍になる」
それも知ってる。
「だから普通なら構成分子の数が17000倍に増えるはずなんだが。
芽依ちゃんから採血した細胞自体が25.8倍サイズになってることに気がついてね」
これが決定的におかしい。
「医大にある原子レベルの観測が出来る電子顕微鏡を使ったら分子サイズからして25.8倍サイズになってることが判明した」
んなバカな……
「つまり……どうなるんですか?」
「巨大化した芽依ちゃんは、普通の食事は吸収できない」
「おい、高橋!
米二俵に、災害炊き出し用の釜を調達してきた俺の努力は無駄か?」
「ああ、残念ながら……ね」
「ねぇ、お義兄ちゃん、お腹すいたってば!」
ん?
芽依はいつの間にか、元のサイズに戻っていた。
「巨大化状態では栄養補給ができないことに気がついたんじゃないかな?」
「おい、ダレが気がついたんだ?」
松本さんは、高橋先生に食いつかんばかりだ。
「さあ、しいて言えばMMGSそのものが……じゃないかな」
…………デタラメな!
まあ、人体巨大化自体がデタラメだから仕方ないか?
「それと、芽依ちゃんの血液検査で分かったことがもうひとつ。
血中のオキシトシンが高い数値で検出されていたんだ」
その物質は俺も知らないな。
「先生そのオキシトシンというのは、なにか身体に害があるものなんですか?」
「オキシトシンというのは、別名『幸せホルモン』と呼ばれるんだ。
だからなのかホントの過剰分泌になると、身内への攻撃に対して反撃が過剰になったりする副作用があるんだけど。
芽依ちゃんの場合はそこまでではないね」
……そうすると、芽依は俺とプールに行ったのが幸せ過ぎて巨大化しちゃった、ってことなのかな?
さすがにそれはないと思いたいけど。
「その検証に、もう一回採血させてもらって、お昼ご飯で血中オキシトシン濃度が変わるか、さらに血液検査をするのが妥当だと思うけど」
「芽依、注射平気か?」
「バ、バカにしないでよね!」
……うん、しっかり怖がってやがる。
高橋先生のアドバイスで芽依が再度シャワーを浴びてる間に、俺はキッチンで遅い昼メシを用意してた。
なにせ、二俵の炊き出しが徒労に終わった後だから正直めんどい。
でもこのランダム巨大化の謎を解き明かさないとおちおち寝ることもできない。
先生のオーダーは『芽依の大好物』だった。
子どものころ好きだった、オムライスのハンバーグ乗せを作ってやる。
そう言えば、『手間がかかるから』ってしばらく作ってなかったな。
俺がキッチンに立ってるウチに芽依は一回目の採血を終わらせたようだ。
突然の巨大化に備えて、テーブルはリビングから巨大化エリアに運び出してある。
そうしてお昼ご飯。
「わざわざそんな手間かけないでも別にいいのに」
口ではそう言いながらも、頬のニヤつきが隠せてないぞ?
「芽依、ほっぺたにソースがついてる」
「お義兄ちゃん、拭いてよ?」
とことん、甘えてやがる。
それでもほっぺを拭いてやる。
松本さん、壁のシミになりたいとか言わんでください。
そうして満面の笑みで食べ終わった直後、芽依はまた巨大化した。
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