戦闘姫 脱出する 2
階段の下にグレネードが投げ込まれる。それが、光と音を放つのが戦闘の始まりだった。目と耳を焼かれた者たちは、そのまま、鉄の雨に打たれて物言わぬ死体に変わっていく。
「あまり見ない方がいい」
「ええ、でも、これだけのことをしてもらっているのですから、知らないと言い切ることもできないのです」
ファントム1は、そのデルタの言葉に、感心したように、ふんと、笑う。そのまま、流れるように、扉から飛び出してきた相手の下腹に銃弾を叩きこむ。衝撃と痛みで、膝立ちになった相手に無造作に近づくと、首元に、ナイフを深々と突き刺した。
「覚えておけ。相手を無力化しようとするのならば、きちんと戦闘力はそぎ落としておくべきだ。このようにな」
「覚えておきます」
デルタは、さっきの失敗が、頭からむくりと起き上がるのをそっと咎めた。
「廊下 クリア」
「ルームクリア」
次々とファントム1に報告が上がる。
「ファントム1,クリアって何ですか?」
一瞬その言葉に、驚いたような表情を浮かべたファントム1だったが、報告は本当だったのかと、つぶやくように言葉を漏らした。
「クリアとは、その場所に敵がいないということを表す言葉だ。しかし、通信を聞き取る能力があるとは聞いていたが、これほどだとはな」
『ふふ 褒めてもよいぞ』
「全く、ゼクスマキナが調子に乗るから、通話できるだけ切ってたのに。――確かに私には、そのような能力があります。」
「……。では、戦闘姫。フロアのクリアリングが完了したら、当初の脱出経路から脱出することにしよう。正面は、大規模な戦闘が行われている。」
デルタが、頷いたのを確認するように、ファントム1は覗き込む。
「行けるか?」
デルタに首を横に振るという選択肢などあろうはずもなかった。
フロアのクリアリングと脱出フロアへの侵入防止策は、そう時間をかけずに完了した。
「脱出後、追手をけん制するために、ブービートラップを仕掛ける。」
押戸を開け、最後の一人が、ワイヤーと金棒でノブを固定する。それが、完了したの同時に、3つのお弁当のような形のものが地面に敷設された。
『デルタ あれは地雷だ おそらく 対人用のものだろう 彼らは戦いなれているのだな』
「さて、近づくとあれは、爆発する。警戒を解かずに前進する。そう言えば、君のことを待っている人がいる。」
ファントム1の言葉に、デルタは、アリアのことを思い浮かべて、うれしくなって頷いた。不意打ちと屋敷内部をからの攻撃を警戒しながら、ゆっくりと進む。屋敷の中の状況は、過酷を極めているようで、怒号や悲鳴があちこちから聞こえていた。そこから、すこしでも、離れようとした時だった。
「やれやれ、哨戒任務に出ていたら、……こんなところで再会するとはな」
森の中から、はっきりとした声が響いた。それと同時に、一人の男性が姿を現す。デルタは、その姿に見覚えがあった。あの生誕祭で、話しかけてきた人だ。その人は、銃口を向けられながらも、全く動じていない。
「ふぅ、俺も、相変わらず見る目がないね。逃げろって言ったのが、……まさか、そっち側の人間だったなんてな」
臨戦態勢のまま、男は、すっと肩をすくめた。ファントム1が、合図をする。あえて撃つなの命令。それでも、5人いれば、撃つやつもいる。
発砲音。それに対して、あいては、ただ、右手を出しただけだった。
ガン!カーン!!
右手のバングルに銃弾が吸い込まれ、弾かれる。あわてて、次弾装填。その一瞬を見逃すそいつではなかった。
「くっ!!」
声の感じから女性兵士。デルタが、聞き取れた情報は、それだけだった。瞬時に詰められて、蹴り飛ばされる。ダメージは大きそうだが、手加減されているのは十分にわかる。その女性兵士は、地に伏し動かなくなる。その首に足がかけられる。
「さて、まずは一人。たやすいものだな」
そんななか、メアリを背負っていた兵士がデルタに近づく。
「この人を頼む。」
「えっと、この場合は」
『何も言わずに見送るのが正解だな デルタ』
それでも、デルタは頷いた。そのまま、その兵士は、相手に向かっていく。たとえ勝てないとしても、挑むだけの意味はあるのだろうと思う。デルタは、そっと、メアリを見た。呼吸は、正常で、ダメージを負っているようには見えない。
「ファントム1……移動します」
「了解した。」
デルタは、その背に、背負う重さを胸に仕舞いながら戦場を後にしようとする。後ろでは、金属が歪むような音と、お互いの怒号こそが、全ての世界を表す表現であった。
少し走る。息を切らしながら、デルタは、それでも走っていた。時折、こちらを狙っているのか、散発的に行われる攻撃と声。
それを避けるように移動する。ただ、それが、陽動と誘導を兼ねていると悟ったときには……
「ファントム1ここは?」
「どうやら嵌められたらしい。……各部通信不能か。ますますだな」
そこは、広場だった。木を切り倒し急造で作られた決戦場。入ってきた場所が、倒木で塞がれると、ますます、その様相は強くなった。
「ふっふっふ。久しぶりといったところですか。戦闘姫」
耳障りな声が、デルタの耳朶を打った。
「ええ、知らないけど、久しぶりらしいわね」
『そうだな 具体的には1日ぶり3回目といったところだ』
デルタは、ファントム1が手を出して止めるのを、あえて無視した。この場に姿を見せずに、嘲笑っているそのものを見定める。隠れているつもりだとしても、デルタの眼からすれば、丸見え。ただ、あえて視線を逸らし、見ないふりをする。
大仰な声で煽るように、嘯くが、それは、デルタの耳朶を捕えることはなかった。
「ファントム1。11時48分の方向。白い胸章が目印」
「ご丁寧に自分の心臓を示しているか。了解した。時が来たら仕留めて見せる」
「ええ、お願い。多分、相手の目的は私だから。何とかしのいで見せる。その時までは、メアリもお願い。」
デルタはそれだけ言うと、すっと立ち上がって、相手に向き直った。
ほとんど聞いていなかったが、その視線の先には、見慣れた、そして見たこともない敵の姿があった。ただ、その像は歪んでいる。
獣だ。極小のサイズのものだろう。ただ、簡単に勝てるという見込みはない。
ぐっと、両手を握りしめる。
『デルタわかっていると思うが』
「うん。わかってる。戦闘姫としての武装は使用しないよ。できうる限りは、自分の力だけでやってみる」
小さく、それでありながら、力強く発せられたデルタの言葉。それに対してゼクスマキナは、肯定するように、わずかな沈黙を返した。
『だが もし危険だと判断したら』
「うん、その時はよろしくね」
戦闘姫としての武装は使いたくないが、その時が来てしまったのならば、その時だろう。デルタはそう思うと、仕込んであったナイフと取り出した。
視線を向けると、メアリをかばいながら、準備をしているファントム1に視線が合った。お互いに頷きあう。
「さて、ラウンド1……ファ――」
そのラウンド1は永遠に始まらなかった。乱入者が2人この闘技場に押し寄せてきたからだ。その2人とも異形。デルタは、おもわず、飛びのいてメアリを守るように覆いかぶさった。
ファントム1は、けん制しつつ、壁際にデルタを誘導。巻き込まれた極小の獣が宙を舞う中、
急造の闘技場で、異形異種格闘戦が開幕した。




