③
ロキは村の誰にも知られていないが、貴族の子供だった。と言っても不義の子であるため、幼い頃は義母に虐げられていた。実の母はロキを産んでから身体が弱くなり、四歳の頃に亡くなった。そして、六歳になったロキは義母により森の奥深くに捨てられた。虐げられて過ごして来たロキは自身の感情に疎かった。そうしなければ、痛みや悲しみ、悔しさ、憎さ、全てに押しつぶされる事になるからだ。だが、森に捨てられてから一週間が経った頃だった。ロキ自身がそろそろ死ぬかもしれないと感じていた。でも、本人はそれでも良いと思っていたのだ。生きていてもしんどいだけだったからだ。だが、そんな時にたまたま、狩猟に来ていたお爺さんに出会ったのだ。
「こりゃあ……大変だ」
穏やかな話し方のお爺さんはロキを拾って育てた。自分の孫という事にして。そのお爺さんが住む村はとても小さかったが、人が良く、温かな村だった。
そんな村では皆が家族で友人だという認識が強かった。そして、新参者な上に見た目もいいロキは沢山、話しかけられたり、好意を寄せられたが、全て冷たく返した。
「俺に触んな」「俺に近づくな」「話しかけるな」そんな事ばかり言っていると、ロキの側には人が集まらなくなっていた。
「ロキ……皆、お前と仲良くなりたいだけなんじゃ……」
「俺は別に仲良くなりたくない……」
お爺さんは家に引きこもっているロキを心配していた。そんなある日の事だった。
「ロキ? 誰だそれ?」
ロキは母方の祖母の家から帰って来たヴァンと出会ったのだ。
「あいつだよ! 銀髪の髪をしたスカしたやつなんだ!」
「性格も悪いのよ!」
中心にいる男の子に皆が一生懸命に話しかけている姿をロキは冷めた瞳で見ていた。だが、そんなロキにヴァンは気づいたのだ。そして、こちらを見て目を見開いて驚いていた。
「かっけえ……かっこいい奴は幼い頃から綺麗なんだな……」
そして、ヴァンはロキを見て感心している様子を見せたのだ。
「と言うか、お前らも一人でこの村へ来て心細いロキに詰め寄ったのも悪い。初めての人達が急に自分に押し寄せて話しかけたら、怖いだろう? 違うか?」
その言葉に周りの子供達は罰が悪そうな顔をした。そんな彼らにヴァンは笑って「謝りに行こう」と誘っていた。この時のヴァンの第一印象は、偽善者だった。一番関わりたくないと思ったのに、ロキの中で何かが変わったのはあの時だろう。
ヴァンは冷たい態度をとるロキに気にした様子はなく、寧ろ笑い飛ばしながら、毎日、遊びに誘って来た。それを見たお爺さんはロキを家から追い出して、ヴァンと遊ばせた。
「何処に行くんだよ」
不機嫌を隠そうとしないロキにヴァンは苦笑した。
「こっち、こっち」
森の中に進んでいくと、水の流れる音がした。
「今日は水で遊ぼうぜ!」
その言葉によって、強制的にロキは水遊びをさせられた。だが、日が落ちるまで遊んだ二人を見ていた子供達がいた。その子供達はヴァンをロキに取られたと思ったのだろう。ヴァンと別れた後にロキを呼び出して、森の山小屋に閉じ込めたのだ。
その夜は暑く、森の中といっても小屋の気温は上がっていた。目の前がクラクラとし出した時だった。
「ロキ!!」
焦った様子のヴァンが現れたのだ。ロキを見た瞬間にポロポロと涙を流した。
「ごめん! ごめんな! もっと、早く……見つけて……」
「……お前のせいじゃないだろ」
「いや……俺の友達のせいだから……ごめん……」
ヴァンは持っていた水をロキに飲ませた。だが、まだ身体が怠いロキにヴァンの涙は止まらない。それと連動するように外は雨が降り始めた。
「お爺ちゃんは?」
「めっちゃ心配してるし、お前の事を探してる!」
「そっか……で? 大人はいつ来るんだ?」
「あっ……」
ヴァンはロキがいなくなった話を聞いて、誰にも告げずに家を飛び出したのだ。
「馬鹿だろ。お前……」
「ごめん。言い返す言葉がない」
「それだけ……俺のことが心配だったのかよ」
「あっ、当たり前だろ! 俺達は友達なんだからな!」
ヴァンは笑顔を浮かべた。それは、まるで太陽のようだった。ロキの中に初めて光がさしたのだ。この日からロキの中でヴァンは特別になった。常に行動も共にした。
「ヴァン。遊ぼうよ」
「おっ! いいよ」
だが、ヴァンはロキだけじゃなく、皆んなに優しかった。女の子には「今日の髪型可愛い」「そこ、段差あるから気をつけろよ」「寒いなら、これでも羽織っておけよ」と気遣いができるし、男の子に対しても「体調でも悪いのか? 一緒に木陰で休もうぜ」「おっ! 今日もかっこいいな」「怪我してるぜ。手当してやる」そんな感じで皆に接するので、ヴァンは皆んなから好かれていた。
「ヴァンくん!」「ヴァン」と呼ぶ声はロキだけではない。その事にずっと不服を抱いていた。ロキはヴァンを独り占めしたいのだ。笑顔は俺だけに向けて欲しいし、会話も自分とだけして欲しい。そんな思いは成長するにつれて大きくなった。だが、大きくなると、ロキも感情を隠して人当たり良く接し、さらには笑みを浮かべれるようになっていた。
しかし、ヴァンも成長するにつれて、皆の憧れから好意の対象に変わっていた。そのため、ロキは同年代の女の子達に自分を好きになるように仕向け、その上で同年代の男達と結ばせた。ロキが間を取り持ったのだ。そうする事でヴァンの結婚相手を無くしていった。ヴァンがモテないのではない。裏でロキが画策したのだ。これで、ヴァンは自分の物だと思い始めた時に神官が村にやって来て自分を勇者だと認定した。
そのせいで、ロキはやりたくもない魔王討伐へ行かなければならない。だが、そうすると、ヴァンが村へと残り、自分がいない間に好きな人ができて結婚するのではないかと思い始めたのだ。
「そんな事、許せる筈がないよね……」
ロキはヴァンとずっと一緒にいたい。なら、考えられる選択肢は共に魔王討伐の旅に赴く事だった。
しかし、当たり前ながら、ヴァンは魔王討伐には行かないとはっきりと断ったのだ。勇者のパーティーメンバーに農夫はないという。別に良くないか? と思ったが、何を言っても聞く耳を持たないヴァンにロキは方法を変える事にした。パーティメンバーにヴァンを認めさせる事だ。そうすると、ヴァンも参加しやすいだろう。そのため、少しの間だが、ヴァンと離れる事にした。しかし、その間に彼に何かあってはいけない。そのため、彼に保護魔法をかけた後に最速で事を進めたのだ。まずは聖女だ。彼女にはヴァンと自分の絆がどれほど深いか説明した。すると、彼女は簡単に同行を許可した。次に魔導士は普通に早く終わりたいなら、農夫も連れてけと脅したら、すぐに同意した。最後に騎士だが……初めに徹底的に叩きのめした後に俺よりもヴァンの方が強いと説明すると、簡単に認めた。実際、ヴァンは気づいていないかもしれないが強い。畑の害虫駆除と言いながら魔獣を倒していた。俺よりは弱いかもしれないが、勇者パーティのメンバーとして十分やっていける。
それなのに、ヴァンは魔王討伐の旅にはついて行かないという。なら、最終手段だ。ヴァンに俺を好きと言わせればいい。それも、皆んなが見ている前でだ。
そして、結果は成功。ヴァンが俺に告白したのだ。
もう……俺のもの。皆んなにはあげない。




