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奇跡への階段

葉月は陽が沈み窓の外が漆黒に包まれたことを確認すると、変身して窓から外に飛び出した。

あれから週に数回、護摩と達磨が交互に訪れるようになり、昼間は魔法少女の仕事ができなくなったのだ。

訪問のある日は連絡が来るので他の日にすればいいとも思ったが、緊急事態が起きたときのことを考えると昼間に出歩くのもはばかられた。


まるで葉月の性格を見透かしているように何度も顔を見せる二人に葉月は我慢の限界を迎えたのだ。


「お姉さんの体の鮮度を保つ魔法も無限じゃない。いつまでも待っていられない」


ショコラミントは月に照らしだされた屋根の上をすべるように前進する。

数日討伐していないだけでそれなりに増えていた大小さまざまのガーゴイルを片付けつつ魔力残滓を着々と回収して回る。

エルエルに多めに専用小瓶の発注を頼んでいたのが功を成し、その日討伐したガーゴイルの魔力残滓をすべて集めても小瓶の数には余裕があった。


そうこうしているうちに日が昇り始め、犬の散歩をする人や早朝勤務をしている人が家から出てくる様子がショコラミントの目に映る。


「タイムリミットか」


ショコラミントはまっすぐ自室に帰ると、二時間後にアラームをセットして布団に体を投げ出した。






「今日は勉強していたんだね」


護摩が扉を開けながら声をかけると、テーブルに向かっていた葉月が顔を上げた。


「学校を休ませてもらっているので。法や魔法のおかげで何も言われませんけど、魔法少女を卒業した後のことを考えると、高卒持ってるのに勉強できないのはさすがにヤバイじゃないですか」

「ふふ、それはそうだ。どれ、お姉さんが勉強を見てあげよう」


少し楽しそうな様子で笑った護摩は、葉月の向かいの椅子に座ると葉月が広げている問題集に視線を向けた。


「ん?これ、高3後期の内容じゃない?」


「・・・・あ、はい。そうですよ。最近仕事を取り上げられて暇だったので」


葉月は恨めしそうに護摩を睨みつけるが護摩は笑いながら葉月の頭を優しくなでる。


「ごめんごめん。でも仕方ないでしょ?魔法少女を守るのは我々の仕事だからね。でもさ、最近町のガーゴイルの数が増えていないんだ。まるで誰かが夜中にお仕事してるみたいにね?」


「・・・っ!?」


護摩が言うのももっともで、ショコラミント以外にこの自治体専属の魔法少女はいないため、本来はガーゴイルが増えないのは不自然だ。

ガーゴイルは民間人に危害を加えるもののため、他所の自治体から定期的に魔法少女を派遣依頼で呼び付けて討伐をお願いしているとはいえ毎日とはいかないのだから増える方が自然なのだがここ数日はむしろ減っているのだ。


「ねぇ、葉月ちゃん?」


護摩が勉強の手が止まってしまった葉月の顔を覗き込んでニコニコとほほ笑んだ。


「だって我慢できなかったんですもん!!!」


葉月は耐えられないといった様子で椅子から立ち上がると部屋の隅に逃げた。


「外出は規制してないし、私たちが来る日は連絡を入れていたでしょ?夜は危ないからせめて連絡んのない日の昼間にしてくれた方が・・・」


「私は罠を仕掛けられるので時間や明るさは関係ないです。むしろ暗い方が・・・」

「あのね」


葉月の言葉を遮るように護摩が呆れたように声を出した。


「仕事をお休みしてとはいったけど、絶対じゃないの。もしあなたが何かに巻き込まれたときに『討伐の仕事を禁じられている』といえるようにできるように建前で言っただけだから別に無視していいの。報告はほしいけど」


「それならそういってくださいよ!」


葉月のツッコミももっともだと言いたげな様子で護摩は肩をすくめた。


「まああなたはかなりベテラン枠だし怪我や命の危険もあんまり心配はいらいだろうけど、あなたは魔法少女じゃないときは普通の女の子なんだからね?」


護摩はそれだけ言うと、キッチンを借りるねとほほ笑んで姿を消した。


葉月は気まずそうな様子で勉強道具を片付け、ベッド横の台に置いていたお菓子の入った籠をテーブルに置いた。


「お菓子ありがとうね。魔力回復効果のある紅茶淹れたから、これ飲んでおしゃべりしよう」


護摩が淹れた紅茶からは不思議な気配が感じられた。カップを口元に持っていくとほんのりチョコレートの香りが葉月の鼻をくすぐる。


「このお茶はフレーバーティ―なんだけど、これ以外にクッキー、バニラ、あと各種花の香りがあるんだけど、どの香りがいいか現役女子高生の若い感性から聞いてみたかったんだ。あ、もちろん魔力回復効果以外に変なものは入れてないよ?」


「魔法研究の事務所とは定期的に連絡とっていたのでそこに関してはうたがってないですよ」


「春風さんのことかな。話は聞いてるよ。あの子は大臣の魔法少女時代に共闘したこともある直属の後輩だからね。信じてもらえているならよかったよ」


護摩は肩の力を抜き、葉月に魔法少女とは全く関係ない話題を始めた。

その時間はいつも気を張り詰めていた葉月にとっては慣れない空間だったが、どこか心地よい空間だった。


時間がたつのはあっという間で、他愛もない話をしているうちに窓の外がオレンジ色になってしまっていた。

ティーポットの中身もすっかり空になり、お菓子淹れの中身も減っていた。


「ひさしぶりに楽しかった。学生の頃に戻ったみたいだった、ありがとうね。台所に他の香りの茶葉も置いてあるから使ってみて。あとで感想聞くからね?あ、もちろんティーバッグだから安心して?」


護摩はそう言ってウインクすると、つかつかとヒールの音を廊下に響かせながら去っていった。



護摩の乗る車が遠くに消えたのを窓から確認した葉月は、小瓶を大量に入れた籠をもっていつものように少女の眠るへやに向かった。


「さて、一週間分だけど、どうだろう?」


葉月は小瓶の栓を指で降り、中身を惜しげもなくベッドの上にぶちまける。


魔力残滓の光が眠る少女の体を包み込んで美しく光り輝く。


しかし、この日はその光がすぐに消えなずに光り続けている。


「・・・・あれ?」


いつもならその光は少女の体に浸透し吸い込まれ、すぐに消えてしまうのだが、この日はなぜか吸い込む速度が異様に遅く感じられた。


「エルエル」


「どうしたエル?」


「これ・・・」


「?・・・すごいエル!ストロベリースフレの心臓がきれいな赤色になっているエル!」


透視魔法を使いながらエルエルが歓喜の声を上げる。


「それならお姉さんは・・・!」

「今まで送り続けた魔力が彼女の体になじめば目を覚ますはずだエル!葉月は本当にすごいエル!よく頑張ったエルねぇ!」


エルエルは四つの羽で葉月の頭を優しくなでると嬉しそうに部屋の中を飛び回った。


葉月はうれしさからか体の力が抜けたようにその場に座り込むと、言葉を失ったかのように黙ったまま目から涙を流しながら呆然と窓の外を見つめた。




その日の夜、美しい満月の光に照らされた部屋で、葉月は眠りについていた。

は少しだけぬくもりを取り戻しつつある少女の手をしっかりと握り、泣き疲れてしまった子供のようにあどけない寝顔でベッドのもたれかかる葉月の表情はとても穏やかに見えた。


「良かったエルね、葉月」


エルエルは嬉しそうに空中を一回転してからマジカルジュエルの中にはいりこんだ。


「おやすみなさいエル。今夜はいい夢を見られますように」

~エルエルの魔法少女解説~


こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!

ついにストロベリースフレが目覚めるかもしれないエル!あんなに正義感に満ちていた強い女の子を亡くすのは惜しかったし、本当にうれしいエル!

彼女とまた戦えるなんて夢みたいエル!葉月もあこがれの魔法少女と戦えるなんてきっとうれしいに決まっているエル!

これからもたくさん彼女たちを応援していくエル!みんなも応援よろしくエル!!!

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