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壊れてしまった歯車

あれからどれだけたっただろうか。


ショコラミントはエルエルから最後の1瓶を受け取り、その中身を目の前の眠る少女の体に優しく振りかけた。


その輝きは少女の体を包み込むとより一層光り輝き、そのまま静寂とともに輝きは消え去った。


「・・・」


葉月はベッドの横で願うように手を組み、祈るように月明かりに視線を向けた。


「人間は生命活動に必要なエネルギー量が多いエルねぇ。」


エルエルの言葉に葉月は反応することなく鞄を手に取ると、そのまま部屋を出た。


サエはあれから無事に高校受験に受かり、高校の寮に移り住むと同時に留学試験に向けての勉強を始めた。

魔法少女を卒業していないため、自治体が全面的に勉強に協力をしてくれているため、サエは家庭から離れたことも相まって笑顔が増えてきていた。

テレビ電話でその様子を見た葉月は安どのため息をつくと、改めて、これからの自分の行く先を考え目を閉じた。


葉月は地元の中でも偏差値の低い私立高校に進学することになった。前の年まで女子校だったためか葉月の学年も女子が圧倒的に多く、男性が苦手な葉月はクラスに男子がいないことに安心して魔法少女業と両立して生活を続けていた。


自治体が葉月の活躍を考慮して、勉学と両立できるように支援を買って出てくれたおかげで、葉月は効率よく魔力残滓を集められるようになっていた。


高校はスポーツ強豪かつ、様々な資格を取得できるという特色のせいか、様々な人たちがクラスには集まっていた。

葉月はクラスメイトに話しかけられてもどう返したらいいのかわからず、ぎこちなく挨拶を返す毎日を送っていた。


「そう言えばさ、この市の魔法少女って二人だったのが一人になったんだって」


どこかから聞こえた噂話に、葉月は美栗と肩を震わせた。


「公式発表はないけど、ソルトちゃんが最近出てこないんだよね~」


「・・・っ、あ、あの、魔法少女ってさ、私たちと同じくらいの年なんでしょ?受験とか、何か忙しいだけで、いつか帰ってくるかもよ?」


葉月が思い切って会話に参加すると、クラスメイトは数秒沈黙した後に「それもそうか」「確かに!」と納得したように話をつづけた。


葉月はその一言だけで体力を使い切ってしまったかのように息を切らして下を向いた。


「民十さん」


黒髪を高い位置で二つに結んでいる、眠そうな表情のクラスメイトが葉月に話しかけた。


「あ、星名さん、どうしたの?」


クラスメイトの星名やよいは、葉月に封筒を渡す。


「クラス委員の仕事だから持ってきただけ。それにこれ、あなた宛てだけど市のマークついてるし」


封筒を指差しそれだけ言ってやよいは興味なさげに教室から出て行く。

封筒をよく見ると赤い文字で【機密事項】という判子が押されており、葉月は魔法少女に関することだとすぐに気が付いた。

葉月は慌ててその封筒をスクールバッグにしまうと、何事もなかったかのようにクラスメイトの噂話に再度耳を傾けながら机に体を預けた。


葉月は学校の寮に入ると親にウソをつき、自治体の宿泊施設で生活をすることになった。変身しても見られるリスクが少なく、雨風もしのげる。ワンルームのような作りのため自炊もできるのが葉月にとっては都合がよかった。

実績がそれなりにあったからか多少のわがままが通り、眠れる少女の部屋の隣で暮らすことができた葉月は、今までよりもストレスの少ない環境でのびのび羽を伸ばすことができるようになった。


自治体の研究施設では、あれからさらに開発が進み、魔法少女ではなくてもガーゴイルを一か所に集めたり弱体化させることができる装置が開発された。自治体はその装置を惜しみなくショコラミントのガーゴイル討伐に貸し出してくれている。


「終わりがわからないけど、きっと、きっともうすぐ・・・!」


ショコラミントは満タンになった小瓶を三つエルエルに渡すと、目の前にいるガーゴイルの群れに立ち向かっていった。





「新種はなし・・・と」


ショコラミントは討伐数をメモに残し、変身を解くことなく住処に向かう。


「最近またスライム型が増えてきたからな・・・」


ショコラミントの視線の先には形の崩れた透明なゼリー状の生き物が壁や地面にへばりつく形で存在している。

それを歩く速度を変えることなく糸で細かく崩し、中の心臓核を貫いていく。

最近は小瓶の遣い方にも慣れてきて、魔力残滓の回収もかなり簡単にできるようになったショコラミントは、その微量な魔力残滓すらも魔力の風を起こし、小瓶の中に納めていく。


「この瓶、使いまわしできたらもっといいんだけどな~」

「魔法道具はだいたいつかい切りエル!人間が作り出したものとはそもそも在り方が違うのだから、仕方がないんだエル・・・」


申し訳なさそうなエルエルの声に、ショコラミントは仕方ないといった風にエルエルの頭をなでると、目の前の人影に向かって戦闘の構えを向けた。


「何の用?」

「それはこちらのセリフ。ガーゴイルはあなたが一掃してしまったみたいなので何も言わないけれど、搾取されたままで甘んじているあなたたち魔法少女は救われなければならないの。それだけはわかってほしい」


デスサイズはそう言ってショコラミントの返事を待つことなく屋根の上に飛び乗り走り去ってしまった。



「・・・魔法少女はノラもじゃん」


ショコラミントの渾身のツッコミは誰に聞かれることもなく、夕暮れ時の空気に溶けて、消えていった。






「本当、魔法少女ってバカばっかり」


窓辺でほどいた黒髪を、櫛で溶かしながら、少女は制服を椅子に向かって投げるように脱ぎ捨てた。


彼女の過ごす部屋の内装はシンプルながらもいい素材を使用していることがわかる。いかにも裕福な暮らしをしているもののそれだ。


勉強机の上には、硬い文字で『今日も仕事で遅くなる。家族カードで何か買うなりして夕飯を食べていてくれ。俺の夕飯はいらない   父』と書かれたメモが置いてある。


少女は父親と二人暮らしらしく、大きな家には似つかわしくないほどの沈黙が寂しさを表している。



「おねぇちゃん、私が全部暴くから。どうせ地獄に落ちるなら、全部、全部暴露してやるんだから」



少女の決意に満ちた声が、月光の差し込む冷え切った部屋の中で静かに響いた。


机の上には真っ黒な鉱石でできたランタンのストラップが、あやしい光をたたえながら炎を燃やしている。それはまるで生き物のように、開かれた窓から入り込む冷たい風をものともせずに、力強くはかない光を放っていた。


「・・・犠牲なんて最小限の方がいいんだから・・・!」


都市部にしてはきれいすぎる星が、夜空を飾り立てている。

星の輝きに呼応するかのように、どこかの家で飼われているのか犬の遠吠えが聞こえてきた。


明日は晴れだが、きっと冷え込むだろう。

~エルエルの魔法少女解説~


こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!

今日は魔力残滓を集める小瓶について解説するエル!!

小瓶は正式名称が無い魔法アイテムで、妖精の職人が片手間で作るものだエル!他の魔法アイテムを作る過程で出たきらめきの繊維・・・ガラスみたいな素材を集めて固めて作るんだエル!

職人はそんなにたくさんいないのと、作る魔法アイテムによって出るあまり素材は量が変わるから、日によっては在庫が無いなんてこともあるんだエル。

でもこの小瓶は魔力に反応して風を起こすことで、魔力を含んだものを中に閉じ込める構造をしているんだエル!魔力残滓だけを集めるには、専用のフィルターも必要なんだエル。だから、それも別で買わなきゃいけないんだエル!

妖精の世界には通貨はないけれど、感情エネルギ―がその代わりみたいになっているんだエル!いわゆる物々交換ってやつだエル!!だからショコラミントの頑張り次第ではもっともーっとたくさん魔力残滓を集めることができる筈エル!

これからもエルエルもたくさん協力したいエル!

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