戦闘姫 戦う
デルタが、放った第一射を男は慌てた様子で裂けていく。
『先ほど手の内を見せたのがまずかったか?』
ゼクスマキナの言葉に反応せずに、デルタは、その近辺に銃弾を叩きこむ。
「対象が、レーダーに反応しない」
『対象から妨害波動を確認 どうやらロックオンなどを避ける様に動くことには特化している模様』
「それは、あまりこっちとしては、うれしなくない機能ね。追いかけて目視で捕えれ……」
高度を取ろうとした時だった。不意に左足に異常が発生した。
「嘘」
眼下を見下ろすと、一度レディスパーダを吹き飛ばし、デルタの左足に、ワイヤーをがっしりと食い込ませているディ・フルの姿があった。一瞬のスキを突いたとはいえ、それに気が付くことができなかった、その事にデルタは驚きを隠すことができなかった。
『反応速度は こちらの予想以上か』
「感心している場合じゃないよ」
ブンと、振り回されそのまま、地面にたたきつけられそうになる。だが、その先に割り込んだ影があった。
「レディスパーダ!」
その体に抱きかかえられると、そのまま、地面にたたきつけられる。でも、衝撃は、それほどじゃなかった。大半の衝撃をおそらく、レディスパーダが吸収してくれたのだろう。
「なんで、何であったばかりの私に……」
「後悔したくない。たとえ負けることになったとしても、あなたを護れたら、勝ち。この戦いに悔いなんて残したくないから」
確かに、声が聞こえた。その巨躯に似合わないかわいらしい声だった。
「あなただったんだ。ううん。だったら、」
レディスパーダが、足に巻き付いているワイヤーを握りしめる。不意にそれが、回転を始める。
「つたたっ……。相変わらず、往生際が悪い」
手がずたずたになっているのに、さしてダメージを受けている様子もなく、レディスパーダがぐっと力を込めると、そのわずかな瞬間。射線が開いた。
「ちょっとこのまま!」
デルタが両手を突き出す。
火線が、少しの間ディ・フルに注がれた。
「止めさすよ」
すぅっと、レディースパーダが、息を吸うのと感じると、
『な 世界干渉……この数値は……』
ゼクスマキナの言葉を無視するように、デルタは、視線をディフルから外さずにいた。
業っ
レディスパーダの口から、火球が放たれる。それは、とても音に形容することができないような衝撃で、一瞬にしてディフルを溶かしていく。そこ最後の一瞬、何かがその残骸から飛び去るのをデルタは見た。
それは、あの時の騎士服を着た男性だった。
「あ、逃げる!」
「いいの。戦闘姫。いいんだ」
デルタは、訝し気にレディスパーダを見上げたが、その様子から、何の反応も見出すことはできなかった。しばし、それを見送った後、戦闘姫は、そっと地面に降ろされる。
あたりの戦闘もあらかた完了し、あたりは、だいぶ落ち着きを取り戻しつつあった。そんな中、一人近づいてくる。
ファントム1だ。
「全く、お前は、いつもタイミングを見計らったかのようにちょうどのタイミングで出てくるな。もう少し早くこようとは思わなかったのか?」
「それは、悪いわ。今度は、もう少し遅れて登場することにする」
その言葉に、ファントム1は肩をすくめる。もちろん冗談で言ったつもりなのだろう。
「じゃあ、戦闘姫……また会いましょう。明後日、あの場所で」
デルタは、レディスパーダからの提案に驚いたような表情を浮かべた後で、うんと頷いた。それを確認したレディスパーダは、大きく飛び上がるとそのまま、その場所から撤退する。
「ええと、この状況って」
「ああ、いつものことだ。見た目に寄らず、彼女はシャイなんだよ」
「シャイ?ええと……」
『内気っていう意味か そうも見えないが』
ふぅっと、ファントム1は息を吐く。
「ファントム1、こっちに来てもらえますか?」
「ああ、了解した。次の任務か?――全く、懲罰大隊は暇がなくて助かる。じゃあな。戦闘姫。死ぬんじゃないぞ」
「ええと、ファントム1聞こえていますか?」
「ああ、聞こえている。彼女にもな。少しだけ黙っていてくれ。ああ、すぐに向かう。少し待っていてくれ」
通信から聞こえた声が途切れると、ファントム1は背を向けた。
『さばさばした奴だな』
ゼクスマキナの言葉がまるで聞こえているかのように、ファントム1は、右手を肩の位置にまで上げると、後ろ手にそっと手を振った。
「幸運を祈る。淑女の剣」
最後にそれだけを告げると、足早に立ち去っていく。デルタは、うんと頷く。通信が復活したのか、通信機からは、懐かしい声が聞こえてきていた。デルタは、その声に、無事だよと応えながら、移動しようとしていた。
「待って」
その騒がしい場所で、小さな声が、デルタの足を止めさせた。デルタは、蒼い視界の中で振り返る。そこに立っていたのは、2人の女性。一人は、弱々しく支えられて立っている。もう一人は、しっかりとした眼差しでこちらを見ている。
『デルタ どうする』
デルタは、ぐっと手を握りそして開いた。
「デルタリーダー……帰還します」
一瞬で白銀の銃がほどけて、デルタは地面に降り立つ。そして、目を開けて、しっかりと見た。
その姿は、思い出の中にあるどれとも違って見えた。小さくて、そして弱々しく感じる。ただ、それでも、こちらを見ているそれは、間違いのないことだった。
「デルタ……生きてまた会えたね」
「メアリ……義姉様、マリー」
「デルタ久しぶりね」
デルタの中で、言いたいことがまるで嵐のようにぐるぐると渦巻く。でも、それでも、ただ出たのはたった一言だった。
「ええ、イハーブ・デルタ12。ここに帰ってきました。ただいまです」




