②
俺は他のメンバーに本当に農夫が付いてきても良いのか確認する事にした。勿論、ロキが席を外しているからだ。彼は今、村の皆んなに囲まれている。とうとう魔王討伐の旅にでる話を聞きつけた皆が集まったためだ。
「せっ、聖女様……ですよね?」
癖がある長い金髪の髪に緑色の瞳は大きく、華奢な身体。全体的に可愛らしい感じの彼女はゲームで見た姿だった。
「はい。リリアと言います」
俺の問い掛けに優しく微笑む彼女にドキッとした。流石は前世の推し。大変可愛らしい。
「あの……聖女様は」
「私の事はリリアとお呼びくださいな」
ええ? 呼んでもいいの? 俺はその言葉に飛び上がりそうになったが、咳払いをして自分を落ち着かせた。
「リッ、リリアさんは……農夫が魔法討伐に付いて来るのは……」
きっと、嫌だろうな。リリアもきっとロキを好きな筈だからな。俺にべったりの奴の姿を見るのは嫌だろう。
「大賛成です!! 私はヴァン様が討伐について来てくださる事に大賛成なのです!!」
凄い食い気味に反応を示した彼女に俺は開いた口を閉じることができなかった。
「どうして?」
純粋な疑問である。俺の事を何も知らない彼女がどうして、賛成するのかわからない。それも、頬を軽く染めて顔の前で両手を握りしめた彼女の様子は何処かおかしい。
「私はロキ様とヴァン様が一緒にいる所を見るのが好きなのです。そうですね……私は貴方達が住む家の壁になりたいぐらい好きなのです」
「何を言っているんだ?」
思わず真顔で彼女に問い返してしまった。本当に彼女が何を言っているのか分からない。
「何って……? 私はロキ様とヴァン様がセットでロキヴァンが好きという事ですよ。初めて、ロキ様が私の元へと訪れた際に教えられたのです。ロキ様とヴァン様の絆! 誰にも手出しできない二人の思い出! さらには……二人がお互いを想い合う気持ち! 私は感動しました。そのため、私は二人を一番に応援する事に決めたのです! ですから……ヴァン様。ロキ様と共に魔王討伐の旅に行きましょう」
やばい。この人は本当に聖女か? 俺の推しだったリリアではない気がする。俺はゆっくりと彼女と距離をとってから即座に逃げ出した。
そして、次に魔導士に声をかけた。
「こんにちは」
だが、日陰でしゃがみ込んだまま動かない。フードを深く被った彼女は小柄で静かなため、見つけるのに時間がかかった。
「えっと……魔導士様であってる?」
彼女の前にしゃがみ込み、もう一度、声をかけるとやっと反応してくれた。
「あってる。というか、私に近づくなよ」
「ええ⁈」
でも、この反応は俺的にはいい。彼女はきっと、俺が魔王討伐に参加するのは反対のはずだ。そう思うと、無意識に表情に笑みが浮かんでいた。
「何を笑ってんだよ? 早く、お前は魔王討伐準備しろよ」
「…………えっ?」
俺は彼女の言葉に固まった。言われている意味を頭の中で処理することができなかったのだ。
「さっさと行って、さっさと帰りたいんだ。だから、こんな所で油を売る前に準備しろよ」
「えっ? ごめん。少し待て……魔導士様は俺の参加を認めてる?」
「……? 何を今更」
「えっ? 俺、農夫だけど?」
「鍬で戦え」
いや、鍬で戦えって……普通に嫌ですが?
「魔導士様は嫌ではないんですか? せっかくの勇者パーティに農夫が参加するんですよ?」
その問いに彼女は顔を上げた。その表情は面倒くさいと書かれている。
「別にいい。私は魔王討伐など興味ないからな。終わって、早く家に帰りたい」
「そっ、そうですか……」
そして、俺は話はそれだけか? と言われて追い払われた。
「いや、まだだ。まだ、騎士の彼が残っている」
最後の一人は騎士の男だ。ゲーム内ではロキと旅の間に何度もぶつかる男である。そして、友情が芽生えて来るのだ。それだけ、信念が強い上に男気がある男だ。きっと、勇者パーティにも誇りを持っているはず。ポッとで農夫を認める筈がない。そう希望を持って声をかけたのだが……。
「一緒に魔王討伐に行こう! 共に魔王を倒そうぜ!」
何でだ⁈ 何故、皆んな普通に農夫が魔王討伐に参加する事を認めるんだよ⁈ 可笑しいだろ? 普通に考えて! 俺の内面は荒れていた。
「普通に農夫には無理だろう!」
「いや! 俺にはわかる。その身体はよく鍛えられている! 流石だ! 勇者殿が認めるだけはある!」
「褒めるなよ! 俺は、魔王討伐に行く気はないんだ! お前らが否定してくれよ!」
騒がしくしていると、皆の対応を終えたロキが戻って来た。
「どうしたの? そんなに荒れて」
お前のせいだよ……。そんな気持ちのまま、ロキの方に顔を向けた。
「ヴァン。皆んなは君の参加に賛成みたいだよ。諦めて、一緒に魔王討伐に行こうよ」
彼は俺に手を差し出した。だが、その手を取る事に躊躇する。
「いっ、嫌だ」
そして、自分の意思をはっきりと伝えた。
「ヴァン? なんで? 俺と一緒は嫌なの?」
「…………お前こそ、何で……そこまで俺と行きたいの?」
そこがどうしても引っかかるのだ。確かに、俺達は幼い頃から共にいる幼馴染だ。だが、魔王討伐に一緒に行きたいほどなのは何故なんだ。
「……ヴァンは鈍いもんね。忘れてたよ」
「はっ?」
ロキは突然、俺の両手を握りしめて来た。驚いて、その手を振り解こうとしたが、びくともしない。いつもなら、簡単に彼の手を振り解くことができたのに。
「驚いてるね。俺に力に敵わないのはそんなに可笑しな事?」
「えっ?」
「当たり前だよね? だって、俺……勇者だよ? それも、歴代最高なんだって。そのおかげで、四日ぐらいで仲間を集め終える事ができたけど」
「ロキ?」
「でもね……俺、別に仲間なんて必要ないんだよ」
「何、言って……?」
彼が俺に何を伝えたいのか分からない。だが、淡々と語る彼の瞳は真っ直ぐに俺を射抜いている。
「俺にはね……ヴァン。君さえ居てくれればいいんだ。世界も魔王も……村の皆なんて、どうでもいい」
そう言葉を放ったロキの手に力が入る。
「ロキ……」
「どうしてだと思う? 考えれば簡単にわかる事だよ」
その答えに俺は辿り着いている。だけど、それを認めてどうなるのだろうか?
「ヴァン」
名前を呼ばれて、ゆっくりと彼と目を合わせると、微笑まれた。そして、顔が近付いてきて、そのまま唇を合わせた。
「…………へっ?」
俺は離れていく唇から目が離せない。そして、俺は気づいた。ロキにキスされたと。その瞬間に、身体が一気に熱を持った。
「顔が真っ赤だ」
「ロキ! 何をするんだ⁈」
大きな声で叫んだ。すると、彼は真剣な顔で言葉を放った。
「好きだよ」
「……っ⁈」
「好き」
「……っ」
「好きなんだ……」
「もう、やめっ……」
「好きだから、ヴァンと離れたくない。一緒にいたい。俺の気持ち、わかってくれた?」
「わかっ……わかったから……」
俺の顔はきっと、茹蛸のように真っ赤に染まっている事だろう。
「なら、一緒に魔王討伐に行こう。俺はヴァンと離れたくないんだ」
「ロキ……」
彼の気持ちは真っ直ぐに俺だけを思っている事は伝わった。だけど……魔王討伐について行くことは……。
「気持ちは嬉しい。だけど、魔王討伐について行くのは話が別だ」
「じゃあ、俺の事を好きって言って。結婚したいほど好きって言って」
「はっ⁈」
「じゃないと、魔王討伐に行かない」
その言葉に勇者パーティのメンバーは固まった。勇者がいなければ魔王を倒すことなどできない。そのため、三人の視線は俺に向けられる。まるで、俺を非難しているようだ。
「ヴァン。俺の事をどう思っている?」
彼の顔はニンマリと笑っていた。この状況を作り出したのはワザとだったのだ。俺に好き以外の言葉の選択肢はない。
「ヴァン」
もう一度、名前を呼ばれ、俺は覚悟を決めた。
「ロキ……好き、好きだ! 結婚したいほど、好き!!」
ヤケクソに叫んだ。その瞬間、ロキに勢いよく抱きつかれた。




