おおきなおおきな渦の動き
「民十さん、お客様がいらしています」
葉月の泊まっている部屋の無線から機械音声が聞こえてくる。
「・・・ん・・・」
葉月はパーカーのフードを軽く整え、小さくあくびをすると、扉のロックをマジカルジュエルの遠隔操作で外した。
「・・・お邪魔します。初めまして、魔法少女ショコラミント」
質のいいスーツを身にまとい、まるで時の流れが遅くなったような美しい容姿の女性が一人、部屋に入ると、彼女の背後でまた扉の鍵が閉まった。
「えと・・・」
「あぁ、自己紹介がまだだったね。私は佐倉ちえり・・・名前だけは聞いたことあるかな?」
赤茶色のつややかな髪をきっちりとまとめ上げ、きりりとした瞳はまっすぐとした強い思念を感じられる。
「大臣さん・・・ですよね」
「そ。魔法省大臣、元魔法少女チェリー、佐倉ちえり・・・あらためてよろしくね」
佐倉大臣から差し出された手を葉月はとる。
「よろしくお願いします・・・?」
「ふふ、どうしてこんないち自治体のソロ魔法少女の元に?って顔をしているわね。魔法少女ショコラミント・・・民十さんと呼んだ方がいいかしら?今日はあなたにお願いしたいことがあってきたの」
佐倉大臣は小さな傘のチャームを取り出すと、ネックレスについている小瓶の中身をそれに落とした。
途端に光でできたレースの膜が二人の周りを包み込む。
「防音用の新作魔法アイテムよ。貴女の泊まっているこの部屋も、もしかしたら盗聴されているかもしれないからね」
佐倉大臣はそれだけ言うと、言葉を選ぶように慎重な様子で語り始めた。
「魔法少女ルージュナイトは知っているわよね?上がってきた報告では自死となっているけれど、あなたが看取ったのでしょう?」
「っ・・・」
「責めるために来たわけじゃないから安心して。書類の内容があまりにも無難すぎて、こっそり現地に足を運んだら、二つの魔法少女の痕跡があったの」
「でも、他にも魔法少女は沢山・・・」
「そうね。でも彼に関しては男の子って知った瞬間依頼を断る魔法少女が多かったみたいでね。貴女を含めて3人かな?彼と共闘したのは。でも今生きているのは残念ながらあなただけなのよ。
それに、他の魔法少女に比べてガーゴイルの討伐数が頭一つに気に出て多いの。他に理由はいる?」
佐倉大臣は無邪気な笑顔を葉月に向ける。葉月は拍子抜けした様子で目をぱちくりさせている。
「それで本題なのだけど、・・・黒い魔法少女って知ってる?」
「っ・・・!?」
「当たりね。知っていることがあれば教えてほしいの。私の存在を邪魔に思っている派閥の動きが激しくなってきているから、手短にになるんだけど」
「わ、わかりました。憶測もあるんですけど、いいですか?」
「真実みが強いのであれば」
葉月は今までデスサイズと話した内容、過去に支援要請で訪れた町で活躍していた白い魔法少女、エアリィについての話をした。手紙と変身アイテムは母親が保管していることを伝えると同時に部屋の扉がノックされた。
「大臣、お時間です」
「あ、もうこんな時間かぁ・・・仕方ない」
佐倉大臣は両の頬を勢いよくたたくと視線をきりりとただし、背筋を伸ばした。
「じゃ、これはあげる。魔力を込めれば使えるから。名前がまだ決まってないから、名前も決めてくれると嬉しいな」
佐倉大臣から受け取ったチャームを葉月は強く握りしめる。
「ではまた何かあれば召集します。もし頼りたいことがあればそれを見せて。それじゃ」
扉が閉まって、沈黙が帰ってくる。
葉月は心の中で「ストロベリースフレのことがバレなくて良かった」と胸をなでおろす。
彼女はいまだに目を覚まさない。
隣の部屋を軽く掃除しながら、葉月はベッドに眠る少女に何とも言えない視線を向けた。
赤い魔法少女は違和感を感じながら日々の戦いに身を投じていた。
学校に行く暇なんてなく、所属だけしている高校の制服を身に着けて、自治体が派遣した家庭教師に勉強を教わる日々だ。
他人より理解力のわるい自覚はあれど、魔法少女の適正がかなり高いのが幸いして、20歳になるまでに貯金をある程度できそうなくらいには稼がせてもらっていると感じていた。
「どれだけ大型の敵を倒しても、親玉の情報はおろか、その糸口すらつかめないなんて」
「仕方ないエル!ガーゴイルは今や日本中に現れてしまうエル!数の偏りもこまめに変化してるのにすぐに情報が出るなんてそうそうないんだエル!」
「エルエルはいいよね。何も考えずにマスコット面してればいいんだし!」
「よくわからないけれど、エルエルはストロベリースフレの一番の味方エル!」
四つの羽を一生懸命はばたかせながら少女にすり寄る小さな妖精の言葉に魔法少女はあきれたように息を吐いた。
「ま、とりあえずこいつらを倒したら帰らなきゃね!」
「おや?あなたは最強の魔法少女さんじゃないですか」
スーツを着た優男があやしい笑顔を張り付けて上から降りてくる。
「人型・・・・」
「カスミ、と及びください。我々ガーゴイルについてずいぶん勉強熱心なようですし、少しばかりお話がしたくなりましてね?」
「ガーゴイルの言葉なんて信じるわけないでしょ!?」
「まあ、そうなりますよね?そこの妖精が私たちと同じ存在だと聞いてもその手に持つハンマーを振り上げますか?」
「・・・・・・・・・・え・・・・・・・・?」
少女の手から落ちたハンマーが大きな音を立ててアスファルトとぶつかる。
重い音が響き渡ると、少女は隣に浮かんでいる妖精に視線を向けた。
「勉強会、と行きましょうか?」
カスミと名乗った男は少女に優しく手を差し伸べる。
少女はその手を取ることはなかったが、男の背後に現れた豪奢な屋敷に向かって迷わず足を向けた。
「絶望や怒りの感情は、エネルギー還元率のコスパがいいんですよね。貴女の正義の心、利用させていただきますよ」
時が止まり、飛び立つ鳥も空中で動きが止まっているなんて気が付くこともなく、少女は変身を解き、扉の向こうに消えていった。
その後の未来で更なる厄災に発展するきっかけの火種になるなんて誰も知る由が無いまま、少女は静かに家路についた。
「さ、あとは起爆剤を見つけるだけ・・・と。案外簡単ですね、ニンゲンって生き物は」
「カスミ、帰してよかったの?」
青年の背後から、かわいらしい少女が声をかける。
「種は多く撒けば発芽率も上ります。そもそも我らの女王は感情エネルギーをいただく代わりに、その感情を作り出す元となるきっかけを与えただけに過ぎない。そこから先の金策やらなにやらに関しては勝手にあとから生えてきたものしょう?それまで我々のせいにしているのはさすがにプライドが許せませんからねぇ」
「プライドなんてないくせに」
「君も言うようになったね」
「カスミがくれた人間の本、面白い」
少女は一冊の漫画本をぬいぐるみと一緒に抱きしめる。
「気に入ってくれたかい。それならまた別の本も用意しようじゃないか」
青年は初老の男性に姿を変えると、町の本屋に向かった。
青い服に身を包んだ金髪の少女が書かれている本を手に取ると、カウンターにて会計を済ませる。
本屋を出て、手に持った本を眺める。
「不思議の国は、何も悪くないのですよ」
感情の感じられない声が、町の雑音に掻き消されていく。
濃紺の空には色とりどりの輝きが人々を照らしている。
それを見守るようにまんまるな月が微笑んだ。
~エルエルの魔法少女解説~
こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!
今日は元魔法少女であり、魔法省の設立者で大臣の佐倉智恵理について解説するエル!!
佐倉大臣は始まりの魔法少女と言われる「魔法少女チェリー」として戦っていた実績があるんだエル!
昔は魔法少女の待遇が今よりも悪くて、収入もなかったエル!戦いながら、それらの歪みのおかしさに気が付いた彼女は、とにかく知名度を上げてみんなの前で変身を解き、支持を集めたんだエル!
元々ストロベリースフレが出てくるまで最強の名を冠していたチェリーは、20歳まで待てない!と18歳のある日、今まで断っていたテレビ番組の出演を決めたんだエル。
彼女の魔法少女としての初めで最期のテレビ出演だったエル。
調べたらまとめサイトが複数出てくると思うエル!エルエルはまだ読んだことがないけれど、彼女の熱心なファンが今でもたくさんいるからこそなんだろうなって思うエル!
ショコラミントもいい子だから、もっとみんなに愛されてほしいなーって思うエル!!




