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うつくしい二つの人形  作者: あさぎ
一章 人形は歩き出す
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4.枷が欲しい、と奴隷は言う

 


 しかし……仲間の誰もが喜んでいる中、私は困っていた。




 これから、どうしよう。


 これからどうしたらいいのか、全く分からないのだ。




 自分がどうしたいのかだって、知らない。


 好きなこと?ない。

 行きたいところ?それもない。

 やりたい事?そんなのない。


 何も思いつかない。




 こうして悩むのすら私にはひどく苦しいものだった。


 分からない。まるで霧の中にいるような感覚。

 何がしたいのか、何をすれば良いのか、分からない。


 分からない。苦しい。

 これからの道が見えない。どうすればいいかが見つからない。




 結局自分じゃ何も決められないのだ。

 誰かに絶対こうだと決めて欲しいのだ、私は。


 理不尽に詰められ、行動を決められたあの苦しい環境が自分は好きだったのだ。


 私だって他の皆と同じように、逃げ出したいほど苦しかった。

 だが、あれはあれで私にとってはある意味居心地が良かったのだ。




 かといって、今更そんな事に気づいたところで……これを知ったところで。


 私は……一体、どうすればいい?


 一方的に決めつけ、責めてくれるあの人はもうこの世にはいない。







 大勢いた仲間達は次々とぼーっと突っ立ったままの私の目の前を通り、意気揚々と屋敷を出て行く。


 ある人は街で店を開くとか言っていた。

 また、ある人は大陸横断の旅をするんだとか。

 腕っぷしの強さを生かして、国の兵士に志願するなんて言っている人もいた。


 皆、やりたい事があるのだろう。

 その表情はとてもキラキラしていて、私には眩しすぎるくらいだった。




 私とはまるで違う人種だ、と思いながらも……少しだけ羨ましくもあった。


 私だって……もしできるのなら、やりたい事に向かって毎日明るく生きてみたい。

 充実した日々を送ってみたい、そんな気持ちはまだ僅かにある。


 でも、私には目的がない。

 私は生きているけど、これは私の意思ではない。


 死んでないだけ。

 ただぼんやりと生きているだけ……


 ああ、やっぱり。私には無理だ。

 何度考えてもこうだ。

 いくら羨ましくても、私には無理な話なのだ。




 そんな事を考えていると、とうとう最後の奴隷が屋敷の門を出て行った。

 これで、私以外は全員どこかへ逃げて行った事になる。


 逃げていく人々を見ていて、私はただすごいなぁとだけ思った。


 でも、それだけだった。

 私はもうどこにも行く気はなかった。

 何かをする気もなかった。







 俯いてその場に座り込んでいると、ふと落ち着いた男の声が耳に入ってきた。


「君、行かないのかい?」


 低すぎず高すぎず、耳障りのいい音色。


「……っ!アラン様……!」


 逃げない私を不審に思ったのか、声をかけてくださったようだ。


 アラン様。

 それはこの屋敷の主人の一人息子、『アラン・ハートフォード』の事。


 手触り良さそうな淡い金色の髪に、川の清流のような澄んだ緑の目、整った目鼻立ちにすらっと高い身長。


 まるで王子様のようなその見た目は、世の女性達の理想像をそのまま具現化したかのようで……未だに婚約者がいないのが信じられないくらい。


 かと言ってそれを鼻にかけるわけでもなく……屋敷の人はもちろん、奴隷にすら優しい。

 誰にでも分け隔てなく接する好青年だ。




「どうしたんだい?」

「……」


 どう答えるべきか。

 私は言葉に詰まってしまった。


 そもそもこの先生きていく気がないという事を、この明朗快活な人間にどう説明すればいいのか。

 自分から死ぬなんておそらく微塵も考えた事がないような人種に、どう言えばいいのか。


「どこか、具合でも悪いのかい?」

「……」


 アラン様の瞳に私が映り込んだ。気持ち悪い、いつもの私の顔。

 見ていられなくなって、思わず視線を逸らす。


「どこか、具合でも悪いのかい?」


 俯き、無言でふるふると首を振った。


 アラン様はどうにかアイコンタクトを取ろうと俯く私の額に視線を向けていたが、私は彼の高級そうな革靴のつま先を見つめていた。


 闇を抱える私のような人間とは、まるで違いすぎる存在。

 そんなアラン様の視線は、私にとってただの苦痛でしかなかったのだ。


「……」

「……」


 待てど暮らせど何も答えない私。

 俯き続けて下がってきた自分の前髪の隙間からチラリと覗くと、アラン様が眉を下げて苦笑いを浮かべているのが見えた。


「う〜ん。となると……もしかして、私の事を心配してくれているのかい?」

「……」

「もしそうなら……その必要は全くない。安心してくれ」

「……」

「確かに、あの男は父親で私はその息子。血の繋がった家族だ。あんなでも、私の親なんだ……色々と思うところはある」


 顔が一瞬曇ったように見えて、つい顔を上げて彼の顔を凝視してしまった。

 いくら見たところで、うまい言葉なんてかけられないし慰める事だってできやしないのに。



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