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戦闘姫 翔ぶ ~bottom of sky~ <本編完結>

 いつもならば、人が行き交いそして、賑やかな商人街。ただ、2日前に起きた大規模な事件。それは、この帝都は安全だという認識を変えてしまった。明らかに、昼から人通りが少なくなった大通りを、一人歩く姿があった。深く帽子を被り、その表情も、髪の色も見ることはできない。


「ここ」


 スゥっと息を吸いこみ、closeの看板のかかったドアに手をかけた。カギがかかっているらしく、そのドアが開くことはなかった。


「今日じゃなかったのかな?それとも……」


『どうする?アクティブソナーを使うか?』


 ゼクスマキナの言葉にそっと、首を振ると、デルタは、手元の紙に目を落した。紙に書かれたそれは、この店を表していた。

 ただ、今日は臨時休業。

 この店に入ることはできそうになかった。


「またチャンスが来るよね。ゼクスマキナ」


『そうかもしれないな  さてどうする?最近はアリアも忙しくなっているようだから』


 あの事件以来、アリアとライト帰ってきていない。多分任務とかなのだろう。ただ、聞き出そうとしても、それを口に出して話してくれることはないような気がしていた。


「私も、なにか役に立てればいいんだけど」


 あの後、極度の疲労とデルタとの再会で緊張が解けたのか、気を失ったメアリは、NAの協力の下、魔属領の病院に運ばれ集中治療室に入っている。少なくとも1週間以上は絶対安静と言われ、マリーはその付き添いを買って出ている。

 メアリとは、まだ、まともに話もできていない。でも、その時が遠くない未来に訪れることは確かだった。

 リリムやオルテガも忙しそうに飛び回っていて、デルタは、この2日間、家に一人でいた。ほとんど誰とも話もしていない。


 一人になるのは本当に久しぶりで、なんとなく満たされない感情だけが、心を占めた。

 

 だからとおもって、デルタはこの場所を訪れた。もしかして、何かが変わるのではないかそんな甘い期待を抱きながら。


「……帰ろうか。ゼクスマキナ」


 でも何も起きなかった。デルタは、カーテンの隙間から、しばらく、店の中を覗き見る。そこに動く影が見えるかもしれない。もしかしたら、気が付いた人が、店の中から開けてくれるかもしれない。そう思いながら待っていた。

 しかし、店の中に動く影も、何も見出すことはできなかった。


『そうだな』


 踵を返す。そのデルタの目には、大通りが映っている。ふうっとため息を一つつくと、地面に目を下とし、わずかな間、失意に目を閉じた。


 

 開いた視線の先に、ずいぶんと上げ底の白い靴が見えた。デルタは、驚き、そのまま、視線を上げていく。


「やあ、待ちわびたよ。」


「ええと、あの時の店員さん?えと、あの」


「ああ、これね。今日は貸し切りだったから、閉店にしていたんだ。まあ、その必要もなくなりそうだけど」


 貸し切り?その言葉に首をかしげるデルタに、店員は悪戯がばれたような笑みを浮かべた。


「全く、彼女は相変わらず抜けているね。善玉(ヒーロー)が、抜けているのは個性っていうものだけど、悪役(ヴィラン)が抜けているのは、ただの間抜けだって口を酸っぱくして言っているつもりなんだけどね」


「そうそう、全くなってないよね。でも、うちの元気当番が、朝からあんな感じだと、からかいがいもないし」


 後ろから声が聞こえ、デルタは驚き、振り返る。肩の位置に、顔があった。その顔がニコッと邪気のない笑みを浮かべる。思わず微笑み返したくなる。そんな人懐っこい笑み。


「さて、このまま帰ってもいいし、彼女に会ってもいいよ。どうする?」


 そう言うと、男の方は、懐からカギを取り出した。デルタは、そのカギを取ることを一瞬躊躇した。


『……どうする? デルタ  』


「答えなんて最初から決まっている。ふふっ」


 不意に見せたデルタの笑みに、2人は怪訝な表情を見せた。デルタは、そっと空を見上げる。


「最初から決まっていたことなのかもしれない」



 ゼクスマキナから戦闘姫になるかと言われたとき、始めての撃墜から拘束されたとき、アリアさんとライトさんの正体を知った時、初めて本格的な戦闘に入った時。選択はあるようでなかった。今も同じだとデルタは思った。よく考える。こんな風に求められた、選択なんてなかった。

 状況に流されることも、何かを人質に取られることも、何かに縋りつかないといけないことも、そして、何かを失いたくないから選べなかった選択。


「始めて、自分で選べる。そう、あの人に会わずに帰ることもできる。でも、それじゃ、今までと変わらない。……選ぶんだ、私の意志で」


 すっと手を伸ばすと鍵は確かな重さをもって男性の手から、デルタの手の中に落ちてきた。その重さに驚いた表情を見せたデルタに、男性が声をかけた。


「自己紹介まだだったね。コンスタンス。こっちはファインゼー」


 コンスタンスは、そっけなく自己紹介を終えると、従業員の出入り口にデルタを案内する。



 鍵を差し込むと、ドアが開くと思いきやドアノブがスライドして、文字盤が現れる。


「ええと、まあ、適当に押しておくか」


「適当! そそ、さすがセンセイ」


 コンスタンスが、キーを叩く音。ドアが開く。


 現れたのは、箱だった。乗り込むと、その箱にかすかな動力が加わったのを感じる。


『上っているな』


「そう言えば、ここの階段の数明らかに多かったよね」


「おお、ご明察だ。全く、うちは脳筋枠が多いのが問題でね。こんな頭脳枠の子がいたら、どんなに良かっただろうって」


「うちの頭脳枠、真っ黒なのが多いものね。まあ、センセイ含む」


 そんなやり取りをしている間に、目的の階層についたらしく、この間より高い場所で、目の前の景色が開く。そこには、テーブルが2つ。一つには、見知った顔が、驚きの中に、安堵を感じられる様子で座りながらこっちを見ていた。もう片方のテーブルには、もう一人の見知った顔。そして、他は、見知らぬ顔が3人並んでいた。

 間には、お茶を運ぶメイドが一人指示を待つように待っていた。


「あれ?チョウカンは?」


「無茶を言うなファインゼー。長官は忙しいんだ。今日は、お客様のもてなしもあるからな」


 テーブルに座っていた一人が手帳を下げて、ファインゼーに告げると、ファインゼーは、ちぇっと口をすぼめてその隣の席に着いた。


 

「え、ええと、」


 その様子を見ていたデルタの耳に、その見知った顔が立ち上がり、何とか声を出しているのが見えてきた。ただ、何といおうとしているのか、まだ、口の中をごもごもとしているだけで、きちんと言葉になっていないようだった。見かねた隣のテーブルの女性が立ちあがる。その黒髪は、日の下で見るととてもきれいで、一瞬デルタは見とれてしまった。


「全く、シャンとしなさい。あなたは、私たちの雇い主……リーダーでしょう。まったく、変身中はあれだけ大胆で、豪胆なのに」


「へ、変身中のことは仕方ないじゃない。でも、だ、だって。こんなに危ないことを彼女にお願いなんて」


 ちらっと、その顔がデルタを見つめた。デルタは、微笑むと、帽子を取りミーラの元に近づいた。ミーラは、その様子に驚いたような表情を浮かべる。


「私も、ミーラと一緒。変身中は、とてもおしゃべりだけど、いつもは、無口って感じにしているの。お揃いだね」


『そうか? イハーブは いつもやかましいのが さらにやかましくなるだけだと思う  って聞いていないか』


 デルタは、その手を差し出した。


「今回は私が選んでみる。ミーラ。あなたのことを……レディスパーダのことを教えて。貴女に助けられた分。私もあなたの力になりたいの」


『そうだな 最初から決まっていたことか』


 デルタの差し出した手に驚いた表情を浮かべていたミーラだったが、その表情が嬉しそうに微笑みを浮かべるとデルタの手を取った。


 控えめながら、拍手が沸き起こる。蒼い青い空がそれを祝福するように陽の光を届けていた。


 

 

 そう、デルタは、もう一人じゃない。


 ただ、デルタの選択したこと。そのことが、どんな未来を紡ぐのかは、それはまだ誰にもわからないことだった。

 


 

 そう、空の底で翔んでいた彼女は、広い空にはばたく。


 たとえ、それを成しているのが、呪われた借り物の翼だとしても、彼女は翔ぶことを選んだだろう。

戦闘姫 翔ぶ~bottom of sky~本編は、一旦ここで完結になります。

しばらくの間、世界観を埋めるための短編などの投稿をおこない、


次作 『怪獣令嬢は帝都の闇を走る』の執筆を始めたいと思っています。



最後になりますが、拙作をお読みいただきありがとうございました。

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