戦闘姫に新しい日常を 2
「あれ?デルタじゃない?久しぶり。帝都に帰ってきていたの?」
デルタがその惨状に驚いているところに、後ろから聞いたことがある声がかかった。デルタは、驚きながらも、最低限の動作で、装いを取り繕う。
「……お。お久しぶりです。ええと」
「あら、あんなに、仲良くしてくれたのに、もう、仲間外れ。もう、デルタったら、あっちからこっちで忙しいのわかるけど、もう少し社交性も必要よね。まあ、あなたの立場的に必要がないって言われているのは、こちらも理解しているつもりだけど。」
そこにいたのは、アマンダだった。いつものように受付嬢の服装に、胸元の赤い光が、眩しく感じる。そのままに、無遠慮にアマンダは、じりっとデルタとの距離を詰めてきた。嫌悪感にも似た、やりづらさをデルタは感じながらも、すでに、停止線一杯にいたデルタは、そのまま、何とか持ちこたえた。内心では、そのアマンダの行動に悪態を吐いていたが、
『あまり本気になるな。デルタ。相手のペースにのまれるぞ』
「うん。ええと、」
「ふふっ。必死になって、冷静になろうと思ってる。そう言うところがかわいいんだよね。デルタ。見えているんでしょ?この惨状。」
図星を当てられて、うっと、言葉に詰まったデルタは、アマンダの視線を追う。その視線は、壊れた屋根の隙間から見える……空へと続いていた。
「……少し独り言。或る世界の住人は、空を恐れていた。その住人たちは、雷が走り、雨が降るだけで……大地をその雨がかければ、その自らが信じる者すらあっけなく手放し、空に赦しを乞うた」
「アマンダさん?」
不意に始まったアマンダの独白を、デルタは、疑問を挟んだが、その言葉は止まることはなかった。
「だからこそ、彼の世界では、人は――人が人であるために……神に勝ちうる証言と証拠を求めた。彼のプリンシピア然り、ガリレイ然り。……そして、彼の命名主であり、彼が信望する、コペルニクス然り。ふふ、デルタ、あなたは知らないのよ。空の欠片であるあなたとは違う。その世界、そして、この世界で、如何に、人が、空を恐れているのかを。」
微かに、わずかにアマンダの言葉に、悔いる様な言葉の漢字があった。そして、その誰かを守るような気配も。でも……、でも、それは、私も同じだと、デルタは、声を上げた。
「でも、わたしは、信じます。この世界の信じる空が……空が、」
デルタの心の中に響くその声は、空に憧れて、空を駆ける。そう、故に空は、そう言う人が好きなんだと。
「そう、デルタ12。空は、自由なんかじゃない。でも、違う。それであっても、空は自由なんだ。だから、あなたが女王になる。
女王よ、空を、空に生きるすべてが……」
「私は、そうでも、自由だ……そうなんだと信じています。空は」
だからこそ、そう感じた。デルタの唇から出たのはわずかにそれだけの言葉。その言葉を聞いて、アマンダは、デルタに見えるように、少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべた。その笑みの意味することを今のデルタは知る由もなかった。
「ええ。そう。自由。ごめんなさいね、少し昔のことを思い出して、意地悪な話をしたわね。戦闘姫。さて、ゼクスマキナ」
『今度はこっちか? 全く 人使いが荒い』
「退屈より、ましと思って。ゼクスマキナ。貴公に問いたい。今の女王をどう思う?あなたに聞きたい。きっと」
『アマンダ 戯れは止してくれ その事に問題はないと言ったはずだ デルタ――いや イハーブには 何の問題もない』
ゼクスマキナの言葉に思わず、デルタは、無言で頷いた。その言葉に、なぜか……なぜかアマンダさんは、悲しそうで苦しそうな表情を浮かべた。それは、始めてみる表情だった。
「わかった。うん。この話は止め。……イハーブ、こんなところで見る空だけど、本当にいい空ね。もう少し見ておきましょう。」
なぜか、アマンダさんの言葉に逆らうこともできずに、空を見た。その日は、無風で飛ぶことができなのならば、きっと、そう、……もしかしたら、楽しい日になっていたのかもしれない。そう思うことができて、そう感じることができる空だった。
「ごめんなさい。私の都合で、こんな……こんな無益な闘いにあなたたちを巻き込んでしまった。でも、償いは、必ずする。それまでの間、せめて、あなたたちの力を貸してほしい。」
空を見上げるデルタの耳朶に、わずかに聞こえたその言葉を、ゼクスマキナは聴き取ってくれた。でも、私にとってそれは、意味すら分からない単語の羅列に過ぎなかった。
「大丈夫です。アマンダさん。」
「大丈夫?デルタ何を言っているの?」
拍子抜けしたアマンダさんに、私が返せるのはこれくらいだ。
「私、結構ここまで来るのに苦労したんですよ。大変だったんです。1日くらいは語れるかなって思ってます。……って。あ。でも、機密事項が多くて語りたくても語れないです。それに、なんでわかったんですか?私、アマンダさんと会ったときは、戦闘姫でした。それじゃあ、私ってわからないですよね。」
デルタの言葉に、アマンダは微笑んだ。
「ええ確かに。始めまして、戦闘姫。でも知っている。戦闘姫の中は、デルタ12・イハーブ。無垢なるその身に女王の肉体と力を預けられしもの。とっても、頑張り屋さん。
じゃあ、自己紹介。私は、アマンダ。王都シャンダラで討伐ギルドの受付嬢をしているわ。シャンダラはいいところよ。最も、今来ることはお勧めしないけど。でも、貴女に出会えてよかった。初めまして。」
「ええ、先ほどは失礼しました。アマンダさん。私のことは、デルタと呼んでください。ええと、アマンダさんは何でここに?」
アマンダは、デルタからそっと目線を離した。その視線は、はるか天の彼方へと注がれている。アマンダの視線を追うように、デルタも視線を上げたが、そこには、この世界の見知った空、そう、青く、蒼い空以上のものは、終ぞ眼に捉えることもできなかった。
「ふふ、今日はいい天気ね。「あの蒼空 極はいずこであろうのう」
って。たしか、北中国の、昔の超人が残した言葉。でも、今日のような天気なら、確かに辿ってみたくなるのもわかるけどね。
本当ならもっと話したい。
残念なことに、デルタには、待ち人来る。」
「おーい、イハーブ!」
「あ、オルテガさん!は~い。
あの、アマンダさん。最期の方は、話が、……む――」
デルタが、振り向いた先には誰もいなかった。そして、誰もいた形跡がなかった。
「あれ?ゼクスマキナここに、」
『うん? すまない デルタに依頼されたこれからの改造計画資料の作成で 中枢機能は 手いっぱいだった 誰かいたのか?」
「あれ?おかしいな?アマンダさんがいたと思っただけど。」
『アマンダなら 少し前に 近況に関わる簡単な挨拶をして別れただろう? どうした デルタ らしくないぞ』
腑に落ちない表情を浮かべたデルタだったが、再び、オルテガの呼ぶ声が聞こえ、迷いを振り払ってその方向へと駆けだした。その姿は、雑貨屋の店内に消えていく。それを見届けた人物は、耳に手を当てた。
「目標は、店内に移動しました。ええ。ご心配なく。ここの店主は私達の味方で、事前の根回しは万全です。対象を目的地へ誘導してくれます。了解。通信オーバー」
「それから一言言ってきますが、対象とあなたは、知り合いですが、別に親しくないです。むしろ初見ですからね。いつもより、30匹は猫を被ってください。え?緊張のしすぎて心臓が口から出そう?
あなたの肉体構造として、心臓が口から出すことが可能だとは知りませんでした。是非に研究を……。
え?もういい?ふふ、冗談ですよ。図太いあなたでも、緊張することがあるのですね。
……そうですね。いつものあなたで行けばいいのです。相手もきっとわかってくれます。
レディスパーダ。あなたはもう一人ではありません。自信を持っていきなさい。
さあ、がんばって!」
次回まで日常回になります。




