戦闘姫に新しい日常を 4
「ええと、あなたは、」
「ええと、あなたは。どちら様ですか?」
デルタの目の前には、おそらく同年代だと思われる女性がいた。デルタのワンピースに対して、女性は、ディドレスを身に纏っていた。
「ええと、待ち人が来たって聞いたから、来たんですけど?」
「ええと、誰も待っていないですし……あ……」
思わず突っ込みを入れたデルタは、そう言う不意に思い出した。ついさっきの店員の言葉。
「今日、最終組の3階バルコニーへの案内でございます」
「そういうことか」
『ああ そう言うことか で デルタどうする?』
そっとデルタが、その様子を伺うと、その女性は、困ったような表情を見せていた。う~んとほんのわずかに、少し悩んだデルタは、この場を譲ることにした。
「あの?待ち人がいらっしゃったんですよね。それは……」
「……多分帰ってしまったかも。あはは、こんな時に少し間が悪いってよく私言われるのよね。少し残念だったわ。でも、仕方ないし……ここからの風景を一緒に見たいって私が思っていただけだったから。とはいっても抽選だったから、お互いに恨みっこ無しって約束だったから。
あなたが、許してくれるのなら、もう少しだけ、景色見ていてもいい?」
デルタは、そう言われて、敵意のない感じに、ふっと微笑んだ。
「ゼクスマキナ」
『ああ 特にこちらは構わない 監視だけは残しておく 少し引っ込んでいよう 用ができたらすぐに呼んでくれ』
その言葉を最後に、ゼクスマキナの反応が消えたことを感じたデルタは、改めて、招かれざる客に向かい合った。
「ええと、もしよろしければ、一緒にお茶をしませんか?せっかくこんな風に会えたのですから。こんな切欠は、有意義に使いたいですし。もちろん、あなたがよければですけど。」
「ええと、本当に良いの?……じゃあ、遠慮なくそうさせてもらいます。……A meeting by chance is preordained.っていいますしね。」
「A meeting by chance is preordained?初めて聞く言葉ですけど、どこの言葉です?」
「あ、ええと、大倭の言葉……です。ええと、私の家、大倭と少しですけど交易とかがあって、わたしも、言葉を、学んでいるんで……」
一瞬にして、仮面の剥げ落ちた女性が顔色をあかくしたり、青くしたりしながら、あわあわと説明している様子を見ながら、デルタは、女性がなにか隠しているとは、おもったが、
「ああ、大倭の言葉だったんですね。実は、私も大倭と関係が少しあって、いま、勉強していたところなのです」
そう言ってデルタは、微笑む。相手も、それを見て安心してくれたようだった。
「おまたせいたしました。」
それを待っていたかのように、ティーセットが、運び込まれてきた。
デルタは、女性に着席を促すと、女性はうなづいて、デルタの対面の椅子にかけた。
手際よく、紅茶が用意され、デルタの前に、ストレートティ。女性の前にはミルクティーが、置かれる。その手際の良さに、デルタがみとれているあいだに、すべての準備が終わっていた。
「では、何かありましたら、およびください。」
メイドは、そういうと、ワゴンを押して出て行く。
「ええと、自己紹介が、まだだった。……私は、ミーラ。」
「私は、イハーブと言います。よろしくお願いします。ミーラさん。」
「……イハーブさんですね。こちらこそよろしくお願いします。」
自己紹介に緊張した空気が流れた。先に口を開いたのは、ミーラだった。
「イハーブさんは、ここは初めてですか?だとしたら、メニューを見たときに、とても驚いたのではない?」
「ええ、驚きました。」
再び、デルタは、メニューを開いた。そこにはただ、『As you like』(お気に召すままにどうぞ)とだけ書かれていて、他には何も書いていなかった。デルタは、決して、多くの店に行ったわけではない。ただ、アリアからは、メニューに何も書いていない店は、ぼったくりか、高級店しかないと聞いていた。
「これって、驚くよね。私もここに来たのは2回目だけど、最初はとても驚いたのよ。」
「こんな景色を2回も見れるなんて、ミーラさんは、幸運ですね。」
「ええ、とても、幸運なのかもしれないわね。私も、あなたも」
ミーラは、デルタの視線の先を辿る。先には、大聖堂が見える。
「もしかして、イハーブは、生誕祭を見に来たの?」
「……そうです。聖女のパレードに友人が参加するって聞いていたので。」
あの認定式から6か月の時を経て、帝国でも、ようやくメリアが正式に教国の聖女候補者として認定がされることになった。その日は、大聖堂で、大々的にセレモニーが開かれる。その後、聖女候補者たちが、パレードで、お披露目に出ることになっていた。そのルートは、デルタの頭にきちんと入っている。
「そうなんだ。聖女のパレードに参加か……そう言えば、知っているか白?今度の聖女候補の中には、あの、銀翼の聖女って異名を持っている聖女がいるんですって。認定式の時に、銀翼の天使が、その聖女を祝福に訪れたって言われているの。その時から、皆に一目置かれているみたいね」
「ええと、私は、田舎の出身なのでそのことは知らなかった――デス」
デルタは、わずかにミーラから視線を逸らしながら、顔色を悪くした。
「ふふ、なんだか、とっても不思議。その銀翼の天使は、その聖女候補生にただ会いに来ただ――」
その瞬間に、ミーラの顔から、一瞬にして血の気が引いた。どうしたのだろうと、デルタが振り返ると、そこには、あの小柄なメイドが立っていた。
「お茶のお替りで、お伺いしました。よろしいでしょうか?」
「ええ、よろしくお願いします。ミーラさん。」
「え、ええ、よろしくお願いします。ええと、……。」
デルタは、一気に縮こまったミーラを見て、わずかに疑問に感じた。ただ、名前を知っているから、この店員と知り合いなのだろうと考えると、それ以上考えるのを止めた。
そこから後は、他愛のない世間話と商人街での流行りについて、ミーラから教えてもらったデルタは、滞在中に、是非に行こうと心に誓うのだった。
「今日は楽しかったです。でも、良かったのですか?」
「ええ、迷惑をかけたのは私の方だったし。私も、生誕祭を見に行くつもりだから、それこそいい縁ね。もし会えたら。もっと、お話しましょう。約束よ。」
その後、ミーラは、デルタの分まで含めて代金を払ってくれた。代金は、当然オルテガが支払う予定になっていたが、それを見て、オルテガは、一歩引いた形にした。
「楽しかったみたいだな。どうだった?」
「うん。知らない人と話すのって楽しいことなんだって、久しぶりに思った。ああ、グリフのお土産話楽しみだな」
「ああ、俺も楽しみだが……デルタ、気を付けた方がいい。あいつは、何か隠している」
デルタは、人ごみの先で連れ合いと合流し、馬車に今にも乗り込もうとしているミーラを見た。
『ああ そうだったな イハーブがあまりにも楽しそうだったから 言いそびれていた あのミーラという対象からは 未知のエネルギーを感知していた おそらくそのほとんどは偽装に使われている 』
「偽装?」
その言葉に反応したのはオルテガだった。
「ああ、そうか、確かにデルタでは気が付かないな。あの身のこなしと注意力。あれは間違いなく見たとおりの令嬢じゃないな。少なくとも戦闘を相当にこなしている。と、俺は見るね」
『そうだな オルテガの言うとおりだ それに加えて 本来は偽装工作に反応しないはずの 質量計 重量計系統のセンサーがすべて異常数値を出していた 』
そっと、デルタはミーラの乗った馬車を見る。まるでタイミングを計ったかのように、ミーラが窓を開け、手を振ってきた。
手を振り返したデルタは、その時確かに見た。あの時の女性が、少し怪訝な顔をしながら目の前の板を触っていた。その視線は、デルタを捕らえていなかった。そう思った時、その女性が、ほんのわずかにデルタに視線を向け口を開いた。馬車がゆっくりと走り始める。
『あえるのを たのしみにしている か』
その時だった。夕方を告げる一つ目の鐘が高らかに空に響き渡った。
「夜が来るな。さて、帰るとしよう。」
うんと、デルタは頷きオルテガの後に着いて、その場を後にする。皆が帰る準備を始め、商店が夜の到来を待つように店じまいを始めた。
3回目の鐘が鳴り、人通りが途絶えた大通りに、ただ一人、佇んでいる人物がいた。深くローブに顔を隠しながらも、その喜びを隠しきれていないようだった。
「ふっふっふ。まさか、意外な因縁とこのような形で再会できるとは。……まさに、今日という日にわざわざ出てきたかいがあったというものです」
そう呟くと、少し考えるようにあごに手を当てる。
「さて、あのデルタとかいう実験対象。一人程度私でも容易ですが、ここは、彼にも挽回のチャンスをあげるとしましょう。
レディスパーダが嗅ぎつけてきたら厄介ですからね。ただ、今日は仕事としましょう」
ふっふっふと、人物は笑うと、その後ろに、獣が現れる。それを愛おし気に撫で上げ、懐から短刀を取り出す。
4回目の鐘が鳴る。人が獣の腹に還るための、儀式の時間が始まる。
A meeting by chance is preordained. 訳 袖振り合うも多生の縁。(直訳で、偶然の出会いは前もって定められている。とあったので採用しました)




