19.【辞令と報酬】
土砂災害の救助と、それに駆り出された芽依のご機嫌取りですっかり週末が潰れてしまった。
そんな週明け、高橋先生から個別メッセージ(DM)がきていた。
ウチの会社のプロジェクト参画が決まったそうだ。
条件は、俺が会社に所属のままプロジェクトに出向扱い。
有り体に言えば、芽依の面倒をみるのが業務になった。
会社とプロジェクトの間には、正式に機密保持契約も結んでくれたので、芽依のプライバシーがダダ漏れという事態も避けられる見込みだ。
近日中に、会社まで出向いて辞令と説明を受けることになってる。
巨大化対応の住居のほうも急ピッチで進んでいて、次の週末には引っ越せる予定になってる。
ただし完成してるのは人間用スペースのみで、巨大化エリアはまるで使われていない倉庫のようになってるという話だ。
巨大化エリアは、緊急で身を隠す時くらいしか使わないし、ベッドだけは入れる方向になってる。
問題は池田さんチームのトイレだ。
芽依には可哀想だが、さすがに水洗は不可能だ。
普通の節水トイレでも四リットルくらいは一回で水を使う。
芽依が巨大化すると、七万リットルくらいいっぺんに水を流すことになる。
これじゃ水道代が大変どころか、一気にそんな下水流したら街のインフラが破壊されかねない。
池田さんの会社は、下水道の普及で浄化槽一本の事業に先細りを感じていて、バイオ発酵発電トイレを提案してくれた。
巨大化芽依ひとりで百世帯の電力を賄う計画を立ててるそうだ。
百世帯って、さあ。
ジャンボパフェ数杯で百軒分の電気が賄えるって、ホント物理学に喧嘩売ってるよなあ。
◇
「いやあ、諸星君、大変なんだってねえ」
「あー、はい。会社のご厚意で助かってます」
「高橋先生から聞いてねえ。今度、ウチの会社でもキノコの研究/販売を手がけてみる決裁を今上げててねえ。
我が社もマッシブマッシュの研究と不思議現象の解明の一助になればと思ってるんだよ」
うわっ、聞いてた以上に積極的だな。
悪い意味に捉えれば、マッシブマッシュから得られる利権狙い、というところだか、俺はこの上司の性格をよく知っている。
営利企業としてそういう思惑がないわけでは無いだろうが、おそらく本気でマッシブマッシュの秘密を解明したいのだろう。
社員の家族の難病のために、だ。
ありがたく辞令を受けて、その足で松本さんとところに行った。
「は?五億??」
「あぁ、ホントはこれでも少ないくらいなんだが、先日の土砂災害救助の報酬でね」
「いやいやいや、それは額が多すぎでしょう?」
「はあ、隼人君。あの日の芽依ちゃんひとりの作業量を分かってるのかい?
何十人もの作業員が二週間かかる仕事をたった半日だぞ?
おかげで救われた人も多い。
君は義妹の功績をそんなに過小評価するのかな?」
そういう言われ方をされたら強く断わるのもなあ。
「でも、巨大化用住居も用意してもらってますし……」
「それはプロジェクトへの参画への対価だろう?」
たしかにそういう話ではあった。
「それに……あまりこういうことは言いたくは無いんだが……
芽依ちゃんが元のサイズに戻らなくなったら大変だろう?
芽依ちゃんは、なんとなく気にはしてるみたいだけどね」
芽依が?
俺の前ではそんなこと全く見せてないが。
たしかにそんな事態になれば莫大なお金が必要になるだろう。
そう思い直して、俺はその申し出を受けることにした。
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