希望
カーテンの隙間から差し込む真っ白な光が葉月の顔を照らした。
そのまぶしさと日光の熱で目を覚ました葉月は目の前のベッドが空っぽなことに気が付くと、慌ててあたりを見回した。
「え、あれ?お姉さん!?」
葉月が余裕のない様子で立ち上がり部屋を歩き回っていると、背後にあった水回りにつながる扉が音を立てて開いた。
「あ、目が覚めた?」
葉月の耳に聞こえてきた声は、葉月が長年聞きたかった超え、一度だけ聞いたあの憧れの声だった。
「あなたは魔法少女だよね?私は冨和苺花!魔法少女ストベリースフレとしてこの町をまもってるんだ!」
苺花と名乗った少女は優し気な笑顔を葉月に向けると自己紹介をした。
「えと、民十葉月・・・です・・・魔法少女ショコラミントとしてスフレさんの後任やってました
・・・」
葉月が名乗ると苺花は嬉しそうに葉月の両手を取ってぶんぶんと上下に振ると嬉しそうに笑顔を向けた。
「私の後輩!!!じゃあこれからは二人でペアだね!!!っと、ところでここは・・・自治体御用達のホテルかな?」
「そうです!えと、ガーゴイルから守っていただいた時に魔力が切れたのか倒れてしまったので何とか逃げたんです!それで・・・」
葉月は彼女が一度死んだことを隠し、ごまかすように今まであったことをかいつまんで話した。
「そうかぁ、私、魔力の暴走で昏睡状態に・・・」
「ただ、いきなりみんなの前に出なくなったってことで世間的には死亡扱いになってるかもしれないので・・・」
苺花のどこか納得していない様子を何とかごまかしながら、政府についての疑念や大臣とのやり取りも含めて葉月が伝え、今はとにかく回復しきっていないから休むようにと無理やり話を終わらせた。
その部屋は豪奢なわりにテレビもパソコンもなく、カレンダーも置いていない不自然さに苺花が気が付かないことを願いながら、葉月は興奮した様子を隠すことなく苺花の手をしっかりと握り返してその目をまっすぐと見つめた。
「実はその、私、あなた・・・魔法少女ストロベリースフレに命を助けてもらったお礼をずっと言いたかったんです!でもずっと眠っていたし・・・私が魔法少女になったのも貴女みたいになりたくて、えと、エルエルが」
「エルエルがまだ生きてるの!?」
苺花は葉月の言葉を遮るように目を輝かせてうれしそうな様を隠すことなく葉月の手を強く握り返した。
その声に反応したのか、葉月のマジカルジュエルの中から四つの羽をぱたつかせちいさな球体が飛び出してくる。
「スフレエル!久しぶりエル!!」
エルエルが苺花の顔につっこむと、そのまま体をよろめかせて苺花はベッドに仰向けにたおれこんだ。
「エルエルだ、本物だ!良かったぁ」
苺花とエルエルが楽しそうなやり取りをしているのを見て、葉月は邪魔しない方がいいと判断し、静かに扉から廊下に出て二人切にしてあげることにした。
葉月は自室に戻ると、カレンダーに目をやった。数日後のある日付に赤丸が付いている。
テレビをつければ
『もうすぐあの大災害を自爆してまで止めた伝説の魔法少女の命日である、《勇者の日》ですね。その祝日を記念して番組スタッフは街の人に今の最推し魔法少女を聞いてきました』
などとのんきなテレビクルーの声が聞こえてくる。
葉月は苦々しい顔でリモコンを操作し、テレビの電源を切ると、ベッドに倒れ込んで天井の模様を眺めた。
壁の向こうからはキャッキャと明るい声が聞こえてくる。
葉月はその声を聴きながら嬉しそうに口角を上げた。
『ねぇ、誰か新しい仲間でも増やしたの?』
やよいからのメッセージアプリの通知で葉月は目を覚ました。
時計を見ればその針は深夜の一時を刺していた。昼間に聞こえた明るい声はもう聞こえなくなっており、エルエルも戻ってきた形跡がないので一緒に眠りについているだろう。
『ちょっとね。でも委員長には関係ないから気にしないで。あ、でももし大臣とおつきの人が来たときは黙っててもらっていい?』
葉月の返事に既読が付くや否やすぐに通話がかかってくる。
「・・・なに」
「大臣に隠せって言ってる時点でやばいこと隠しているのは明白でしょう?私も似たようなモノだし、いいから教えなさいよ」
やよいの有無を言わせない雰囲気を電話越しに感じた葉月は恐怖のあまり慌てて電話を切ったが、間髪入れずに再度通話がかかってくる。
「切らないでくれる?あなたと私は違法同士なんだから墓まで一蓮托生で行きましょうよ。今更聖人面しないでもらっていいかしら?」
「・・・委員長って口は堅い?」
「あと前から思っていたのだけれど、その委員長って呼ぶのやめない?」
「えぇ・・・じゃあデスs・・・」
「私はもう変身できないのだからやよいでいいわ」
「あ、はい。じゃあ、やよいは口堅い?」
「・・・・・・・・・。口が堅くないと困ることがあるの?」
やよいはあきれたようにため息をつくと、言い訳の余地を残すことなく電話越しに詰め続ける。
葉月はその圧に耐えられず、ストロベリースフレを蘇生したことを話した。
「前言っていた蘇生ってそういうこと・・・遺体が行方不明とは聞いていたけれどこんな近くにあったのね」
やよいは呆れたといわんばかりの声色で分かったというと電話を切った。
まもなくして葉月の部屋のインターホンが鳴った。
葉月が扉を開けると不機嫌そうな様子のやよいが腕を組んで立っていた。
やよいは葉月の入れた紅茶をひとくち口に含むと相変わらずまずい紅茶とつぶやきつつ葉月に説明を求めた。
葉月は観念したのか、数年前にストロベリースフレと出会った時の話を美しい思い出のように長々と語って聞かせた。
お礼一つも言えずに目の前で死んでしまった彼女にお礼を言いたいと強く願った時、当時彼女のパートナーだったエルエルに声をかけられたことなど葉月自身の心情を交えて聞かされたやよいは、まるで海外の甘すぎるスイーツを口いっぱいに詰め込まれたような表情でその話を黙って聞いた。
「・・・それで、ついに魔力残滓が規定量に達したみたいで生き返ってくれたんだ。一緒に戦えるなんてまるで夢のようだと思わない?」
葉月は夢心地な様子でやよいに同意を求めたが、やよいは真面目な表情を崩すことなく言葉をぶつけた。
「でも、命日が祝日にされてて、親御さんも娘が死んだって聞かされてるのに彼女が急に現れたら世界がパニックにならない?まだ魔法少女に変身が可能かはわからないけれど」
「そんなの知らないよ。関係ないし。まあ一応世間的には死んだことになってるかもしれないっては言ってあるから顔さえ隠せばきっと大丈夫だよ!」
葉月は自身の目標を成し遂げたことで正気を失っているのかとても上機嫌な様子で楽しそうに鼻歌を歌っている。
「本人がそれをちゃんと聞いていたらいいわね・・・」
話にならないと判断したやよいはお茶のお礼だけ言って椅子から立ち上がるとそのまま自室に戻ることにした。
苺花はエルエルを抱きしめながら豪奢でふかふかなベッドの上で穏やかな寝息を立てていた。
何か幸せな夢を見ているのかその表情は穏やかで、まるでこれからも幸せな毎日が続いていくと疑っていないようだった。
~エルエルの魔法少女解説~
こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!
ついにストロベリースフレが目覚めたエル!エルエルのパートナーが二人になるなんてまるでマジカルメロディのパートナー妖精、マニャージャみたいでかっこいいエル!エルエルも二人がアイドルなんて始めたらマネージャーのお仕事をするのかなぁ?
これからがとっても楽しみエル!!!




