戦闘姫 脱出する 3
「あいつは、ディ・フルか!」
「ディ・フル?」
ファントム1の焦った声に、デルタは不思議そうに問い返した。聞こえていたかと言いたげにデルタに視線を向けたファントム1だったが、不意に腰から拳銃を取り出すと、デルタに向けた。
「な、なにを」
「動くな」
パン
軽い銃声が響く。何かが倒れる音。デルタが、その銃口の先を見ると、手には祭具のような物を持った人が眉間から血のような物を噴き出していた。だが、まだ倒れる気配はない。
「獣憑きか。まったく、頭撃っているんだから倒れてくれないか?戦闘姫、伏せろ!」
「は、はい!!」
デルタはメアリをかばう様に、地に伏せる。頭上を弾丸の雨が通り過ぎるをの感じる。その先を見つめる。敵の数こそわずか5体ほどだが、どれだけタフなのか、銃弾を食らっても倒れる様なそぶりを見せるものはいなかった。
わずかに、ファントム1の舌打ちが聞こえる。
『対象はどうやら 通常の生命体と違うらしい だが よく似たものは見ているな』
不意にゼクスマキナが言葉を発した。デルタは、それに驚いたような表情を見せたものの、その意味を理解したように、頷いた。
「ああ、そう言うことか。だから、頭に風穴が空いても……
あれと一緒なんだ!ファントム1、対象に対して、こちらに有効な武装がある。聖女をお願い。立つよ」
再び視線を向け、デルタは、確信したようにファントム1に通信で告げる。ファントム1は、驚いたように声を上げた。
「交代?何か、手があるのか?」
「ある。メアリをお願い。行くよ!」
ファントム1の銃声が止むのと、デルタが立ち上がるのはほぼ同時だった。
『攻撃準備完了 敵対象から干渉波を確認 対象のスキャニング完了 敵対象の構成物質判明 やはり 擬態を施していたか』
「やっぱり。だとしたら!ゼクスマキナ。白銀の銃。限定装備。 世界干渉レベル2 」
『躊躇はいらないぞ イハーブ 相手は人間の形こそしているが、操り人形のようなものだ 』
デルタが頷く。その両手両足はいつの間にか銀の手甲に覆われていて、その手には朱い回転式の銃器が握られていた。それが、物騒な音を立てながら回転を始める。
「機銃起動。薙ぎ払う」
『了解だ 何処にでも当てていいぞ デルタの性能ならば 相手の世界干渉を断つことなどたやすいことだ』
デルタは頷くと機銃を相手に向ける。先程の弾丸に対したダメージも受けていないのか、相手の動きはこちらを煽るように緩慢だった。銃弾の嵐が過ぎ去る。あれほどの銃弾に耐えていたとは思えないほどに一瞬でボロボロになったそれは、信じられないと言ったように2~3歩動くと、そのまま、前に倒れ込んだ。
「1つ!」
デルタの攻撃は止まらず、次の対象に向かう。同時に2体を薙ぎ払った。そこで、相手は気が付いたのだろう。これは厄介な敵だと。1体が、デルタの視界に回ろうとした。その動きにファントム1が合わせた。
「なるほどね。対象がそう言うことならば、わかりやすい。まあ、切り札切らないといけないのは、何とももったいないが」
ファントム1のライフルから、打ち出された銃弾を、そいつは胴体に受ける。そのまま、つんのめったように倒れ込むと動かなくなる。
「ファントム1」
「ああ、理解した。こちらにも、対応できる攻撃手段はある。こっちは何とか片付いたな。さて、戦闘姫。」
デルタが最期の1体に風穴を開けて、うんと頷く。そのまま、デルタは、異形異種格闘技戦の方に目を向けた。巨体同士がぶつかり合うその戦場。その先に見えるはずの相手は、デルタの位置からは見えないのか、姿を見出すことはできなかった。
「ちっ、にげたか?どうか?」
「ううん、いると思う。ただ、この状況だとどこにいるかわからないけど……」
デルタは、様々な特殊視覚を試してみるが、対象を見出すことはできずにいた。ただ、そのメインイベントは、激しさを増しているようで、なぎ倒された木々がデルタの方に飛んでくることも増えている。ファントム1は、それを回避しながら腕時計を見た。そう言えば、ここに誘い込まれてから、ずいぶんと時間が経過したような気がするが、未だに援軍が到達する気配はない。
「ちぃ、まだ手こずっているのか?通信機の調子も悪い。状況は最悪だな」
デルタは、そっと、アクティブソナーを使用するが、雑音とノイズ交じりで、ろくな情報を拾うこともできない状況だった。
『デルタ このような場所では アクティブソナーはあまり役に立たない すまないな』
「ううん、大丈夫。この状況下だけど、なんだか懐かしい声が聞こえてきているから」
次の瞬間だった。風が吹いた。重く冷たく、そして、全てを薙ぎ払う風。それは、死を告げる凶鳥のさえずりにも似た悲鳴を上げる。
不意に声が止む。外を守っていたのであろう人形たちが、上空から叩き落されて、物言わぬ残骸になり果てる。
その風の元から、一人の女性が姿を現した。その服こそ、いつものメイド服ではなかった。いつもはつけていない、ヘルメットを被っていたし、NAの技術だと思われるボディアーマーを身に纏っていた。でも、その顔は忘れることなどできるはずもなかった。
「遅くなりました」
「本当に遅い。何があった」
「想定外の抵抗にあいましたが、対抗戦力が充実していたのが、功を奏しました。部隊も無事です」
「安心しろ、お前の荷物は無事だ。あと、」
通信でファントム1と女性……マリーが言葉を交わしている。ファントム1の視線が、こちらを向くのを感じたが、デルタは、あえて見ないふりをした。ただ、マリーを頼みますとだけ言うと、ドレスを完全に着用する。
『白銀の銃 フルコンタクト 搭乗を許可』
ゼクスマキナの言葉に、デルタの全身が銀のドレスに包まれる。
「ゼクスマキナ。行くよ。これから、デルタ12は、対象の排除並びにレディスパーダの火力援護のため、戦闘形態に移行する。本機に援護は不要」
それだけ言うと、デルタは上空に飛び上がった。
その視線の先にいたのは、その時、帝都で出会ったあの男だった。男が驚いたような表情を浮かべる。デルタは、その様子を視界に捉えながら、引き金を引き絞った。




