戦闘姫 再会する
感覚が戻ってくる。エンジンのから発生したエネルギーが各部分の接続部で自らの活力に転換される。それがデルタの全身にいきわたるのに、時間にして数秒もかかっただろうか?
「うっ、……ゼクスマキナ。現在のレポートをお願い。」
『了解した 現状のデルタの状況をレポートする』
一気に全身をエネルギーが駆け巡った衝撃で、一瞬不快な表情を浮かべたデルタだったが、すぐに気を取り直すとゼクスマキナに、現状の報告を依頼する。すぐに、デルタの状況が、ゼクスマキナを通じて、提供される。目隠し。制圧済みだが、装いだけは強くつけられた手錠、足枷。どうやら、あまり拘束自体は考えていないらしくその効果を確認した形跡はない。
「把握したわ。とりあえず、手錠から外しましょうか」
『了解した 』
「その前に、アクティブソナー使っておこう。状況の把握もしたいし。」
ゼクスマキナの了解を得て、デルタは、そっと床に接続部を当てる。そこから、エンジンの波動を利用し、微細な振動を発生させる。それは、ゆっくりと床を通じて屋敷の中に広がっていき、その状況を丸裸にしてく。
『とりあえず、情報の分析と今の情報を使用したリ・デザイニング視覚の編集を行っておこう』
「うん、わかった。じゃあ、私は、拘束を解いておくことにするよ」
デルタの視界が切り替わり、全体が白一色になり、そこにあるものは、すべてワイヤーで作られたような見た目に変わる。
「光度を気にしなくていいから使い勝手はいいんだけど、味気ないんだよね。これ」
そう言いながらも、デルタは一つ一つ戒めをほどいていく。その中には、武器に仕えるものもあり、ほくほくとした様子で、それを物質昇華して取り込んでいく。
「最後はこれッと……ごめん、ゼクスマキナ……」
『どうした?』
目隠しを外す。それは、この部屋に閉じ込められているであろう、聖女を見ることになる。それが、メアリなら……もしもメアリであったのなら……どうすればいいのだろうか?そう、デルタは思考した。でも、もう、わかっていたはず。自らの目隠しを外したとしても、聖女の目隠しはそのままで……そのままで、
きっと自分の顔くらいは隠せる。
「怖いよ。とても怖い……待って」
『どうした?デルタ』
り・デザイニングされた視界では、ただ、ゼクスマキナだけが、真実だった。深呼吸。1回、2回……3回半。
「ゼクスマキナ。視界変更。通常視界に……」
『了解した。通常視界に変更する……深暗度補正はかけるか?』
「それだけ、お願い。すぅ~……はぁ」
大きく息を吸った。そして、自らの眼を覆う、目隠しに手をかける。
「リアクターで干渉。うん、制圧完了。……自分の手でほどけそう……ゼクスマキナ」
『どうした?イハーブ 新緑の籠を使うか?』
その言葉にデルタはただ、首を振った。
「できるって、信じたいの。ごめん……」
『デルタ お前がそれを向けることができないことを 我は、信じている。 大丈夫だ デルタ やってみろ 」
デルタは、その言葉に、驚きながらも頷く。そのまま、自らの視界を奪うものに、手をかける。時間にして数秒。それは、ただの布切れと化し、デルタの両指に乗っていた。信じられないほどあっけなく、そして、信じられないほどただ、素直に。
そう縛めは解かれた。あっけないほど簡単に。ただ、それを見ていたデルタは、泣きそうな表情を浮かべていた。
『どうした デルタ』
「ううん。ゼクスマキナ。私って本当は、自由だったんだなって……そう思って」
デルタは考えていた。もし、この力を知っていたのなら、あの部屋から一人で出ることができたのかもしれない。誰にも拘束されなかったのかもしれない。
「……わたしの3年間は一体何だったんだろうって思って」
『だが 良いこともあった 我は 今のデルタ イハーブに会えてうれしく感じる』
ゼクスマキナの言葉に、デルタは、驚いたように顔を上げた。昏い部屋の中、白い服だけがはっきりと浮かんでいる。
『使命を与えられたのが デルタだと驚いたが お前の3年間は無駄ではない 我はそう信じている』
白い服の主は、長い髪の女性。それは、半年前に思い出のある、あの髪色によく似ていた。
「うん。でも、これから。これから、3年間の真実を聞きに行こう。どんなに怖くても、逃げないってもう決めたから。」
『そうだな さて 心の準備は大丈夫そうだな いよいよ本番だ』
向かい合う。
「ひどい」
聖女の顔には、青あざがあった。また、拘束も強くされている。デルタは、その拘束具の一部によく似たものを知っていた。魔力を外部に強制排出させるあの拘束具だ。そっと、手を取る。冷たく、反応がうすい。
『だいぶ衰弱が進んでいる ……デルタ』
「うん、わかってる。」
音もなく、デルタの両腕に緑色のグローブが現れる。
『世界干渉2 物質昇華開始 対象固定』
手の中で、拘束具がさらさらと砂になって消えていく。それを繰り返す。聖女は身動きを取ることも反応することもない。ただ、それを受け入れているようだった。
ちょっとした砂場が、聖女の足元にできたときには、聖女を縛る縛めは、目隠しだけになっていた。
「あなたは」
「……助けてもらってありがとうございます……」
デルタの耳朶を、懐かしい声が打った。確かに少し枯れているがメアリの声だった。
「……銀翼の聖女。メアリ様ですか?」
自分で言うのも、少し変だなと思いながらも、デルタは、メアリに問いかけた。メアリが、かすかに頷く。
「私は、そう呼ばれていますね。……本当は聖女なんかじゃないのに。」
「……聖女じゃない?メアリ様が?」
『ずいぶんと訳アリのようだな』
デルタが困惑していることを読んだのか、メアリは、俯き加減に顔を伏せる。
「聖女の救出を依頼された、魔属領の方でしょうか?私は聖女ではありません。本当の聖女は、お母様です。せっかく助けに来てもらったのですが、私では何の助けもできません。聖女としての力も、お母様……メルファ・フォルフォードに与えられたものです。
私よりも、お母様の救出を急いでください。
あと、差し出がましいですが、この部屋には、もう一人囚われている子がいるはずです。その子には何の罪もありません。助けてください。
私のことは、放っておいてください。
これは、罰なのですから。自分の無能が故に、皆を見殺しにした……わたしへの罰なのですから」
『ずいぶんと様子が違うようだが この個体の生命パターンを確認した結果 99.7%の確率で イハーブの姉 メアリ・フォルフォードであると断定できる』
そんなことを言われなくても、デルタにはわかっていた。だから、聞かないといけなかった。
「聖女様の罪って、何なのですか?」
その声に、びくっとメアリは体を震わせる。そして、デルタの方へと、視線を向けた。
「あなたの声は、私の妹によく似ています……あなたになら話せそうです。
私の罪を……聞いてもらえませんか?」




