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動き始めたこころ

「なんで邪魔するの!!!」


ショコラミントは目の前の真っ黒な少女に強く言葉をぶつけた。


「またあなたなの?」

「所属がどこか知らないけど、あんまりやりすぎると地元に迷惑かけるよ」

「所属・・・?何のことだかわからないけれど、私の邪魔をしているのはあなたの方だよ」


黒い少女・・・魔法少女デスサイズは小首をかしげ、まるで童話の登場人物のような優雅な動きで言葉を返した。

まるでそれは本当に魔法少女の仕組みを知らないといった様子である。


「あなたも魔法少女なら、どこかの自治体に所属しているはずでしょう?妖精は?どこにいるの?」

「妖精って、あなたの周りを飛び回っている間抜けそうな毛玉のこと?」

「毛玉・・・まぁ、そうか。・・・じゃなくて魔法少女ならわかるはずだけどもしかして貴女、本当に野良の魔法少女ってこと?」


デスサイズは何も知らなそうな純粋な色をした眠そうな瞳を細め、面倒くさそうにあくびをした。


「この世界の歪みに気が付けないだなんて、可愛そうなひと」


デスサイズはそれだけ言うと、目の前まで迫っていた大型のガーゴイルに漆黒の槍を突き刺し、そのままどこかへ跳んで行ってしまった。

ショコラミントは形が崩れ塵となったガーゴイルから魔力残滓を慌てて回収すると、デスサイズの飛び出していった空を見つめる。

日が昇り始め、空が白く染まっていく。

まだ寒く、透き通った空気は白く光る空に染められてより一層寒さを際立たせる。


「~~っ、魔法で強化されてるとはいえさすがに寒いなぁ」


ショコラミントは人目のつかない場所を探し変身を解くと、分厚いコートの襟に顔を埋める。

魔法少女の給料の使い道がなかった葉月は、思い切って高い海外ブランドのコートを買うことにした。

余りにもお金を使わない葉月に飽きれたサエに無理やり交わされたお揃いのコートだ。


『お揃い、ね!今年は冷え込むらしいから、お互い健康に魔法少女やるためにもさ、もらった給料はちゃんと使わないと!!」


葉月の耳に幻聴が聞こえてくる。


サエは医者に相談して、入院しながら勉強をして、高校受験と留学に向けて対策をすることにした。

サエが家族の元に戻ったら、逃げる道がつぶれてしまうと葉月が判断して先回って伝えていたためか、サエの打診はいとも簡単に受け入れられた。

親の元には『他の被害者に比べて魔力汚染が著しく、体自体は回復しているが急な体調の変化が起こり得るため、研究のためにも入院期間を延長することになった。研究協力のための報酬も前払い出両親の口座に振り鋳込みをさせてもらう』と書状を送ることになった。


《魔法少女の心身の保護》、これは魔法少女を雇う自治体の義務である。

それが魔法少女保護法の第一の項目だ。


「サエは魔法少女向いてないって」


葉月はぼそりとつぶやくと、メッセージアプリを開き母親に近況報告を打ち込んだ。





ベッドに横たわる一人の少女に、輝く光の粒が降り注ぐ。


「まだ足りないのかぁ。基準がわからないのはかなりきついな」


葉月は少女の閉じられた瞳を見つめると、頬をそっとなでた。





出向く先々で、ショコラミントはデスサイズと顔をあわせつづけるせいでストレスがたまっていた。


「本当に何なの!なんで私のじゃまをするの!?」

「あなたのじゃまをしているわけではないよ。活動地域が重なっているだけ。私は目的があるの。邪魔しないでは私のセリフ」


デスサイズは黒く濡れた美しい唇から呆れたようなため息をこぼす。


(それにしても本当に真っ黒だよな・・・まるで黒曜石みたいな・・・あれ?)


ショコラミントはデスサイズの服を指差して問いかけた。


「ノラは魔法少女なんだよね?」

「同じにはしてほしくない」

「変身に使うマジカルジュエルは?普通は衣装の一部になるよね?」


ショコラミントは自分の衣装を飾る胸元のリボンに輝く宝石に触れる。

宝石からは手袋を介して魔力の渦のようなものを感じる。


デスサイズの胸元のリボンに視線をやると、錠前が鈍い輝きを放っている。


ショコラミントは改めて目の前のデスサイズの衣装を観察すれば、鎖につながれた真っ黒なランタンが腰に揺れ、その中で暗い紫の炎がハート型に燃えている。

ランタンの特徴にショコラミントはどこかで聞いたことがあるなと眉をひそめた。


「そのランタン・・・」


ショコラミントの問いかけにデスサイズは慌てた様子でにらみつけると、そのまま影に姿を隠し、消えてしまった。


「逃げた・・・」


影が消え去り、ショコラミントは呆然と影があった地面を見つめた。




ショコラミントは日が暮れオレンジ色に染まった空を見ながら、屋根の上で足をぶらぶらとゆらした。


「ねぇエルエル」

「なんだエル?」

「鍵の形かランタンの形の魔法アイテムってある?」

「羨みの灯のことエル?」

「それ、どんなアイテムなの?」

「魔法少女の適正が無い人間が変身するときに使う魔法アイテムエルね。真っ黒な黒曜石でできたランタンの形をしていて、とってもきれいなんだエル!でも、人間の魔法耐性を無理やり上げるために生命力を代わりとして使うエル。だから変身すればするほどその人間は寿命がどんどん短くなるエル!」


エルエルの言葉にショコラミントは絶句してエルエルを見る。


「それ、使い続けるとどうなるの?」

「老けたりしないエルよ?見た目は一切変わらなくていきなり動かなくなるから、だいたい急性心不全で片づけられるみたいだエル。

魔法アイテム自体はみーんな女王様が管理しているエルけど、羨みの灯は他のアイテムと違って意志が宿っているから数か月前に宝物庫から脱走してしまったエル。今はどこにあるエルかね~」


エルエルはまるっで他人事といった様子でのんびりと答える。

ショコラミントはさすがに怖くなり声を荒げた。


「ねぇ待って!!意思が宿ってるってことは選んで誰かの元に行くってこと!?」

「そうエルね・・・お勉強した本には『本当の意味で力を欲している、純真無垢な少女の元に現れる』って書いてたと思うエル!女王様の魔力の鎖でがんじがらめだったはずなのに、どうやって脱走したエルかねぇ、本当に不思議エル」

「マジか・・・」


ショコラミントは絶望したような様子のまま顔を手で覆うと、改めてエルエル➁質問をつづけた。


「ちなみにその『力』って・・・」

「それはそれは莫大な魔力ってことしかわからないエル。でも厄災レベルっては書いてあった気がするエル!!」


エルエルの自信に満ちた声にショコラミントは考えるのをやめたのか、地面に降りてから変身を解き、宿泊施設に向かってとぼとぼと歩き出した。



広場に設置された時計の針が、6時を伝える音を軽やかに奏でた。

~エルエルの魔法少女解説~

こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!

今日は葉月の家族について解説するエル!


葉月の家族はお父さん、お母さん、葉月の三人家族だエル!

お父さんはガソリンスタンドの店員、お母さんは幼稚園の先生をしているエル!

お父さんは思い込みが激しく、正義感が強い性格をしているエル。歯に衣着せぬ言葉を多用するせいで友達はあまり多くないみたいだエル!最近はSNSで同じ思想の仲間と音声通話をして楽しそうらしいけれど、いろんな話を共有したがるせいで、葉月はうんざりしているみたいだエル!

お母さんは心配性で過保護?という奴らしいエル!過干渉で友好関係にも口を出してくるのが葉月は嫌なんだそうエル!あまりにも過保護だから「箱入り超えて重箱娘」なんて葉月は笑って冗談を言っているエル。

お父さんは家族が楽しんでいるテレビ番組の内容に対して、「この芸能人は~」「実はこの歴史は間違いで~」なんて水を差す?ことが多いらしくて、葉月はもう一緒にテレビを見たくないと言っていたエル!日曜日の子供向けアニメすら、身ている横で考察しながら現代政治に絡めて話すから、何も面白くなくなるってよく葉月はブツブツ愚痴を言っているエルね。

しかも、いじめられて相談すると、「俺がいじめられたときは、足掛けを避けたりしていじめっ子が面白くないと思うようなことをし続ければいじめはなくなった」といった風に押しつけがましいアドバイスが返ってきたらしいエル。

お母さんは過保護すぎて、葉月が断っても何かあれば学校に迎えに来て、葉月に意見を聞かずに服や収納アイテムを買ってくることもあるらしいエル!葉月の中で決まっているレイアウトに合わなかったりすると「じゃあ自分で買って片づければいいでしょ」と不機嫌になるエル。

後はテストの点で赤点を免れたといえば「私は低くても平均点くらいはとってた」といい、あまり葉月のことを誉めないみたいエルねえ。

やっぱり自分の経験が正しいと押し付けるのはよくないエルねぇ。だって現に葉月の口から家族の楽しい思い出が出てこないエル。共感とか寄り添いって言うんだエルか?人間はただでさえ弱いんだから、心くらいは支えあってほしいエルね~。

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