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狂気の慟哭

「ずっと世間に顔を出してなかったんですから、急に現れてしまうと国中がパニックになってしまうので・・・」

「それでこのマスク?可愛いデザイン!」


ストロベリースフレは輝く瞳をより一層輝かせて手渡された苺の模様が掘られた銀色のマスクを身に着けた。

そのマスクは不思議と彼女の顔にぴったりで、デザインも変身後の姿も邪魔しない上品な雰囲気をまとっている。


「・・・ぴったり」


「似合ってよかったです」


ショコラミントは笑顔で喜ぶ目の前の魔法少女を見た。

下の方にふっくら伸びたツインテールを大きなキャンディが飾り、ふんわりと風を受け広がるバルーンスカートからはみ出る見せパニエが可愛らしい。


当時の熱狂的なファンなど衣装を知っている人に出くわさない限りは顔を隠しさえすればバレることはないだろう。

元々魔法少女は不思議な魔力で身元はばれないようになっているのだから、いくら一度死んでしまっているとはいえ、妖精が近くに居ればきっとショコラミント同様に守られるだろうと思っていたのだ。


「さぁて、ガーゴイル討伐にいくぞ~!」


ストロベリースフレは拳を上に突き上げると元気よく窓を開け放した。


ショコラミントは慌ててストロベリースフレの後に続くように窓から外に飛び出した。


目的地に向かいながら二人は今後の計画を練ることにした。


「あなたが名乗るとややこしくなると思うので、一時的に別の名前を名乗ってもらいたいんですけど・・・」

「うーん、正直気に入ってる名前だから変えたくないけど、混乱を避けるためなら仕方ないか・・・うーん・・・ベリーベリーとか?」

「それならダブルベリーとかベリーフロマージュとかどうですか?」


ショコラミントの提案にストロベリースフレはぱあぁっと輝く笑顔を向けた。


「それ可愛い!!ベリーフロマージュにする!」


「喜んでもらえて何よりです」


二人はまるで幼馴染や親友のようにキャッキャと明るい様子で依頼先に向かって行った。



それからメディアでは「新たなバディ」「ソルトエースの後釜」など様々な憶測が飛び交っていった。

その情報は海外留学中のサエの元にも届き、久しぶりの国際電話でのやり取りで葉月はサエから問い詰められることになった。


『ちょっと葉月!ネットの動画見たけどあの子もしかして・・・!」

「急に何」

『私スフレちゃんのオタクだって葉月が一番わかってるはずだよね。ちょっとさすがに黙ってるのは許されないよ?』

「・・・」


葉月がだんまりを決め込むと、サエは強制的に通話をスクリーンモードに変えた。


『葉月?』

「・・・」

『スフレちゃんだよねあの子』

「・・・」

『はーづーきぃ?』


葉月はその圧に勝てず、今まであったこと、魔法少女になったきっかけなど洗いざらい話すことになってしまった。


『なるほど、葉月、一つ良い?』

「なに」

『・・・い』

「え?」

『ずるい!私もスフレちゃんと戦いたい!』

「えぇ・・・」


サエは画面越しにほほを膨らませ、ざったい帰ったら私も共闘するなどと熱弁し終えると満足したようにおやすみとだけ言って通話を切った。


「嵐みたいだった・・・」


葉月は疲れた様子でため息をつくと、研究所から来ていた大量の着信を消去してからキッチンに放置された冷めた夕ご飯を電子レンジに入れた。





「本当に馬鹿な子。ばれないわけないっていうのに」



真っ白な満月の光を浴びながらやよいは深い深いため息をついた。

 

 



まだ朝とも呼べない、陽が昇り始めるかどうかといった時間に、一人の魔法少女がとある家の窓を見つめていた。


「お母さん、お父さん・・・」


つややかに膨らんだツインテールが朝の冷たい空気にゆらされ、陽の光を浴びてきらめいた。





「そういえば、どうしてここにはテレビもスマホも無いの?」


葉月は急な質問にドキリと肩を震わせた。


「え、えと、今は魔法の研究がかなり進んでいて、このスクリーンが魔法少女のスマホみたいなもんなんですよ。お姉さんは登録が追い付いてないので・・・」

「お姉さんじゃなくて苺花がいい」

「え」

「まーいーか!」

「は、はい。苺花・・・さん」

「まあいいか・・・私は魔力で死なないように保護されてたから成長してないだけであなたより先輩だもんね。本当は呼び捨てため口でいいんだけど」


苺花は納得していない様子のまま仕方ないといった様子で腕を組んだ。


こんこんと扉がノックされる。

葉月の返事を待たずに扉が開けられると、そこには焦った様子のやよいが立っていた。


苺花は驚いて隠れようとしたが、葉月が事情を知っている旨を伝え、双方自己紹介を済ませてからやよいはスクリーンと表示させて操作を始めた。


その画面には匿名掲示板のやり取りが映し出されている。


《この魔法少女、伝説の魔法御少女に似てない?》

《ほんとだ。俺当時ファンだったしブロマイド500枚くらいあるけど今確認したら衣装も髪型も身長も等身も一緒だ》

《新人魔法少女ベリーフロマージュだって。名前のモチーフもほぼ一緒じゃね?》

《ほなスフレたんか》

《でもあの子何年も前に死んだんだろ?クローンとか?》

《でも死体は見つかってないって当時報道されたよな》

《自爆することで災害球のガーゴイルと相打ちになって日本を守ったんだろ?今度祝日の勇者の日あるし、俺特番予約したんだけど》

《もしかしてさ、自爆して死体は残らなかったけど、かろうじてDNA残ってたんじゃね?で、遂にクローンが完成したってんで試運転に戦わせてるとか?》

《てことは今度の勇者の日にお披露目ってことか》

《興奮してきた》



苺花はそのやり取りを黙って読み続けている。


「死んだことになってるかもっていうのはこういうこと・・・?じゃあお母さんは?お父さんは?」


「当時盛大に葬儀の様子もテレビが下品に押し掛けていたからおそらくは・・・」


やよいの返答に苺花は絶望した表情で葉月に視線を移すも、葉月は気まずそうに視線をそらしてしまう。


「そんな、そんなことって・・・!」


苺花は変身もせずに部屋を飛び出してしまった。バタバタと足音が遠ざかっていく。


「ねぇ、あの子もしかして家に行ったんじゃ」

「え、、あ!」


急な展開についていけないといった様子で呆けていた葉月は我に返ってすぐに廊下に飛び出したが、そこには怖いくらいの沈黙が広がっており、苺花が過ごしていた部屋の鍵は開いたまま、扉が開け放たれていた。もちろん中には誰もいない。



「・・・やばい」


二人は靴を履きなおしてすぐに外に飛び出した。





苺花は涙が零れ落ちないよう顔に力を入れた。


見覚えのある懐かしい家を見つけると扉の前に立ち、震える指でインターホンに触れようと手を伸ばした。



「あら、あなたは?」


後ろから女性の声がして、苺花は思わず視線を移動した。

二人の視線がぶつかり合い、沈黙を産む。


「ま、苺花・・・なの?まさか・・・」

「おかぁさ・・・」

「ニセモノなんて送り付けられて喜ぶ親がどこにいるのよ!」

「え」


女性の絶望したような表情から生み出される絶叫が住宅街に響き渡り、人が集まってくる気配がした。


「あの子は国のためにただ一人体を張って戦ってくれた・・・!みんなのホコリだからと何とか最近やっと納得したのに今更こんな・・・!」


わっと泣き出してしまった女性に苺花は手を伸ばすもその手は空中で停止する。

がやがやと人が集まってきた気配を感じ、苺花は背筋を伸ばすと、一度上を向いてから変身して屋根の上に一歩踏み出した。

続々近所の人が集まってくるのを遠巻きに見ながら、ストロベリースフレはその場を離れる。


「・・・もう私はこの世界にはいないんだ」



ストロベリースフレは人気のない町はずれの公園に降り立つと、背後から植物型のガーゴイルが襲い掛かってくる。

ストロベリースフレは大ぶりのハンマーを無言で召喚しガーゴイルを見向きもせずに粉砕した。


「さすが史上最強の魔法少女は強いですねぇ」


糸目の男が拍手をしながらゆっくりとストロベリースフレに近づいてくる。霞だ。


「・・・」


「おぉ恐い。もはや魔力を吸収しすぎて人ですらない人型の何かだというのに、その瞳に映る正義の光は衰えていないとは」


「人じゃない・・・?」


霞は眉尻を下げてまるで彼女を憐れむように大げさに両手を振り上げた。


「あなたは半分・・・いえ、ほとんど私たちガーゴイルや妖精たちと同じ存在になっているのですよ。もう死ぬことは不可能でしょうねぇ」


「霞、存在がもうこちら側だったとしても心はまだニンゲンなのでしょう?なら倒さな・・・」


霞の背後から少女・・・華憐が顔をのぞかせ話しかけたのと同時にハンマーがその頭を吹き飛ばした。

衝撃で霞の腰も一部えぐれている。


「おやおや、人間の精神は本当にもろい。怖いですねぇ」

「黙れ」


霞はその攻撃を避けるのがやっとのようで笑いながら公園の中を飛び回っている。

若干避けきれていないのか、身体のあちこちがえぐれ、黒い煙のようなものが零れ落ちる。


「私は人間だ!みんなのために戦ってるのに!なんで!!!!」


もはや泣き声にも聞こえるその絶叫に、葉月とやよいが駆け付けたころには、霞は上からハンマーでつぶされるところだった。


「おや、やっと来ましたか。彼女はもう止められませんよ。化物を産んだ責任はとることで・・・・」


ズシャァ!!


砂の山を上からつぶしたような音とともにハンマーが振り下ろされる。


真っ黒な砂が空気に溶けて消えていく中、へたり込んでいたストロベリースフレがゆらりと立ち上がった。

振り返ったその表情は笑っていたが、目からは真っ黒な涙が頬を伝い地面を染めていた。


かつて希望と正義に輝いていた瞳は真っ黒に塗りつぶされ、その深淵は深く何も見えない。


「なんでぇ?なんで私を生き返らせたの?」


震える声が葉月の脳内に響く。


「そ、その、あの時、命を助けてもらって、お礼も言えなくて・・・」

「ふざけないで!私は生き返らせてなんて頼んでない!お礼なんていらない!私は何も知らずに死んだ方がよかった!何も知りたくなかった!お母さんが私をニセモノって言った!死ねないって何!?私は一体何になったの!?」


「おちつい・・・」

「うるさいうるさいうるさい!!!お前のせいだ!お前を助けなきゃよかった!死なせてよ!お願いだから死なせてよ!!」


悲痛な声は葉月の声もやよいの言葉も届いていない。

そうこうしているうちにストロベリースフレの周りにあまりにも濃い魔力の霧があふれ出し、そのまま体を包みこんだ。


「もういい!何もいらない!こんな世界、壊せばいいんだ!みんなみんな大嫌い!」


少しエコーのかかった声が脳内にこだまする。


声は霧の向こうから聞こえてくるようだった。

集まっていた霧が急に晴れ、葉月とやよいが目を開けるとそこには透き通った素材を幾重にも重ねた布でできたシンプルなワンピースを身にまとった美しい少女がふわりと宙に浮いていた。


少女はくるぶしまで伸びたサラサラで真っ白な髪を風にゆらし、どこかうつろな目で虚空を見つめていた。


《全部全部、なくなればいいんだよね?》


~エルエルの魔法少女解説~


こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!

どうしてこうなったエル?エルエルはまた苺花と会えてうれしかったのに・・・人間って難しいエルねぇ。

でも、苺花の笑顔は大好きだから何とか苺花には泣き止んでほしいエル!

エルエルも協力できることがあれば頑張るエル!

皆も彼女たちのことを応援してほしいエル!エルエルの力で彼女たちの耳に声を届けて見せるエルよ~!!!

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