実験棟の戦闘姫 2
みんなが出ていったことを確認して、デルタは、呼びかけた。
「ええと、もうこれで大丈夫なの?」
『ああ 安全を確保した 盗聴 盗撮されている可能性はない』
ふぅっと、息を吐くと、一気に疲れが来てベッドに座り込んだ。今までの、床に寝ているような固い感じじゃなくて、柔らかいマットレスの感触にデルタは驚いた。
「こんなにふわふわなベッドがあるんだ……」
孤児院でもフォルフォード家でも、ほとんど床に寝ているようなものだったから、デルタは驚きながら、その感触を噛みしめた。
『ほう お前の状態をきちんと考えているじゃないか。』
「ねえ、あなたは、なんていう精霊なの?」
『精霊?精霊と……?ああ そうか我のことか デルタ?』
明らかに困惑したメッセージが、瞳に表示される。何か気に障ることを言ったのかなと思った。
『まあ まだルーキーのお前には 我との交信経験がないのはわかるが 訓練プログラムは終了しているのだろう?』
訓練プログラムと、デルタは、内心首をかしげる。そんなのを受けていたのだろうか?
「ねえ、訓練プログラムって?」
『記憶の転送がうまくいかなかったのか?■■■■■■■12の訓練プログラム すくなくとも戦闘プログラムを終了しているのではないのか?……まあ 忘れている というのならば 仕方ない また履修してもらうだけだ」
デルタはよくわからないけど、特に反対することもないからいうように、うんと頷いた。
「ところで、精霊様は、なんて呼べばいいの?」
『確かに精霊という呼び方では 困る 全く 大きく記憶部分の転送ミスがあるではないか。本当に我のことを知らないのか』
デルタは、うんと、小さく頷いた。当然のことだが、精霊に知り合いなんていない。
『ふむ、我は汝のためにあるものだ。ゼクスマキナと呼ぶが良い』
「ゼクスマキナ?」
『汎用型戦局兵器群補佐電脳集合体だ 本来は 管制システムから お前の役目に関するすべての補佐を行うことを目的にしている』
その単語に出た言葉は、そうなんだという一言だけだった。そして、それ以上の感想は出ずに、デルタは、う~んとうなった。今日いろいろあり過ぎて、あたまが少しに煮えている様な感じがする。これ以上聞いても理解が追いつくだろうか?
そんな漠然としたどうしようもない気持ちがデルタの中から湧き出してきた。聞いた方がいい単語がたくさんあるような気もしている。でも、それに問いかけることもできずに、デルタはとりあえず話題を切り替えた。
「ねえ、ゼクスマキナでいいのかな?せっかく、貴女と契約できたのに、わたし本当に1か月で死んじゃうのかな」
『状況から見るに そう簡単にデルタをどうにかしようなどとは考えていないようだ
しかし 1か月の余裕 それだけあれば十分だ 我からデルタに渡したいものがある それを使えば 脱出も可能だろう
本当ならば 今すぐにでも預かっている伝言も伝えたい ただ 今の状況で伝えても仕方あるまい その時に伝言のことも教えることにしよう』
ゼクスマキナの言っていることはよくわからなかった。ただ、脱出という単語。その言葉に、デルタの中には頼りないながらも希望の光が生れたように感じた。その時に、部屋にノックの音が鳴った。
「実験体デルタ 19:00配膳だ。入室の許可を」
不意に、室内に声が響いた。意外に大きな声に、ノックから身構えていたとはいえ、デルタは驚いた。
「え、ええと?」
「おっと、初期設定になっていたな。すまない、意外と響いたな。すまなかったな。いるときには、ドアの前に来て、返事を返してくれ」
デルタは、少し驚いた状況から、起き出すとそのまま、ドアの前に立った。
「は、はい。実験体デルタ。います」
「よろしい。ドアのところに食事を置いてある。食べ終わったら、同じ場所に戻しておくんだ」
「は、はい!」
食器の置かれる音が少しの間響き、足音が遠ざかっていく。デルタはそっと、ドアを開ける。ドアの横に設置してあるシンプルなサイドテーブルには、おいしそうに湯気を上げている料理が置いてあった。
『ほう 栄養の整ったよい食事だ 実験体と言っていたが ずいぶん丁寧に扱っているのだな?』
「そうなの?よくわからないのだけど?」
デルタはそう言うと、机にトレーに乗った食事を持っていった。簡単なパン料理と柔らかく煮込んであるお肉と野菜。それと、玉ねぎのサラダ。付属してある、初めて見る柔らかい素材でできたスプーンで食べ始めた。
デルタは、ただ無心に食べていく。おいしかった。
「おいしい……おいしいよ。暖かい料理ってこんなに、おいしいんだ」
個人でも、フォルフォード家でも、食事と言ったら、冷めた食事がほとんどだった。フォルフォード家では、最期の方こそ、少し温めなおしたような料理が出てきたが、暖かい料理が自分のために用意されているなんていうことは、経験したこともなかった。
『きちんと食べた方がいい。デルタ』
「うん」
デルタは、最期に残していたリンゴに手を伸ばした。一口大にカットしてあるリンゴは、シャリシャリと歯触りの良い音を立てながら、喉の奥に滑り落ちていく。
あっという間に、食事が終わり、デルタは、そのトレーを、入り口ドアから外に出した。
それが終わると、もうやることはなくなった。デルタは、寝ようかなと思い、歯を磨くために、シャワー室に向う。
「これは、とても危険なことだ。……お前は、それがわかっていっているのか?」
「でも、だからこそ、必要なのですよね?不幸中の幸いで、私はこの中では、もっとも若くて……ひよっこです。だからこそ、この任務は私に一番向いているのです!」
「だが……」
顔は雨音が強く響く外に向けられていて全く見えない。そんな中、必死になって何かを訴えている声がある。
「リーダーお願いです!私を!」
「それ以上言わないで!!」
訴える声よりも強く、そして、悲壮な声が響いた。
「おねがい、それ以上言わないで。……わかったわ。でも、自分からそんなことを言わないで。お願いだから」
頬に熱いものが流れる様な気がした。
『おい、デルタ、デルタリーダー?大丈夫か?返事をしろ』
「う、うん……ゼクスマキナ?」
シャワーの水温が響く中、私は、腰かけから起き上がった。どうやら、シャワーの最中に寝てしまったらしい。
『まったく、頭を洗って体を洗ったところで睡眠に落ちてしまった。我の領域はまだ少ないからな。なかなか起こせなくてすまないな』
「ううん、わたしも、ちょっと、疲れていたのかも。ええと、こんなときってどういえばいいんだっけ?」
『我は デルタが無事ならばいい』
「そんなものなの?」
『そうだな だが もし言うならば
「ありがとう」だな』
デルタは、ありがとう、ありがとうと、つぶやいていたが、何かに納得したように、頷いた。
「ゼクスマキナ、起こしてくれてありがとう」
『ふむ 悪い気持ではないな』
ゼクスマキナって、変なの。と、思いながらデルタは、シャワーを浴びて、清潔な衣服に着替えて、ベッドに向かった。
マットレスに体を預けたら、一気に眠くなってしまう。そう思い、何かして気を紛らわそうとしたデルタだったが、ゼクスマキナの呼びかけにもすぐに応じられなくなるほど深い眠りに落ちていった。




